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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

夢を食うひと

作者: 益田 つばぱな

 春休みも終わり、桜の香りが漂う新学期。

 新学期早々、僕の心には不安の二文字が広がっていた。

 教室の窓から空を仰ぐ。


「おい、ユウ!どうした?切ない顔で空なんか見て。変なもんでも食ったか?」

「違うよ、タッくん。新クラスの担任だよ。知ってるだろ?」


 ユウとは僕のことだ。白峰(しらみね) ユウタ。高校二年生だ。

 そして、タッくんとはクラスメートで幼馴染の黒田(くろだ) 拓馬(たくま)。家が隣で、昔からよく遊んでいた。今でもあだ名で呼び合う仲だ。


「お前、そんなことで悩んでんのか?あんな話、ただの噂に過ぎないだろ。」


 拓馬が笑いながら小バカにしてくる。

 正直、ウザい。


「タッくんはいいよなあ。僕もそのメンタルが欲しいよ。」


 僕らの新クラスの担任は、良い噂を聞かない。

 この学校では恐ろしいことで有名だ。

 しかし担任を持つのは6年ぶりらしく、生徒は誰もがその実態を知らなかった。


「しかし、6年前の話がよく今も続いてるなぁ。ユウっ!噂が本当か調べてみようぜ!!」


 タッくんは正直言ってバカだ。

 でも、それが良さだと僕は知っている。


「絶対に嫌だ!!なんで僕も調べなきゃいけないんだよ。」









 それは、8年前のことだった・・・

 

 僕の通う高校、「私立桜木開聖高校」(しりつさくらぎかいせいこうこう)に一人の国語科の先生がやってきた。

 野市(のいち) 純子(じゅんこ)  34歳

 他の高校からの移動だった。

 

 桜木開聖高校は県内で屈指の進学校として知られている。そのため、一流の先生が揃っていた。

 もちろん野市先生も、難関校として有名な国立大学を出ている一流の先生だ。


 野市先生は一年目にして担任を受け持つこととなった。


 野市先生が受け持ったクラスは、面白いぐらいに成績が伸びた。

 そのため、彼女の存在は学校内で一目おかれていた。


 その実績から野市先生は翌年、3年生のクラスを持つことになった。

 もちろん成績はぐんぐん伸びていった。


 しかし、成績が伸びる一方で不可解なことがあった。

 成績と反比例して生徒の精神が狂いだしたのだ。

 なかには部屋から一歩も出なくなってしまった生徒もいたらしい。


 そして、生徒の進学実績は誰もが予想できない結果となった。


 その年も桜木開聖高校は、国立大、一流私立大、医学部など例年通りの実績を残した。

 しかし、野市先生のクラスは違かった。

 当時30人いたクラスのうち大学進学したのは・・・


 わずか12人だった。


 受験に失敗して浪人したわけではなかった。

 クラスの大半が受験すらしなかった。


 その時、生徒の精神は崩壊しきっていたという。


 それは、生徒の精神力の問題なのかもしれない。

 しかし、その出来事から学校ではある噂が広がった。



 野市 純子は生徒を洗脳していた・・・と。










「ま、俺は洗脳されないけどなっ!」


 拓馬の顔にはでっかく余裕と書いてあるように見えた。


 新学期初日の帰り道。僕の表情にも普段の豊かさが戻ってきた。

 正直怖かったものの、新クラスでのホームルームで安心した。

 クラス発表の時は担任が野市先生だと知って、恐怖と不安で胸がいっぱいになった。

 しかし、案外普通の先生で(いや、むしろ優しそうだった)気持ちが楽になった。





 家に帰ると家族の、「おかえりー」の声を浴びながら自分の部屋に向かった。

 新学期というのは不思議と真面目になる。

 部屋に入ったら荷物を置き自分の机にまっすぐ向かった。


 椅子に座ると今日一日の疲労がいっぺんに来た。

 久々の学校、それも新クラスだったため変に緊張していたのだろう。


 机に今日出された課題を広げる。

 まぁ、課題と言っても自分のプロフィールを書いたり、教科書に名前を書いたりと新学期恒例の行事だ。

 その中でも、ある紙が目に入った。


 進路希望調査だ。


 僕には夢がある。医者になることだ。

 医学部に進学する為にこの学校を選んだくらいだ。

 そのぐらい僕にとっては大事な夢だった。


 そして、ぼくは進路希望調査に国立大医学部と記入した。





 学校に向かう制服を朝日がてらす。

 僕の隣を歩く拓馬は眠たげに欠伸をした。

 どうせ夜遅くまでゲームをしていたのだろう。大体想像はつく。


「進路希望調査、なに書いた?」

「あ、書いてねえや!ユウ学校まで走るぞ!!」


 拓馬に書いた前提で聞いた僕が間違いだった。

 拓馬は小学校の頃からの癖がなかなか治らない。

 宿題だの課題だのが出ると、いつも朝の学校で片付けるのだ。

 まぁ、どんなに難しい問題の課題がたくさん出ても悩むことなくスラスラ解くのには、天才肌を感じるのだが・・・。


 無事、拓馬はホームルームの時間までに進路希望調査を提出することができた。

 この進路希望調査をもとに明日からの二者面談を行うらしい。


「あぁ、二者面(二者面談の略称)とかまじだりぃ。俺、オバサンとか興味ないんだよねえ。」


 放課後の教室で拓馬はしょうもないことを抜かす。


「たしかに若い女の先生のが気は乗るかな。」


 僕は、拓馬のしょうもない発言に乗ってやった。

 正直、乗らないと後々「熟女好き」とか言われて面倒だからだ。


「あらっ!でもオバサンは経験豊富なのよ!!ウフフッ!」


 その瞬間体全身から嫌な汗が噴き出した。

 振り返ると、野市先生が立っていた。

 いったいいつの間にいたのか、僕にも、拓馬にも分からなかった。


「驚かせちゃった?フフッ、ごめんねぇ!」


 てっきり怒られるのかと覚悟したがとても怒っているようには見えなかった。

 むしろ陽気だ。


「せんせー怒んないのぉ?やさすぃー!!」


 拓馬のこういうところは本当に直したほうがいいと思う。

 先生に敬意はないのかっ!と思う。

 それに、「やさすぃー」って。先生ぐらいちゃんとした日本語で話せよ!と心の中で僕は注意した。

 しかし先生は・・・


「でっしょー!あ、あたしのことは先生って思わなくていいからねっ!!あたしは、みんなの第二のお母さん!!」

「おぉ!お母さん!!いいねいいねぇ!!」


 この二人は頭がおかしいのだろうか。

 

「先生はね、堅苦しいのは嫌いなのっ!だからお母さん。みんなの勉強のお手伝いをするお母さんなのっ!!白峰くんもお母さんって呼んでねぇ!!」


 なんで僕まで先生をお母さんって呼ばなきゃいけないのだろう。

 正直、嫌だ。

 しかし、この雰囲気の中「先生」と呼ぶ勇気もない。


「お、お母さん・・・。」

「はぁいっ!」


 その後も僕と拓馬と先生(おかあさん)の雑談は続いた。

 しかし、不思議と今まであった先生に対する壁がなくなっていった。

 こんなに先生と親しく会話をしたのは初めてだろう。


先生(ママー)、じゃあねぇ!」

「うんっ!タッくん、気を付けて帰るのよっ!

先生(おかあさん)、さようなら。」

「んもぅっ!ユウくんったら!!永遠の別れみたいじゃないっ!!ユウくんも気を付けて帰るのよっ!!」


 こうして僕らは野市先生(おかあさん)と親しくなった。





 次の日からは不思議と学校に行きやすくなっていた。


「いやぁ、いままでよぉ!学校とかマジでだるかったし行きたくなかったけど、楽しくなってきたよな!!」

「そうだね!僕も休みたい日とかあったけど、これからは皆勤賞も難なく取れそうだよ!!」


 あのめんどくさがり屋の拓馬ですらこの御様子だ。

 本当はすごい先生なのだろう。


 僕たちは、軽い足どりで学校へ向かった。





 今日の放課後から、二者面談が始まる。

 僕は、初日の三人目だった。


「ユウくぅ~ん!入っていいわよ~!!」


 少し前の自分なら恐怖で胃が痛くなっていただろう。

 しかし、昨日の一件から先生の見方が変わった。

 特別な緊張もなく教室の扉を開けた。


「失礼します!」

「ユウくん、落ち着いてリラックスしてていいからねっ!」


 野市先生(おかあさん)手元の資料(しんろきぼうちょうさ)を見ながら話をきりだした。


「ユウくんは医学部を受けるんだねぇ!頭いいんだっ!!」

「正直まだまだ学力は足りません。しかし、幼い頃からの夢なんで最後まで諦めません!」

「ユウくんったら素敵!!あたしも頑張ってサポートするねっ!絶対合格しよう!!」


 今までの先生の中で、これほど応援してくれる先生はいなかっただろう。

 まさしく、僕らのお母さんという感じがした。


 

 二者面談が終わると、僕は勉強に対するやる気で満ちていた。





 二者面談の全日程が終了した。


 たかが、5日間の二者面談期間の間にクラスの雰囲気はガラリと変わった。

 まるで、クラス全体が家族のようだった。

 野市先生を「お母さん」と呼び、野市先生(おかあさん)は生徒ひとりひとりに愛情をそそいだ。


 そして、クラス全体がやる気に満ち溢れていた。

 あの、拓馬でさえ・・・。



 そんなクラスの雰囲気で月日は飛ぶように流れていった。




 そして迎えた全統模試。


 僕は医学部受験のため、野市先生(おかあさん)と頑張ってきた。

 今までの僕なら、心が折れているであろう量の勉強をやってきた。

 毎日勉強を続けられたのも、全て野市先生(おかあさん)のおかげだろう。


 今までとは比べ物にならない勉強量をこなしてきただけあって、今日の全統模試は自信に満ち溢れていた。

 そこらの高校生・・・いや、全国の高校生の中でも上位に入れる「圧倒的勝利感」すらも感じたほどだ。


 感じていた・・・はずだった。


 模試の結果は、偏差値68。

 目標としていた偏差値70を越えることができなかった。

 僕は、頭が真っ白になった。


 そして、今までにないぐらいの「敗北感」「絶望感」を感じた。


 もう苦しくて、辛くて、どうしようもなくなった。

 頭がおかしくなりそうだ。


 僕は、必死に野市先生(おかあさん)の姿を探した。


 そして野市先生(おかあさん)を見つけ出すと、必死で頼み込んだ。


先生(おかあさん)!僕のどこがダメだったの?なんで・・・なんで・・・。」


 僕は、先生(おかあさん)にすがるように泣いた。


「ユウくん、あなたはよく頑張ったよ。でもね、ひとつだけ誤った行動をしてしまった。それは・・・わかる?」


 僕は首を横に振った。


「ユウくんは、もっと勉強できたんじゃないかなぁ?考えてみて?無駄な時間がなかった?」


 僕は、心を打たれた。

 それが敗北の原因だったのか・・・と。





 次の日から僕は、時間にムダを作らなくなった。

 それはまるで、電源を入れたら電源を切るまで無駄なく同じ動きをし続ける「工場のロボット」のように。


 朝は早く家を出て学校へ行くんだ。

 登校中は、英語のリスニングトレーニングをする。

 学校に着いたら授業開始まで授業の予習。

 休み時間は復習の時間。

 学校が終わると足早に家に帰って部屋で勉強。

 

 毎日がそんな生活だった。

 ただ一心不乱に勉強し続けた。


 そして、二回目の全統模試を終えた。


 しかし、全統模試に特別な感情はなかった。

 正直どうでもよかった。

 別に入試本番でもないし、出るのはわかりきった数字だけ。





 僕は、模試を呼吸をする感覚で解けるまでとなっていた。

 今回の模試の偏差値は78だった。

 しかし、喜びなどという感情は全くなかった。

 その時は、「早く家に帰って数学やらなきゃ。」としか考えていなかった。


 しかし、僕の想像もしないことが起こった。





 その日の放課後、僕は野市先生(おかあさん)に呼び出された。


「ユウくん。医学部は諦めなさい。」


 僕にはこの言葉の意味がさっぱりわからなかった。


先生(おかあさん)、なんで?どこがダメだったの?」

「はぁ?ユウタ、自分でわかってないの?」


 僕の言葉は先生(おかあさん)の逆鱗に触れてしまったようだった。


「医学部をなめんじゃねえよ!!お前ごときが医学部を受けるなんて世の受験生に失礼だ!!この身の程知らずがあ!!」


 僕は絶望した。

 自分が今までしてきたことは周りの人に失礼だったなんて・・・。

 さらに先生(おかあさん)は続けた。


「お前に学問の才能なんかねえんだよ!お前にはどこの大学も進学することができない!!なぜなら、お前は救いようのない知能のなさだからなあ!!」


 先生(おかあさん)の言うとおりだった。

 今まで自分は夢を見すぎていたのだ。





 この日を境に、僕は夢を見るのをやめた。

 自分は迷惑をかけないように謙虚にひっそりと生きていこうと決めた。



 誰にも迷惑をかけないように、存在を消しながらひっそりと・・・。

 


 誰の目にも止まらないようにひっそりと・・・。



 いつしか僕は部屋に閉じこもっていた。



 誰にも会わずに済むこの方法が、一番迷惑をかけないと思ったからだ。



 僕は、毎日部屋で世の人様にむけてひたすらつぶやいていた。



「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。・・・」



 こうすることで、自分の未熟さを許してもらおうと思ったからだ。



 そんなある日、母が慌てて僕の部屋のドアを叩いたんだ。



 どうやら、幼馴染の黒田 拓馬(タッくん)が死んだそうだ。



 部屋で自殺をしたらしい。



 タッくんったらずるいよね。



 世の人様に迷惑をかけずに済む最高の方法を見つけたのに僕に教えてくれないなんて。



 僕はこみ上げてくる笑いを我慢することができなかった。



 そして・・・





 僕は自殺した。

最後まで読んでいただきありがとうございました!

自分の国語力もないので正直意味不明だと思いますww

これからも頑張っていきたいと思うので応援お願いします!!

感想・レビューもよろしくね~!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] タッくんが自殺したところで鳥肌がたちました! 読み聞かせてくださってありがとうございます! [気になる点] この主人公は実は作者なのではないか? [一言] 次回作も楽しみにしています^^*…
2017/09/03 01:30 湊に立っている人
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