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Another/カタワレ  作者: S.K.ガヴァメント
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第2話:生きる為に

 薄暗い部屋に、1人の少女がいました。首の後ろで切り揃えた髪を持つ、10代半ばを過ぎた位の少女です。精悍な顔付きをしてはいますが、やや疲労の色も見て取れました。

 

その少女ーーカガリは、机の上に広げた地図を見て、ふぅ、と溜息をつき、天井を仰ぎました。ボロボロになった地図には、あちこちに様々な印や線が描かれています。


 「もう、1年になるよ、ハボック……」


 ハボックから、「オートマタを殺せる人間」の情報を託されて、既に1年が経とうとしていました。


 「残る拠点は、もう、ここだけ」


 カガリ達の一団は、オートマタの襲撃による全滅を避ける為、各地に分散して拠点を構築していました。しかし、それらの拠点は、この廃墟群を残し、全て壊滅しました。


 「残存兵力は1000に満たず」


 この拠点の元の人口は1500人程度。各地の僅かな生き残りを集めても、2000人には届きませんでした。その内、女子供を除くと、直接戦闘に参加できるのは1000人弱という事になります。女性達の中には、カガリのように戦う事を希望した者もいましたが、子孫を残す為だと、カガリが許しませんでした。


 「そろそろ、詰みってヤツかな……」


 絶望的。その言葉がこれ以上無いくらい合致する状況でした。


 ハボックの言葉を、最後の希望である「オートマタを殺せる人間」の存在を信じ、カガリ達はこの1年間、数多くの遠征を繰り返して来ました。その間の死者は、僅かに50人程。その前までの被害に比べ、圧倒的に少ない人数でした。しかし、全員が、カガリの命令で、囮となって死んでいきました。2人の為に1人を、4人の為に2人を。こうして、カガリは余りに非情とも言える作戦で、犠牲を最小限に抑えて来ました。


 「皆は、死んだんじゃない……。私が、私の言葉で、50人を、殺したんだ……」


 すまない、皆の為にここで死んでくれーーそう言い放ったカガリに対し、誰一人として異を唱える事なく、彼等は命令を遂行しました。


 「皆を、宜しく頼みますよ」


 「必ず、『最後の希望』を見つけて下さいね」


 「人類の勝利の為に。皆の、明日の為に」


 皆、笑顔で。臆する事なく、死んでいきました。もはや、ハボックのものだけではない想いを、カガリはその背に負っていました。ですが、幾度と無く遠征を繰り返しても、戦果は「ゼロ」でした。資源や武器、弾薬、燃料は多く入手することは出来ましたが、「最後の希望」についての手掛かりは得られませんでした。


 「いつまでも、続けてはいられない……。これが実質、ラストチャンス、か」


 前回、別の拠点を襲撃されてから、時間が経っています。ここに来るのも、時間の問題でしょう。そうなれば、全てが終わってしまいます。


 「……ハボック。頼んだよ。こんな戦争を終わらせる為に、力を……」


 カガリは装備を整え、ハボックの銃を携え、部屋を後にしました。


 外は、月のない、暗い、夜の帳が下りていました。



 カガリがハブに着くと、300人程の男が既に集結していました。その全員が、突撃銃、狙撃銃、軽機関銃といった武装を携えています。腿には装弾数の多い自動拳銃を吊っていました。


 5個小隊が整列し、カガリの方に向き直ります。


 「第1から第5小隊、総員集結完了ッ! カガリさん、指示を!」


 カガリは結構、と小さく頷くと、口火を切りました。


 「皆、集まってくれてありがとう。そして、すまない。私の我儘に付き合わせて、もう1年になるな。皆も薄々気づいているだろうが、恐らく、近いうちにオートマタがここに来るだろう。故に、今回の遠征が私達にとっての最後のチャンスという訳だ……」


 カガリは改めて現状を確認します。今回、戦果が無ければ、全てお終いだと。しかし、300人の中に、諦念の意を抱いているものはいませんでした。一重に、カガリに絶対の信頼を寄せているのです。


 再度、カガリは口を開きます。


 「私達は今まで、勝利を手にしたことは無かった。仲間を犠牲にし、ただ敗走するだけだった……。しかし、しかしだ! 私達はもう、失うものは何も無い! 全てを失い、その中で手にした強さは、本物だ! だからッ……」


 一旦、言葉を切り、


 「持たざるものだけが持つ、その牙を! ヤツら、オートマタ共に、突き立ててやれッ! 敵討ちなんて、高尚な理由じゃない、ただ生きる為に! 私達の明日の為にッ!」


 うおおおおおおおおおッ! 拳を突き上げ、男達の雄叫びが上がりました。戦いの幕が、上がろうとしていました。



 新月の夜の帳が包む静寂を、何台もの即席戦闘車両(テクニカル)が切り裂きます。ライトは付けずに、目的地を目指しています。


 今までの遠征は、全員で1箇所を調査するという方法でしたが、今回は5箇所同時の遠征です。カガリ達第1小隊の担当は、オートマタの製造工場と思しき場所でした。どのような意図でオートマタを殺しているのかは不明ですが、もしも本当にオートマタを殺せるのなら、そして今も生きているのなら。多くのオートマタを叩くことができるこの場所は格好の狩場です。狙わない理由は無いでしょう。ここを今までカガリ達が狙わなかったのは、完全に爆破する為の高性能爆薬が足りなかったから。前回の遠征で、放置されていた大量の爆薬を入手したカガリは、ここの襲撃を決行したのです。


 低く潰れたような、不恰好な工場が見えてきました。カガリが指示を出します。


 「全車、停車して。全員、ナイトカモは着てるね? 行くよ」


 ナイトカモというのは、オリーブドラブの生地に濃いグリーンでグリッドとシミのような模様をプリントしたジャケットで、暗視装置に対しての迷彩効果があります。


 逆にこちらは暗視装置を装備し、相手の装備によっては一方的に攻撃できるようになっています。


 「まあ、オートマタ相手だと気休め程度にしかならないけど……」


 カガリがぼやきますが、後はやるしかありません。


 じりじり、じりじりと、60人が散会して建物に近づいて行きます。残り500メートル程になったところで、カガリが違和感に気づきます。


 「静か過ぎる……」


 普通、見張りの兵がいるならば、狙撃して来てもおかしくない距離です。人間より高精度な射撃を行えるオートマタなら尚更です。


 カガリは双眼鏡を取り出し、建物の上や周囲を見回します。


 「誰も、いない……か? 好機と見るべきか、罠と見るべきか……」


 全員、黙ってカガリの指示を待ちます。熟考ーーといっても10秒程でしたがーーの末、


 「……よし、行こう。爆薬、ワイヤーの類に注意して」


 素早く、カガリを先頭に、工場の出入り口に張り付きました。


 ここまで静かな理由は、大きく分けて3つ考えられます。


 1つ、オートマタは襲撃を予想し、ここは出払った後である。


 2つ、オートマタは「誘い受け」をして一網打尽にするつもりである。


 3つ、この施設は何者かの襲撃を受けた後である。


 「1は無いな、逃げる理由がない。と、なると……」


 大凶か、大吉か。カガリは、コンバットレディポジションを取り、工場に足を踏み入れました。

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