ハルとバトラー
アルクがコテージへと招かれて、初日の夜。
「すっかり、寝てしまわれてますねぇ」
はだけた布団を掛けなおしたバトラーが、アルクの寝顔を見ながら愛おし気にそう呟いた。
『カールに扱き使われていた疲れもあるのろう。アレは、ラッドやマーサに似ず、幼き頃より性根が歪んでいたからな』
苦々し気にハルはそう言い捨てる。かつての所有者である者の息子を悪くは言いたくはなかったが、そのせいでアルクがその年齢に似つかわしくない苦しみに喘いでいたのを見ると、忸怩たる思いが自然と湧いて出てしまう。
「マーサ様やテッド様は残念でしたねえ」
『ああ。我々は何もしてあげることが出来なかったからな』
バトラーが心底悲しそうな様子でそう呟くと、ハルもその意見に心底同意する。マーサはラッドの死後、契約が切れ声の聞こえぬハルに常に近況を伝えてくれていたのである。そのなかには息子のテッドやその妻が流行り病で,容態がよろしくないという内容も含まれていた。
それを聞き、ハルはテッドやカール、その息子のアルクやピギーがは自分の言葉を聞く適性を持ち、契約を交わしてくれるのを切望した。そうすれば、アイテムボックスに収納してある医薬品でなんとか出来ると思ったからだ。しかし、現実は非情であった。誰一人ハルと契約できるものはおらず、ラッドの息子のテッド、そしてその妻、最後にマーサが同じ病で斃れてしまった。慟哭の日々の中で、ついにアルクがハルと会話を交わしたときの悦びは、いままでの長い年月のなかでも格別のものであった。
「でも、アルク様と無事契約できて本当によかったですねえ。また、賑やかな日々が始まるんですねぇ」
バトラーが恍惚の表情を浮かべて、そう呟く。執事妖精のバトラーにとっては、仕えるべき主がいることが、なによりもの幸せなのである。
『ああ、そうだ。そして次は絶対にこの子の生を、私が幸せの中で終わらせて見せる。ラッドのような結末には決してしない。例え、どんな手を使ってでも、どんなことをしてでも、絶対にだ』
明るく屈託のない前回の所有者。決して、決して志の半ばで命を失っていい者ではなかったはずだ。その喪失の痛みは、いまだハルの心の中にしこりとして残っている。
『必ず、絶対にだ』
そんなハルの決意の言葉に、バトラーは唯静かに耳を傾け、頷いた。