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三国志1  作者: 黒い花火
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官渡城塞の軍義

「いつまでこんな所に留まってるんだろ?」

「知るかよ。曹操軍は居なくなったんだから、俺たちも冀州に帰りたいよな」

最近、兵士たちの愚痴ばかりをよく耳にする。

(なんとか不満を押さえなければ)

手に入れたばかりの官渡城塞を歩きながら袁譚は悩んでいた。

官渡の戦い後、父・袁紹に対して留まるように進言し、前線の指揮も兄弟で行うと言ってはみたものの、実際は何も考えが無かったのである。

冀州に帰ってしまえば、今までと同じ退屈な日々が戻ってしまう。

それが兄弟達の思いだった。

「兄上!」

末っ子の袁尚がやってきた。

「おお、どうした?」

「劉備殿が兄上にお話しがあると言っているのですが」

その名前を聞いた袁譚は苦い顔をした。

(劉備か…)

袁譚は劉備が嫌いであった。

「とにかく、幕舎までお出でください」

「分かった」


「袁譚殿、お待ちしておりましたぞ」

「遅くなりました。それで、何のご用で?」

挨拶もそこそこに、袁譚は話を切り出した。

「官渡城塞を制圧してもう一ヶ月になります。今のところ、曹操軍に目立った動きは無いようです。そこで、先手を打ってはいかがでしょうか?」

「先手も何も、我が軍も疲弊しており、戦力…とりわけ、兵糧が不足しております。とても攻める事など難しい状況です」

劉備とて、袁紹軍に兵糧が不足している事は知っているはずだった。

「はい。ですから、我々が徐州に攻め、曹操軍が動いた隙に、官渡の本隊を進軍させるのです」

さらに、

「そのために、兵をお借りしたいのですが…」

袁譚は返答に困った。

仮に成功すれば、大きく進軍出来るし、失敗しても劉備が死ぬだけ。

そう考えたら、袁譚にとって悪い話では無いように思えた。

「劉備殿、父の元に行きましょう」

この際、劉備を官渡から追い出す。

そう決心した袁譚は、劉備を連れて袁紹の元を訪れた。


袁紹の前で、劉備が自分の考えを述べ、それに袁譚か賛成する形で話は進んでいった。

「確かに。劉備殿は徐州の州牧。民からの信頼もある。劉備殿が徐州に行けば、曹操軍から離反する者も続出するかもしれんな」

「では…」

「だかな、仮に徐州を取った場合、その後はどうするのだ?」

袁紹の表情が険しくなった。

袁紹配下の劉備として徐州を攻めるのか、劉備軍として徐州をとり、そこを基盤に独立し勢力を拡大するのか。

袁紹はそこをはっきりとさせたかった。

「それは…」

劉備は言葉に詰まった。

本心は独立したかった。

漢王朝の復興を目指している劉備としては、新たな王朝の創設を目指している袁紹は敵だった。

しかし、正直に話せるわけもなく、

「もちろん、袁紹軍として徐州に向かいます」

そう言うしかなかった。

無論、曹操を倒し漢王朝を救ったあとは、袁紹を倒すつもりでいる。

(チャンスはいくらでもあるはずだ。今は耐えるとき)

そう自分に言い聞かせた。

「良かろう。袁譚、劉備に兵一万を貸し与える。直ちに準備せよ」

劉備の言葉を丸々信じたわけではない。

袁紹も、最後には劉備を倒さなければと思っていた。

しかし、今は劉備を利用して勢力を拡大するのが先決と判断した。

「一万となると、十日お待ち下さい」

袁譚は必要最低限の兵糧と、良く不満を言っている兵士を多く集めた。


「兄者!いよいよ徐州に帰れるんだな」

出陣の前夜、相変わらず酒を飲んでいる張飛は笑っていた。

「しかし、よく袁紹が許可してくれましたな」

対照的に冷静な関羽。

「こんなにもあっさり許可が出るとは、拍子抜けだよ」

得意そうな顔の劉備。

「まずは徐州を制圧して、袁紹と協力して帝をお助けする。そして、袁紹を逆賊として討ち取れとの詔勅を出してもらえば完璧だ」

三人とも明け方まで酒を飲み、今後について語り合っていた。

そんな劉備の野望は、あっさりと打ち砕かれる事となる。


「では袁紹殿、我々は徐州に出陣して参ります」

翌日、準備を終えた劉備は、袁紹に別れの挨拶をしていた。

「徐州制圧後は、私の息子の誰かを行かせる。今後の指示はそのときに聞いてくれ」

「はっ」

劉備は一礼して幕舎を後にした。

関羽・張飛の二人を従えて、一万の劉備軍は官渡城塞を後にしようとした、まさにそのときにだった。

「殿!一大事です」

徐州方面に放っていた密偵が駆け込んできた。

「何事だ!」

「はっ!徐州の曹操軍が、突如として北上してきた孫策軍に強襲され、徐州の大半を占拠されました!」

孫策、その名前を聞いた者は、何かの間違いでは?という顔をした。

「あり得ぬ!孫策といえば、暗殺されたのでは無かったのか?」

劉備は崩れ落ちた。

官渡の戦いが始まってすぐ、孫策暗殺の報告を受けていた。

事実、江南の統治は弟の孫権が行っており、孫策の死亡は疑いようも無かった。

官渡の戦いに合わせて、曹操を攻撃する動きを見せていたが、孫策暗殺をきっかけに進軍を中止し、江南に引きこもってしまっていた。

「生きていたのか…そんな」

誰も劉備にかける言葉が見つからなかった。

結局、劉備の徐州進行は中止され、袁紹軍は官渡城塞に引きこもる事になってしまった。



同じ頃、許昌の曹操は怒り狂っていた。

「孫策に徐州を奪われただと!馬鹿な!守備隊は何をしていたのだ!」

「報告によりますと、かつて殿が行われた徐州進行を上回る程の進軍の速さだったとか」

荀攸が報告した。

「忌々しい袁紹が官渡に居座り、孫策ごとき若造に徐州を奪われるとは…」

「殿、あえて孫策と和睦を結び、先に袁紹を討つべきです」

「孫策ごときと和睦だと?馬鹿馬鹿しい!殿、まずは孫策から徐州を取り返しましょう!」

「いやいや、孫策を若造と呼ぶのは危険です!江南の一大勢力、侮れませんぞ!」

孫策と和睦を結び、袁紹を討てと進言する文官達。

まずは孫策を徐州から追い出すと言い張る武官達。

曹操軍の軍義はまとまらず、結論が出るのには、しばらく時間がかかりそうであった。





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