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犠牲者の埋葬

 ジロンの村についた翌朝、クシマは早々に食事をすまし、カインに墓の穴掘りの手伝いをするように言いつけてから、バラキを連れて村の北の外れに来ていた。井戸を右手に見ながら、墓地を過ぎて森の手前までやってきた。バラキはわけもわからず、ただ言われるままに、鋤を持ってクシマの後について行った。


 「爺さん、どこまで行くんだ」バラキが声をかけたのとクシマが立ち止まったがちょうと一緒だった。バラキはもう少しでクシマにぶつかるところだった。

 「ふむ、ここでいい」クシマはくるりと振り返ると「ここに50センチほどの穴を掘ってくれんか」と言った。


 「ここに穴を掘りゃいいんだな」特に疑問も口にするでもなく、言われるまま穴を掘り始めた。穴はあっという間にある程度の大きさになった。バラキは穴を掘る手を休めてクシマに尋ねた。「爺さん、こんなところに穴を掘ってどうするんだ」

 「ここにある樹の種を埋めるんじゃ。村の端4カ所に種を植え、一旦芽吹けば、トロール程度では入って来られん。ごくろうさん。もうそのぐらいでいいじゃろ」そして懐から小さな種を取り出すと、穴の中に無造作にポンと投げ入れた。「これでいい。土をかぶせてくれんか」


 「そりゃ、一体何の種なんだ」掘り出した土をかぶせながら、バラキが聞いた。

 「これか」クシマは種を懐から一つ出すと親指と人差し指ではさんで高く掲げて言った。「これはな、光の溢れた場所で育った木の種じゃ。名をゴーレと言う」

 「ゴーレ?」

 「濃い影も光が当たれば薄くなり、ついには消えてしまう。闇に生きる者は本能的に強い光を避けるものじゃ。おびただしい光を浴びたゴーレの木は、闇に生きる者が忌み嫌う光の息吹きを漂わせる」クシマの説明にバラキはキョトンとした顔をしている。


 「つまりはトロール程度ではこの木に近づくことすらできんということじゃ。簡単じゃろ。これを後3カ所で行う。さあ、次じゃ」クシマはとっとと次の場所へ歩き始めた。「ちょっと待ってくれ、爺さん」あわててバラキが後を追った。


 カインは村人と一緒に埋葬のための穴を掘っていた。臭いがきついため、鼻を布で覆って作業をした。いつもは大飯食らいで臆病なカインだが、この時ばかりは大活躍をした。一番大きな鋤を手に、村人が何時間もかかって掘る穴をほんの数分で掘り終えた。穴を掘るのが終われば、後は一人ずつ確認して埋葬するだけだ。


 「カッサ、お前どうするつもりだ」ムサシが鋤で穴を掘りながら長い髪を振り乱し同じわように隣で穴を掘っているカッサに言った。シャツは大量の汗で下の肌がところどころ透けている。

 「どうするつもりとは何のことだ」カッサは手を止め、額から流れる汗をぬぐった。

 「とぼけるな、トロールが来たらだよ。本当にお任せするつもりじゃないだろうな」カズサは二つの墓穴を見下ろす位置に立っている。


 「……」カッサは何も言わず、ただ目立たないように周りをクルリとすばやく見渡した。そして近くにクシマがいないことを確認してから言った。「お任せするわけがなかろう」

 「それでこそ、カッサだ」カズサが言った。カッサの返事に思わず大きな声を出してしまったカズサは会話が聞かれていないか、カッサと同じようにチラッと周りを見渡した。


 「じゃあ、やるんだな」ムサシが言った。ムサシは話しながらも穴を掘る手を休めようとはしない。

 「当たり前だ。死んだ奴らの仇を俺たちがとらないでどうする?」再び穴掘りの作業を始めたカッサが言った。

 「そうだ。例え奴らにやられるとしても一匹は道連れにしてやる、なあムサシ」ゴツイこぶしを握りしめてカズサが言った。

 「バカを言うな。ムサシにはリルがいるんだ。俺たちのようなわけにはいかんさ」カッサが言った。3人の中ではムサシだけに子供がいる。

 「いや、俺だって戦えるさ」ムサシが言った。


 「ムサシは協力できるところに協力してもらえばいいさ。命がけの戦いは俺とカッサに任せてくれればいい」カズサはゴツい手で拳を握ってみせた。

 カッサは一定のリズムで作業を続けながら言った。「命がけの戦いね…」そして2人の顔をチラリと見たかと思うと汗に濡れた口元に小さな笑みを浮かべた。「俺は死ぬつもりはない」


 「トロールだぞ。こっちだってただじゃすまん」カズサが言った。

 「そんなことはない」

 「お前は奴らが来たとき、留守をしてたからわからんのだ」

 「奴らの恐ろしさはわかっている」カッサの動きに伴って顎から汗が滴っている。朝からの穴掘り作業ですっかり日焼けし、左肩の太陽の刺青も目立たなくなっている。


 「どうやって?」カズサはカッサが何を言っているのかさっぱりわからなかった。

 「お前たちは知らなかったろうが、そのためにわざわざシトンまで行ってきたんだ」シトンとは世界のほぼ中央にあたる国で、ここ数年で急速に力を伸ばしてきた。

 「シトン?何をしに」カズサが聞いた。

 「武器を買いに行ったのさ」声を低めてカッサが言った。

 「ビュリン製の武器だな」カズサも小さな声が聞こえるようにその場にしゃがみ込んだ。新興国シトンが急速にその版図を拡大してきたのはビュリン鉱石の発見があったからと言われている。ビュリン製の武器はこれまでの武器とは比べ物にならないほど、軽く、強固だった。「それで、手に入ったのか」カズサが続けた。


 「いや、残念ながらビュリン製の武器は手に入らなかった。あの国は混じりけのないビュリンは決して国外へは売らん。想像以上に手に入れるのは難しい。だが、かわりに面白いものが手に入ったよ」

 「面白いもの?」ムサシが言った。

 「これ以上ない強力な武器さ。おかげで全財産がパーさ。まあ、後のお楽しみだ」


 「それでこそカッサだ。それにしてもお前んとこの全財産がパーってのは相当な武器なんだろうな。そうとわかれば、逆に奴らには早く来てもらいたいもんだな」カズサは高い位置から2人の肩を勢いよくたたいた。

 「やめとけ」背後から声がした。頭部に包帯を巻いた男が足を引きずりながらカッサたちの方へ近づいてくる。包帯にはところどころ血がにじんでいる。汗だくで黒く焼けた3人に比べ青白い顔をしている。


 「シマ、お前大丈夫か」カズサが言った。シマは1週間前のトロールの襲撃で危うく命を落としそうになった男で、カッサ、カズサ、ムサシとは幼馴染だった。運よく命ばかりは助かったが、頬はこけ、目ばかりが目立っている。その様子を見てカズサが続けた。「随分やせたな」


 「それより、やめろとはどういう意味だ」カッサが言った。

 「奴らは倒せん、お前たちだってよく知っている筈だ」

 「知っているさ。でもこれまでとは違う。俺たちには切り札があるんだ」カズサが言った。

 「おい、カズサ」ムサシはカズサの腕をつかんだ。

 「いいんだ、ムサシ。コイツは俺たちの幼馴染じゃないか」カッサが言った。

 「聞いての通りだ。以前とは違う。俺たちには強力な武器があるんだ」カズサが続けた。


 「それがどうした」

 「それがどうしただと?」カッサが色をなした。

 「カッサ、お前あいつらを一度も見ていないだろ。カズサとムサシだって、せいぜい遠くから目にしたことがある程度だろうが」 

 「なんだ、シマ。お前、くやしくはないのか。臆病風にでも吹かれたか。お前らしくもない」カズサは皮肉な笑みを右の口元に浮かべた。


 「お前たち、あの死体だれだかわかるか」シマは墓地と村の間で横たわっている一体の遺体の方をあごでしゃくって見せた。ゆらゆらと立ち上る陽炎の向こうに目を向けると、青年の遺体があおむけで倒れていた。腐敗がひどく、黒ずんでいてだれだか判別ができない。

 「わからん。だれだ、あれは」

 「あれは…テッドだ」

 「…テッド」テッドはカッサたちとは左程付き合いはなかったが、シマの頼れる兄貴のような存在だった。


 「テッドは…テッドは、俺の代わりにやられたんだ」声を震わせながらシマが言った。白くなるほど力一杯握られた右のこぶしから血が滴り落ちている。「おい、血が出てるぞ」ムサシが言ったが、シマは構わず話し続けた。


 「穴を掘っている最中だった。もちろん怪物が襲ってくるかもしれないという考えはあった。でも、そのときはこの鋤を使って怪物を倒してやるという気でいっぱいだった。俺は怪物を見ていなかったし、何より村の連中がやられて、腹を立てていたからな。来るなら来いぐらいに考えていたんだ。奴らはすぐにやって来たよ。突然、森から耳を覆いたくなるような奇妙な音がした。大木が力任せに折られている音だ。断末魔の叫びような大きな音の後、あの怪物どもが姿を現した」ここでシマは言葉を詰まらせた。その顔は真っ青だ。


 「おい、大丈夫か?」ムサシが言った。シマは細い腕でムサシを制した。いつの間にか、シマは浴びたような汗をかいている。虚ろな目を足元に落としながらシマは続けた。


 「奴らは現れるなり、棍棒を振り回し始めた。まずトロールを見て動けないでいる男の胸から上を吹き飛ばした。その後も奴らは棍棒を振り回した。首が飛び、肩から先が飛んでった。血しぶきが俺の顔にかかった。何が起こってるんだが、わからなかった。ただ、動くことができなかった。


 そのとき誰かが強烈に俺の頬を叩いた。テッドだった。俺は正気に戻り、村に向かって逃げ出した。俺は走った。息が続く限り走った。その時後ろでテッドの声がした。足がもつれたのか、テッドが倒れている。後ろには怪物が迫っている。間に合わない。その時の恐怖にひきつったテッドの顔。すがるような目、声…。今も頭から離れない」シマの目には光るものがあった。誰も何も言えなかった。


 「…しようがない」しばらくしてムサシが小さな声でつぶやいた。「逃げてなきゃ犠牲者が一人増えただけだ」


 「アイツらは武器を変えたからどうこうなる奴らじゃない。俺は目の前で見たからわかるんだ」声を荒げて話すシマを前に3人ともすぐに返す言葉がなかった。言い争うような4人のやり取りに周りの数人が気付いたが、カッサが目を向けると気付かないふりをして作業に戻った。


 「…違う…」時をおいてカッサが言った。「…俺は違う。お前は逃げたろうが、俺は逃げない。絶対に倒してみせる」

 「奴らに対しては逃げるしかない」シマが力なく言った。


 「もう、いい」聞きたくないとばかりにカッサは掘っていた穴から出てきた。そしてシマをにらみつけて続けた。「お前はいつまでも逃げてろ。俺たちは逃げん」まるで自分に言って聞かせるように声を張り上げると、鋤を放り投げてそのまま村の方へ歩き出した。

 「おれだってそうだ。絶対に奴らは許せん。俺のこの手でやってやるんだ」そう言うとカズサもカッサの後を追った。


 「シマ…、お前の話を聞いて俺にはよくわからなくなってきた」ただ一人残ったムサシが言った。「もしかすると、お前が言っていることが正しいかもしれん。でも、これまでに試したことがない武器がある以上、試してみたい。もし、通用するようならこれまでの仇をとってやれるんだ。アイツらの恨みを晴らしてやれるんだ」棺のそばに横たわっている若い男の骸を見て言った。


 「勝手にしろ、勝手に行って死んで来い」力のない視線を投げてシマが言った。

 「すまんな、俺も行くよ」ムサシも村の方へ歩いて行った。


 カインの活躍で墓の穴掘りは予想よりも早く終わった。後は遺体を埋葬するだけだ。墓地には埋葬の作業をした若い男性だけでなく、多くの村人が集まっていた。一旦はいなくなったカッサたちも墓地に戻っていた。みんな犠牲者の遺体がそのまま放置されていたことに心を痛めていた。痛んだ遺体を前に目を閉じて手を合わせ、予てから準備していた棺の中に次々に遺体が収められた。


 暑い盛りに放置されていた犠牲者は腐敗が進みひどい悪臭を放っていた。中には腐敗がひどすぎて、顔の判別がつかない者も数体あった。多くの遺体は服装から判断がついたが、数体は服装からも顔からも判別がつかなかった。


 「す、すまんな。みんな」スオウは残された遺体を前に声を詰まらせた。犠牲者の横にひざまずき、遺体に自分の手を乗せては一人ずつ冥福を祈った。

 「ようやく弔ってやれるといってもこの有様では…」あちこちですすり泣く声が聞こえた。


 そんな中、クシマがバラキを伴って戻ってきた。クシマは人々の悲しみ方を目にして、それが純粋に身内や仲間が亡くなったことに対する悲しみだけでないことに気付いた。


 「どうかされたのですか」クシマがスオウに話しかけた。スオウは目じりに溜まった涙をぬぐってクシマに顔を向けた。

 「折角、ここまでやっていただいたのですが、この者たちは遺体の判別がつかず、墓標を作ってやれません。暑いさなかを放っておいたものですから。返す返すもひどい仕打ちをしてしまいました」数体の遺体を前にスオウが言った。クシマはその様子をまじろぎもせずに、静かに見ていた。


 「…大切な家族や仲間が亡くなったというのに…どこまで苦しまなければならぬというのか…」クシマはゆっくりと墓地の真ん中あたりまで歩いて行った。そして、懐からおもむろに杖を取り出した。杖を手にクシマは呪文を唱え始めた。


 「エウランエウラン、スータレル、ロウム、サウセン、ロウム…」呪文は陽炎が立ち上る大地に朗々と響いた。すべての音は止み、ただクシマの声だけがする。スオウを初め、誰もがその様子に目を奪われていた。やがてある者は耳を押さえ、ある者は目をこすり始めた。


 「い、色が消えた」

 「紫のローブと白い杖だけが浮かんで見える」

 「クシマ様の声が頭の中に直接聞こえてくる」

 「どうしたことだ。暑さが引いていく」

 「…夢のようだ」

 村人は口々に言った。皆突然起こった不思議な出来事に戸惑っている。


 「雪だ」誰かが叫んだ。スオウは空を見上げた。すると本当に雪のような小さな粒がゆらゆらと舞い降りているのが見えた。表情を失った空から絶え間なく降ってくる。ぼんやりと辺りを照らすようにしながらゆっくりと地上に降りてきた。

 「雪?」スオウは手の平を上に向けて白い粒を受けた。粒は手に触れると夢のように消えて行った。それはもちろん雪ではなかった。小さな光の粒だった。


 光の粒はあたり一面に降り注いでいた。まだ名前が書かれていない墓標の上にも、草花の上にも、村人の上にも万遍なく降り注いだ。そして遺体の上にも。光の粒に触れた途端、遺体はぼんやりと光り始めた。


 時間がたつにつれ光は地上を覆うように降っていった。やがて、地面はうっすらとした光に包まれた。光の粒は次々に舞い降り、やがて、すべての物は光の中に溶けていった。


 「な、なんと…」スオウを初め、そこにいる村人全員が息をのんだ。ついにはあまりのまぶしさにみんな目を開けていられなくなった。だれもが手をかざして刺すような強さの光から目を隠した。どれくらい経っただろうか。光は徐々に強さを失い、ようやく周りの景色も普段の表情を取り戻し始めた。集まった村人はしばらく放心状態のまま、ぼんやりと景色を眺めていた。


 「一体、なんだったんじゃ」スオウは目をパチクリさせながら辺りを見回している。

 「そ、村長」大声でスオウを呼ぶ声がした。声がする方を振り向いてみると、ムサシが若い男と見られる遺体を膝に抱えていた。かなり慌てている。

 「どうした、ムサシ」

 「どうしたもこうしたもありません。これを見てください」スオウは呼ばれるまま、そばに寄っていった。そして犠牲者の顔が目に留まると、思わず足が止まった。「お主だったのか」


 そこに転がっていたのはカズサの兄の遺体だった。カズサにとっては両親が亡くなって以来、親代わりに育ててくれたただ一人の肉親だった。腐敗のため区別がつかなかった顔や手足はすっかりきれいになっていた。


 「まるで、まだ生きとるようじゃ…」スオウは腰を下ろし遺体を抱きかかえ、いとおしむように顔を撫でた。その顔はまるで眠っているかのように見えた。起き上って今にも動き出しそうだ。「長いこと放ったらかしてすまんかったな…」スオウの声がかすかに震えている。「…誰かカズサを呼んできてくれんか」振り向いてスオウが言った。カズサはすぐ後ろに立っていた。まじろぎもせずに、じっと兄の顔を見ている。


 「…カズサ」スオウはカズサの顔をただ見上げている。かける言葉が見つからないのだ。

 「兄貴…」カズサは拳をきつく握りしめたかと思うと、そのまま振り返って村に向かって走りだした。すぐに小柄な老人とぶつかりそうになった。クシマだった。クシマは何も言わずカズサの目を見ている。


 カズサの頬にはいつの間にか涙が伝っていた。涙は次から次へと溢れてくる。カズサは流れる涙を拭おうともせず、深く頭を下げた。そして絞り出すように言った。「クシマ様…ありがとうございました」


 この不思議な光の粒は、すべての遺体を腐敗から解き放った。これまで誰だかわからなかった遺体が次々に明らかになっていった。

 人々はつかの間の別れの時間を過ごした後、滞りなく埋葬を済ませた。人々は黒い布きれを左腕に巻き付け、犠牲者の冥福を祈った。悲しみに包まれてはいても、永い間そのままであった犠牲者をようやく送ってやれたことへの安堵感のようなものが漂っていた。


 「ありがとうございます。ようやく、ようやく仲間を送ってやることができました。みな、クシマ様たちのお蔭でございます」スオウはクシマの手をとり、額に押し戴くようにして言った。

 「亡くなった方の弔いができてようございました」クシマもスオウの手を握り返した。そして視線をぐるりと巡らせると続けて言った。


 「あの…確かこの辺りに母親と幼い子供の犠牲者がいたかと思いますが」

 「…一番初めに弔ってやりました」言葉少なにスオウが語った。「親子の死体が目に触れるたび、胸がズキンと痛んでいたのです。仲のいい親子でした」

 「…あの子の父親は?」時を置いてクシマが遠慮がちに聞いた。

 「亡くなりました」

 「亡くなった?」

 「目の前で妻と子を襲われたのです。父親は狂ったように怪物に向かって鋤を持って走って行きました…」そのままスオウは口を閉ざしてしまった。長い沈黙が結果を表していた。しばらくして「…でも怪物の胸に一撃を食らわしたんです」と言った。


 「そうですか…」クシマの頭にひしゃげた鋤を持って倒れていた男の姿が浮かんだ。男は眉間に深いシワを寄せ両目をカッと見開き、怒りに口をゆがませたまま亡くなっていた。クシマは静かに目を閉じて亡くなった者の冥福を祈った。

 「親父の意地を見せたってわけだ」バラキが鼻をすすりながら言った。

 一瞬、涼しげな風が渡った。風は木々を揺らし、涙にぬれた村人の頬をかすめて行った。埋葬を済ませた村人は風に吹かれるまま亡くなった者たちの墓標をぼんやりと見つめていた。けだるさと空しさが辺りに漂っていた。


 「後はトロールです」気を取り直すようにしてスオウが言った。

 「あの…、本当にお手伝いをしなくてもよいものでしょうか」一旦はクシマたちに任せると言ったスオウだが、引っかかるところがあるのか、クシマの顔色を窺うように言った。

 「後は我らにお任せください」そういうとバラキとカインを伴って、スオウの家へと歩いて行った。


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