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別れの朝

 3日後、ひと掬いの『命の水』をかけられたゴーレの木はすでに大木に成長していた。これがほんの数日前に種を撒かれたばかりの木だとはだれが思うだろう。どこから見ても立派な木で風格のようなものすら感じられた。緑に繁茂した葉が夏の朝の日差しに輝いている。


 村に入ってから3週間が過ぎようとしていた。バラキの怪我も完全とは言えないまでもよくなってきたこともあり、クシマたちは村を去ることにした。集会所の前には朝の早い時間帯にもかかわらず、スオウを先頭に多くの村人がクシマたちを見送るために集まっていた。スオウの脇にはちゃっかりリルが立っている。


 「朝早く、こんなにも多くの方々にお見送りいただいて恐縮でございます。それにこんなにお土産をいただいてなんとお礼を申し上げてよいやら」クシマの横には大きな荷物を背負ったカインが立っていた。顔はもうニッコニコだ。荷物の中身はジロンで作られた野菜だった。

 「確かにうまい野菜だったけど、そんなにうれしいもんかね」バラキが言った。

 「へへへへっ」カインはしまりのない顔で笑った。

 「なんだ、その顔は」あきれ顔のバラキが言った。

 「へへへっ、秘密」満面の笑みでカインが言った。


 「クシマには一度ならず二度までもお救いいただいて、本当に何とお礼を申し上げてよいやらわかりません」スオウは丁寧に頭を下げた。

 「村の4カ所に植えたゴーレの木も大きく育ったようです。少なくともトロール程度では村へは入って来れないはずです」

 「重ね重ね申し訳ございません」


 「おい、リル」バラキがリルを手招きした。そして耳打ちで聞いた。「ここに来た時から不思議に思っていたんだが、なんでここの連中はあの爺さんがクシマだって知っていたんだ」

 「だって僕らの恩人だよ」

 「でも、話だけじゃ顔はわからんだろ」

 「話だけじゃないさ。だって、そっくりじゃない」

 「そっくりって、なにが?」

 「え、石像を見てないの?あれはクシマ様の石像だよ。そっくりじゃない。500年前からあるみたいだよ」


 「石像?そんなのあったっけ?」バラキはここに来てからのことに思いを巡らせた。

 「あっ」バラキが声を上げた。村に着いた日、どこを探しても人が見つからなかったとき、集会所の扉が動いたのを見つけ、音を立てずにその扉を開けようとした。そのときに剣をぶつけたのがその石像だった。大きな音がして中から人が出てくると思ってヒヤヒヤした覚えがある。その日以来、3人はスオウの家にいたので、集会場の石像のことなどすっかり忘れていた。


 バラキは突然入口に向かって走り出した。村人をかき分け、入口手前まで来ると、脇の石像に顔を寄せた。「プッ」石像を見てバラキが吹いた。クシマは遠巻きにその様子を見ている。


 バラキは下を向いたまま、クシマの隣に戻ってきた。そして、チラリとクシマの顔を見た。

 「なんじゃ」クシマが言った。心なしか顔が赤い。

 「…なんでもない」バラキの肩が小刻みに震えている。

 「…なんなんじゃ」

 「なんでもないよ」

 「もう、行くぞ」そう言うとクシマはとっとと歩き出した。

 「なんだよ、爺さん、照れてんのか」バラキは急いでクシマの後を追った。


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