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少年と剣  作者: 編理大河
冒険者たち
106/109

隠し古城での戦い5


「うそでしょ⁉」


 その巨体が悠然と進む様を、ライムは呆然とした様子で眺めている。それはここにいる全員が同様であった。突然のドラゴンの出現に皆度肝を抜かれてしまっている。それ程にこの事態は想定外であった。


「あれも地下にいたのかな」

『だろうな。岩を削り、無駄にでかいトンネルを作っていたのも、あれを通すためのものだったのだろう。人が通るだけならあれ程大がかりなものは必要ない筈だからな』


 普通なら気付ける筈もない程の小さな入り口だったはずの場所。それを拡張したのは目の前のドラゴンのためだったのだ。あれを使ってアデルハイドへの急襲を行えば、確かにかなりの打撃を与えられることだろう。


『あれは所謂レイドボスというやつだ。巨体なだけに討伐では、ギルドは大人数での編成を推奨している。ちなみにあれはランドドラゴンという。討伐ランクはA級だ。強さはA級とまではいかないが、耐久力が桁違いなため、そうランク付けられている』


 ハルがランドドラゴンについてそう説明してきた。アルクは遠くからでもわかるその巨体を見ながら、何も言えずにただ黙って頷く。


「といっても、ドラゴン種ではないんだけどね。火も吹けないし大きなトカゲみたいなものよ。テイムしたのかしらね」


 その中でヨルカだけが慌てる様子もなく、のんびりとそう呟く。飛びぬけた実力者のその堂々とした態度に、周囲は少しばかり安堵の溜息をつき平静さを取り戻した。


「勝てるんですか?」

「ええ。ラカンと二人の時で何匹も狩ったわよ」


 後方より駆け寄ってきたパナシェとロゼ。パナシェの質問にヨルカは平然とそう答える。それを聞き、おぉと周囲から賞賛の声が上がった。


「流石ですね」


 ロゼも流石とばかりに頷く。


「でも、今はラカンさんがいないにゃあ」


 そんな中、カシスが言いにくそうにしながらもそう指摘した。再び気まずい空気が流れだす中、アルクはここぞとばかりに前へと出る。自分達だけでは自信などないし、ラカンの代わりが務まるとは思えないが、それでもヨルカのサポートなら出来るのではないか。


「僕たちが一緒に戦います。どこまで出来るかわからないけど」


 ヨルカはアルクの申し出に少しばかり悩む素振りを見せる。


「そうね、あなたたちのバックアップがあればいけると思うわ。私一人で相手をするのが一番いいんでしょうけど」


 少しばかり困った顔をしながらも、ヨルカはそう言って微笑んだ。それは彼女なりの優しさなのだろう。その表情に、自分一人で戦う方がやりやすいという思いが浮かぶのを、アルクは見逃さなかった。だが、自分たちのプライドも考慮したうえで一緒に戦うと言ってくれたのだろう。


「いえ、ヨルカ殿だけに戦わせてしまったら騎士の名折れになります。微力ながら私もお手伝いいたします」

「そうですよ。オイラ達全員で戦えばきっとなんとかなります」

「ヨルカ姉だけにいい思いをさせるわけにはいかないしね」

「さっさと皆でサクッと片付けるにゃん」


 皆の申し出に笑顔で頷くと、ヨルカは敵へとその視線を向ける。


「では、やりましょう。皆、来るわよ」


 ヨルカはそう言いながら、背負った矢筒から一本の弓を取り、弦につがえて精一杯に引き絞る。構えた弓に風が集い始め、その勢いは徐々に強まっていく。そして、森の中を駆ける巨体がその全容を現したとき、皆が息を呑んだ。


「あのドラゴン、甲冑を⁉」

『それに人が騎乗しているな。どうやら本当にテイムしたらしい。雑魚モンスターならともかくあのレベルをテイムするとは大したものだ』


 ドラゴンは悠々とその巨体をアルク達の前へとさらすと、ブルリと体を震わせ、そしてアルク達の下へと駆け出してくる。巨体ながらに一瞬でトップスピードに乗るその俊敏さに、身構えるのが遅れてしまう。だが――


「GURUA」


 凄まじい突風がヨルカを中心として吹き荒れる。風を纏った強弓を受け、ランドドラゴンはその頭部を大きくのけ反らせた。


「凄いっ」


 あの巨体が難なくのけ反らせるその威力にアルクは舌を巻く。


「まだよっ、兜で受けたわ。よく訓練されてるわね」


 その言葉が示す様に、ランドドラゴンはすぐさま姿勢を立て直すと、再び吶喊しこちらへと突撃してくる。


「なら次はあたしがっ」


 ライムが精霊を行使し、動き出す前の足を四つとも、幾重にも蔦が覆い尽くした。だがその巨体から生み出されるパワーはなんなく蔦をぶちぶちと引きちぎってしまう。


「ああっ」

「お次はカシスがやるにゃん。サンダーストーム」


 落胆の声をあげるライムの横からカシスが杖を掲げて魔法を放つ幾重にも放たれた雷撃の渦がランドドラゴンを襲う。しかし――


「マジかにゃ」


 ぐっと踏ん張りそれに耐えたランドドラゴンは、全身を前へと進める様子をやめない。魔法を喰らう前に飛び降りたらしい敵兵が隣からこちらへと叫ぶ。


「馬鹿めっ! このドライは特殊な訓練と装備をし魔法耐性も万全だ。そこいらのランドドラゴンと一緒にするな。いけッ、ドライ! あのガキどもを駆逐しろ」


 そうランドドラゴンに命令しながら男は森の中へと駆け、その身を隠した。ドライと呼ばれたそのランドドラゴンは、体を低く伏せながらアルク達の下へと迫ろうとする。


「ハルっ、行くよ」

『ああ、オーバーブレイクだな』


 それを迎え撃たんと権能を発動すると、途端に心臓の鼓動が早まり、世界が自身に収まるかの如く縮まっていくのを感じる。そして脳裏には各種の文字と数値が鮮明に浮かび上がってくる。今までの経験から、それが自身の能力に直結しているのを本能的に理解したアルクは以前より考えていた試みを一つ実行する。


(今欲しいのはまず速さ。この中で必要なのは……)


 そう思った瞬間、本能的にAGIの数値を選んだアルクは目を瞑り強く念じる。


(上がれッ!)


 すると瞬く間に、数値が上昇し始め、体がとても軽やかに感じられるようになっていく。どうやら成功したらしい。


「うん、いけるっ」

『驚いたな。もうそんなところまで……』


 驚愕するハルの声を聴きながら、アルクはドラゴンへと駆け出していく。軽く駆け出したはずが自身の全速力よりも遥かに速いスピードへと一瞬で到達し、すぐさま敵の足元まで距離を詰めてしまう。それは敵も想定外だったのか、ドラゴンは慌てた様子でその牙で噛みつこうとするが、あっという間に駆け抜けたアルクの俊足に敢え無く空振りしてしまう。


(お次は)


 股を潜り後ろ足へと近づいたアルクは、今度はSTRを上昇させる。そして駆け抜けると同時にその後ろ足へと横薙ぎの一撃を繰り出す。


「GRUAA⁉」


 強化された攻撃は致命的とは言わないものの、浅くないダメージをドラゴンへと与えた。筋力だけでなく、ハル自身の切れ味も増しているように思える。そして切りつけた足から鮮血を噴出させ苦痛の声をあげるドラゴン。しかし、闘志は衰えないらしく、俊敏に反転すると立ち上がりながら前足でアルクを押しつぶそうとする。


「GYAU⁉」


 しかし、すぐさま攻撃動作を辞め、再び呻くと共にその前足を下すドラゴン。その装甲の継ぎ目には一本の矢が深々と刺さっていた。


「大丈夫? アルク君」

「ヨルカさん、ありがとうございます」


 アルクはヨルカの援護に感謝する。そして、相手が後衛に迫らぬようにAGIを上昇させ、再度ドラゴンへとアタックを開始する。後ろからヨルカ、カシス、ライムの援護を受けながら立ち回る。ずっと攻勢であると思ったが、少なからぬダメージを与えても怯まぬ相手に少しばかり息が切れてきた。ハルの事前説明どおり半端ない耐久力だ。そんな中でハルがさらに悪い情報をアルクへと告げる。


『アルク、言い忘れてたがこの権能の使い方はかなり使用時間が縮まるぞ。決着をつけるなら早目がいい』

「ええっ、早く言ってよ」

『すまん、戦闘中に集中を切らしたらまずいと思ってたらここまできてしまった』


 ならば、オーバーブレイクが切れる前に必殺技で片を付けよう。そう思い、援護を頼もうと後方を振り返るとパナシェが真剣な表情でこっちに向かって叫ぶのがみえた。


「アルク―、ヨルカさんちょっとここを離れるからすこし踏ん張ってだって」

「えぇ……」


 確かに気付くとヨルカの姿が見えない。逃げたとは思わないし何か思惑はあるのだろう。しかし、いつオーバーブレイクが切れるかわからない状態でいつまで持ちこたえられるだろうか。アルクの弱気を見て取ったのかドラゴンはその全身を真っ赤に染めながら、最大の咆哮を上げその尾を大地へと強く叩きつけた。



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