プロローグ:火種
「正義」の対義語は「不義」。そして、「また別の正義」。
貴方の「正義」は、何ですか?
ある夜の事でした。
空が赤く染まっていました。高台にある集落のあちこちで黒煙が上がり、火は家屋や逃げ惑う人々を焼いていきます。
そこには、小さな少女がいました。
「何やってるんだろ、私……」
ああ、短い人生だったな。天国に皆はいるかな。それとも地獄行きなのかな……。
少女の周辺には、多くの弾痕が。そして、赤黒い液体が大量に飛び散っていました。そう、全て彼女から出た血液です。優に致死量に達しているでしょう、もう助かりません。彼女は震える手で胸元から十字架を出すと、優しく、唇に触れさせました。
「ねぇ、神様……。終わるよね……? こんな戦争、いつか、きっと……」
眼からは涙が、口から血の泡が、止めどなく溢れ。呼吸は今にも途切れそうになりながら。少女は祈りました。
「助けて……神様……皆を……ねぇ、お願い……かはっ、こふっ」
ぎしっ、ぎしっ、ぎしっーー。
重い、機械部品のようなものが奏でる足音と共に、人が現れました。ですが、今際の際に少女の瞳に映ったものは。ただ、ただ、絶望だけでした。
その集落で最後まで動いていたものは、人ではありませんでした。人工皮膚を火に焼かれて剥き出しの金属部品を覗かせた人型のロボットーー「オートマタ」でした。