ココロトサケビ。
広い世界には、いろんな人がいる。
世界には、いろんな人がいる。
可愛い人。恰好いい人。
そんな見た目以外にも。
煩い人。馬鹿な人。静かな人。頭のいい人。お金持ち。貧乏。
私は“お金持ち”としてこの世界に生まれた。
“お金持ち”という立場は、みんな羨ましがる。
逆に“お金のない貧乏人”という立場は、みんな嫌がる。
なんでかはわからない。
だって私は、“お金持ち”に生まれて、ちっとも幸せじゃないから。
テレビではアナウンサーがニュースを伝えている。
『一昨日夜10時。○○県○○市で高校1年生の女子が誘拐される事件がおきました……』
誘拐事件のニュース。
誘拐された女の子は、私と同じ年だった。
遊んでいたのだろうか。
夜10時、私が外に出ることは許されない。
勉強をさせられる。
だから、この誘拐された女の子が、
少し、羨ましいと、思ってしまった。
テレビを消して、ボーっと窓の外を眺める。
体が痛い。
昨日は、どこを殴られたっけ。
体中にある痣と、手首にある切り傷。
体中にある痣は全て服で見えない場所に、親が作ったものだ。
手首にある傷は、左に、自分で作ったものだ。
全部嫌いだ。
教育と言って、私を殴り、蹴る親も、
それに抵抗できない自分も。
そんな生き方しか出来ないなら、いっその事死んでしまいたい。
それがだめなら──
「誰か、私を誘拐してよ……」
それは、私の、一番の、心からの叫びだった。