孫策の知恵
徐州の城を次々に攻略している孫策軍
その先頭にいる孫策は前だけを見ていた
「しかし、オレが生きていたと知って、曹操も袁紹も驚いてるだろうな」
「そうでしょうね。最初は私も驚きましたよ」
孫策の問いかけに周瑜が答えた
「葬儀が終わった後に貴方が現れた時は、驚きましたよ」
「だろ?敵を欺くには味方からって言うからな」
「それにしても、私や弟の孫権様まで騙すとは…」
半年前、孫策が刺客に襲われ負傷した後、孫策の病状は悪化するばかりであった
江南の名医を集めても回復せず、その死を待つのみであった
そして、孫策が死んだあの日、と言っても本当に死んだわけでは無かった
医者に死んだと言わせ、皆が悲しんでいる隙に身代わりと入れ替わり、ずっと城の一室に潜んでいたのだった
もちろん、この事が知られないよう、死んだと言わせた医者を殺害し口を封じたし、世話をさせた兵士も次々に殺した
孫策は、自分が生きていることを誰にも知られないよう徹底した
(全ては曹操に勝ち、袁紹に勝つために)
そう言い聞かせて、ひたすら潜み続けたのである
孫策が周瑜の前に出てきたのは、官渡の戦いが始まって少したった事であった
ある晩、周瑜が自室に戻ると
「周瑜、元気だったか?」
椅子に座り、酒を飲んでいる孫策がいた
「……」
言葉にならなかった
自分は幻を見ているのだ…疲れているんだ
そう思った
「なんだよ!そんな顔して。ほら、酒でも飲もうぜ」
声も聞こえるし、足もある。透けているわけでもなく、酒を持っている
「本当に…本当に孫策なのか?」
「当たり前だろ!天下取るまでは死ねねえよ」
周瑜は嬉しかった…孫策が生きていた。これで天下を目指せる
二人は、この半年間の事と、これからの事を話した
「しかし、急に俺が出てきた時の皆の驚いた顔といったら…今でも笑えるぜ」
周瑜が徐州攻略を進言した時、孫権を始めとした家臣全員が反対した
「馬鹿な!今更徐州だろ?まずは、この江南を固め、次いで荊州の劉表を攻めるべきだ」
「そうだ!例え荊州が我らに備えていたとしても、今の軍事力なら叩ける」
家臣の意見はこうであった。その時、
「俺は周瑜の意見に賛成だ!」
孫策が大声をあげて現れた
「と、殿?」
誰も上手く言葉が出なかった
「徐州を一気に取り、曹操を叩き、帝を保護する!出陣は明日だ!文句は無いな」
あまりの勢いに、誰も反論できず返事をしてしまった
その後、偽物では?との声も出たが、その疑惑を払拭するのに、時間はかからなかった