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侯爵令嬢、鉢合わせする

ものすっごく久しぶりな更新になってしまってすみません。

 会えなかった時間を埋めるようにひとしきり会話を楽しんでから、シエナは辞することにした。


 フェリエドが王宮内をうろついているため、イザクは臣下にシエナを城門まで見送らせると言い張ったが、シエナは遠慮した。一人の方がコーデリアにもし見つかった時に身動きが取りやすいからと。


「……俺が見送れたら一番いいんだが……」


「一緒に行動していたら、陛下が私を避けていた意味がなくなるじゃないですか」


 過保護なイザクを諌めるようにシエナが言った。イザクはそれでも納得いかないのか、胸の前で腕を組んでいたが、やがて「……なら、此処を通っていけ」と言った。


「此処?」


「隠し通路だ」


「ええっ!?」


 シエナの目が輝く。危険が迫った時に逃げられる道だと思うと、シエナの目には宝石よりも魅力的に映った。


「ニフたちはここを知っているはずだが……教わらなかったのか?」


「私が真正面から乗りこんで門番に止められていたので、教えるタイミングがなかったのかも……。もしくは意地悪ですかね」


「……おそらく後者だろうな……。あいつらはお前をからかうのが好きらしいから」


 呆れたように言い、イザクが本棚に所狭しと並んだ本をいくつか引き抜いて並べ替えると、本棚は重たい音を立てて横にスライドした。その後ろからあっという間に秘密の抜け道が現れる。


「階段の一本道になっている。最終的には俺の気に入っている庭園に出て、王宮の出入り口の一つであるラクセウスの門に繋がっているはずだ。これを持って行けば門番に通してもらえるだろう」


 イザクは執務机から国の紋章が描かれた銀の鍵を、紐を通してシエナの首にかけた。


 シエナが抜け道へ足を踏み入れると、足場を確認するまで、イザクが手を添えてくれた。扉を閉める際にその手が離れるのを名残惜しく思いながら、イザクを見る。彼の顔には心配と書かれていて、シエナは心が温かくなり、安心させるように笑ってみせた。


「では、またね、イザク」


 名を呼ばれてイザクが顔を綻ばせるのが、閉じていく扉の隙間から見えた。石造りの階段は壁に松明がかかっており、シエナが足を一歩踏み出す度にイザクの魔法の炎が灯って足場を照らし出した。


 自分の館にもこういう通路がほしいなぁと思いながら進み、やがて庭園へと出る。それからラクセウスの門まで来たところで、シエナはピタリと足を止めた。


「あ……! 陛下に薬渡すの忘れた……!」


 失念していた。シエナは引き返すかまたの機会にするか悩んだが、どうせなら敷地内にいるうちにと思い、引き返すことにした。シエナが執務室にいる間にどうやら雨が降ったらしい。雨に洗われた石畳を踏み、もう一度庭園へ足を踏み入れると、シエナは足を止めた。


 先ほどは誰もいなかったのに、シエナと入れ替わりで誰かがやってきたらしい。シエナは思わず、薔薇の植わった茂みへ身を隠した。


 庭園に現れたのは女性だった。黒曜石を溶かしたような髪を乱して、花壇に腕を預け寄りかかっている。座りこんでいるせいで、豪奢なドレスの裾が濡れてしまっていた。


(誰……? 具合悪そうだけど……門兵を呼びに行こうかしら……)


 シエナが様子を窺っていると、その女性は花壇に預けていた腕を滑らせ、頭から石畳へ倒れこみそうになった。


(――――危ないっ!!)


 シエナは反射的に茂みから飛び出し、その女の人を支える。


「大丈夫ですか!?」


 地面と衝突する間一髪のところで受け止め、シエナはその女性を仰向かせる。女性は固く目を閉じて苦しそうに胸元を押さえていたので、シエナは「失礼します」と声をかけ、リボンをほどき胸元をくつろげてやった。息が整ってきたところで、近くのガゼボへ誘導する。


 薔薇のつたが芸術的に絡まった西洋風の白い東屋、その中にあったベンチへシエナがその女性をもたせかけると、女性はうっすらと目を開いた。


「具合はいかがです――……っ」


 薄い瞼と長いまつ毛の下から現れた意志の強い瞳にシエナはたじろぐ。その瞳がイザクと同じ切れ長で、おまけに赤色であることに気付いた時には、心臓が止まりそうになった。


 庭園に咲き乱れる薔薇よりも美しい女性は、イザクにひどく似ていた。シエナの胸がざわつく。


(――――……ああ、陛下ごめんなさい――――)


 せっかく鉢合わせをせぬようにと、イザクが気を回してくれたのに。その苦労を無駄にし、シエナは会ってしまったのだ。――――イザクの母、王太后コーデリアに。



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