プロローグ
はるかはるか昔のこと、何一つない世界に、ある日一本の木が生えた。木は少しずつ成長し、根は地中に潜っていった。木はどんどん成長を続け、いつしか幾つかの実を実らせた。あるものは落ちて転がり、あるものは風に飛ばされた。四方に散らばった実はさまざまに形を変え、そこで新しい命となった。海に落ちたものは魚に、飛されたもののいくつかはそのまま鳥になった。それからも木は大きくなって、ついに天を突くほどに成長した。
赤、青、黄の実がなった。ほかの実がある程度まで育つと新しい命となって天突く木から旅立っていくのに対し、3つの実はどこまでもどこまでも大きくなった。日当たり、風の強さ、実のついた場所、どれをとっても全く違った環境で育ったにもかかわらず、3つの実は同じ大きさで成長を続けた。そして3つの実は時を同じくして天かける3匹の龍となった。
ほかの実からも、不思議な力を持つ者や、大きな体を持つ者、これまでにないほど長い命を授かる者が現れた。その中で光に照らされるのを拒むかのように、ほかの実や葉の影に隠れている実があった。その黒い実は、わずかな光も受けることなく、ただ下がっていた。そしてほかの実に触れるほどに大きくなると、食虫植物が捉えた虫を食べるように、その実を自分の中へ取り込んでいった。次から次へと取り込んでいってはどんどん大きくなった。時が過ぎ、黒い実はとうとう3色の実と同じぐらいの大きさに成長した。ぶよぶよと黒ぶくれした実はついにその重さに耐えきれなくなり、落ちて深い闇の中へと転がって行った。漆黒の世界で目覚めた命は強大な力を持ち、ほかの者との共存を認めぬ黒い欲望に満たされた魔の獣と化した。
時は流れ、世界は人間が支配するようになっていた。争うことがなかった時代、人間は協力し合い、幸せな時を過ごしていた。しかし、長い時の流れの中では、ただ平和で暮らすだけでは満足できない者たちも現れた。欲望は際限なく膨らみ、その欲望を満たすため、争いを始めた。その様子を闇の中で息を潜めて見ていた者たちは欲望にとらわれた者たちと繋がり、この世を戦いの渦に巻き込んでいった。闇に生きる人ならぬ者と繋がった者達は徐々に人としての正気を失い、闘うことに喜びを覚え、殺戮を繰り返すようになった。人ならぬ者は人間の欲望に働きかけ、争わせ、その魂に憎しみを宿らせ、魔の獣の糧とした。成長した魔の獣はその圧倒的な力で破壊の限りを尽くし、この世を地獄と化した。
そのたびに、人類は全滅の危機に陥った。その危機を救ったのが、五人の賢者とその仲間たちだった。