追いはぎ街道
しばらくするとラバス街道とは別に山沿いの細い道が左手に伸びているのが見えた。ラバス街道が多くの人でにぎわっているのに比べ、左手に伸びる道はいかにも人気のないひっそりとした道だった。ここでクシマたちとはお別れだ。
「では、クシマお気をつけて」ハリマが言った。
「そちらもな。人外がそちらに現れないとも限らんからな」クシマはそう言うとラバス街道のほうへ進んでいった。ハリマたちはクシマが見えなくなるのを確かめてから細い道へと入って行った。
「えっ、こっちの道?」ナーガが素っ頓狂な声を上げた。
「どうかしましたか」ハリマは冷ややかな視線でナーガを見た。
「…いえ」
「ならいいんですが」
人通りの少ないさびれた道を一行がもくもくと進む中、ナーガはただ一人落ち着きなくあたりをキョロキョロと見回している。
「どうしたの。兄ちゃん」ナーガの懐のラーガが首を傾けて言った。
「どうしたもこうしたも、この道は絶対に通っちゃいけない危険な道なんだ。別に怖い訳じゃあないが、賢者様たちに何かあったらと思うとな」
「じゃあ、賢者様に教えてあげないと」
ナーガは「そ、そうだな」と言うとハリマの馬に自分の馬を寄せて行った。ハリマはナーガに気付くとさも煩わしそうな視線を浴びせながら言った。「何です」
「あの…ハリマ様、どちらに向かっているんで」ナーガが聞いた。
「お前は聞いてないでしょうが、昨日ジロンの村で人外が出たと言う情報が入ったため、遠回りにはなるけれど、大事をとってこちらのジロンから遠いルートを通っているのです」
「いやこの道は別名追いはぎ街道というそれはそれは物騒な道で…」
「命をかける覚悟はできていたのではありませんか」
「いや、オイラはいいんでさ、賢者様たちが心配で」
ハリマは「心配かけてすみません。でもゴシマもクリスもトシもいるから追はぎごとき心配いりませんよ」と言うとニッコリ笑った。
「ですが、なにも好き好んでこんな道を通らなくても…」ナーガの言葉は尻すぼみに小さくなった。
「大丈夫だよ、兄ちゃん。賢者様がそう言ってるんだから、そうだよね、ハリマ様」
「そのとおり。何も心配はいりません」
「だって。よかったね、兄ちゃん」ラーガが言った。
「…ハハハ」ナーガは弱々しく笑った。
細い道を覆うように山がせり出してきた。足元に濃い影が落ちるようになった。一行のほかだれもこの道を通る者はいない。ラバス街道では朝早いにもかかわらず、多くの商人が行き来していただけに余計にさみしく思えた。ナーガはあいかわらず落ち着きのない視線を周りに注いでいる。賢者たちはそんなことには一向に構うことなく、たんたんと道を進んで行った。
そんな中、トシは周りに注意を払いながら慎重に歩を進めていた。木や岩の陰に怪しい者が隠れていないか、絶えず神経を研ぎ澄ましていた。しかし、トシが気にしていたのはもちろん追いはぎではなく、エレナをねらう人外の者だった。