91話 集められた戦力
レイジたちの方に、見るからに物騒な集団が近づいてきていた。
手前の少女二人は問題ないのだが、異様なのはその後ろ。彼女たちの後ろに続いているのは、血の気が多くいかにも荒事を好みそうな雰囲気をただよわせている三十人ほどの集団。多くは屈強な男たちだったが、中には第二世代の少年、少女も数人。この集団は今いるのどかな広場に対し、完全に場違い。一般人が近くにいれば、一目で危ない奴らだと見抜き立ち去るだろう。実際何人かの一般人は、逃げるようにこの場を後にしていた。
「倉敷ほのか准尉、すべての準備を整え到着しました」
軍服を着たほのかはビシッと敬礼し、報告してくれる。
「どーもっす。エデン協会ヴァーミリオン、いつでもいけるっすよ」
エリーは手を上げ、軽い感じで報告してくれる。
「あれ? エリー、そっちの社長はどうした? いつもならここで啖呵を切ってくるはずだが」
ただいつもだと、ここで別の人間が真っ先に飛び込んでくるはず。不思議に思いエリーにたずねてみた。
「うちの社長なら一番後ろに。レイジさんの顔を見たらケンカを吹っかけそうですから、後方に押し込んでおいたっす。緊迫した状況そうなので、無駄に時間を潰さないほうがいいかと思って」
「おっ、気が利いてるな。普段は面白がってほっとくくせに」
「フフ、いつも以上の依頼額をもらってるんですから、これくらい当然っす。アフターケアもばっちりっすよ」
エリーは手でごまをすりながら、少しいやらしい笑みを浮かべる。
結構な額を振り込んだため、マジモードのようだ。これなら戦力のほうも十分機能してくれるだろう。
「二人ともご苦労様です! 特にほのかちゃん、いろいろ無理させて申しわけありません。こちらの戦力問題をどうにかするため、軍側の人間にどうしても来て欲しかったんですよ! おかげでヴァーミリオンの方々に来てもらえました! もっちろん、ほのかちゃん自身の戦力にも期待してますからねー!」
那由多はほのかの肩に手を置き、にっこりほほえみかける。
ほのかに関しては、那由他が執行機関の権限で無理を言い連れてきていた。彼女自身のデュエルアバター使いとしての腕もそうだが、もう一つ理由が。さすがにこの状況下で、軍が防衛のため取り押さえている上位クラスのエデン協会たちを借りるのは、手続きに時間が掛かる。ゆえに軍人であるほのかをこちらに加えることで、彼女が監督するはずであった上位クラスのエデン協会の人間をも連れてこれるというわけだ。今回の場合ほのかはエデン協会ヴァーミリオンを指揮し、敵の本命と思われる場所を調査、防衛する名目で来ていた。
ちなみになぜヴァーミリオンかというと、レイジたちがほのかに頼んだから。彼らは金がかかるが戦力的に申し分なく、非常に信頼できるプロのエデン協会。今から向かう場所のことも、追加料金を払うことで口止めできると判断したからであった。
「那由他さんのお役に立てるのなら光栄です! 倉敷ほのか、精一杯事に当たらせていただきます!」
するとほのかはぱぁぁと顔をほころばせ、期待に応えようと気合を入れた。
実はほのか。できるエージェントである那由多に、あこがれのようなものをもっているらしいのだ。そのためかかなり那由多になついているという。
「あー、相変わらずなんて素直ないい子なのでしょう! ほのかちゃんをアイギスに加えたくて仕方ありませんよー!」
那由多はほのかの頭をなでなでしながら、目を細める。
「すみません。軍の仕事にはやりがいを感じてるので、それはちょっと難しいですね……」
「いえいえ! ほのかちゃんはやはり、そのままの純粋無垢な感じでいいのです! 世界の裏側に足を踏み入れさせ、汚すわけにはいきませんからねー!」
申し訳なさそうにするほのかに、那由他は彼女の両肩をつかみほほえみかけた。
「――さて、みなさんがそろったことですし、段取りを説明しますね! もし今から向かう場所が敵の本命だった場合、戦力はもちろんの事、電子の導き手の改ざん網の準備も済んでるはず。なので手を打たれる前に、全員で一斉に乗り込もうと思います!」
そして那由多は全員を見渡し、段取りを説明する。
さっきクリフォトエリアへの座標移動の設定で調べたところ、現状目的地に入れたのだ。もしここで相手側が他エリアからの侵入禁止の工作をほどこしていた場合、この時点で入ることができないという。おそらく初めから改ざん網を張りめぐらせていると、早々にばれる心配が。そのため敵を察知してから、開始する作戦をとっているのだろう。よって様子見のため誰かが先に他エリアから入ったり、クリフォトエリアからそのまま確認に向かった時点で改ざん網が張られる。そうなると厄介ゆえ、一斉に向かうというわけだ。
一応ゆきに先行してもらい、敵の改ざん網をどうにかしてもらう手もあるが、向こうには彼女と同レベルの幻惑の人形師、リネットがいる。となれば無効化するのに時間が掛かるのは明白。さらにもし相手側が複数の電子の導き手を用意していた場合、改ざんによる奪い合いが劣勢になる恐れがあるため得策ではなかった。
「敵の本隊にはわたしたちアイギスメンバーとゆきちゃんで相手をします! ほのかちゃんとヴァーミリオンの方々には周りにいるであろう、敵戦力をどうにかしてもらいますね!」
「わかりました」
「了解っす」
「ただ、そちらの役目はかなりきつくなるかと。相手側がここまで手の込んだことをしてる以上、かなりの戦力、並び増援を用意してると見ていいでしょう。それにゆきちゃんには向こうの計画の妨害をお願いするため、敵の改ざん網は無効化できないはずですし……」
お互いきつい戦いになるのは間違いない。ほのかとヴァーミリオンに時間を稼いでもらい、その間になんとしてでも森羅たちの計画を止めなければ。
「――とはいっても、こちらもとっておきの増援を用意してますので、到着するまでなんとか持ちこたえといてくださいね! 彼女たちにはわたしからの連絡がしばらくない場合、ここが本命かもしれないということで、来てもらう手筈になってます!」
「軍側も一人助っ人に来てもらえるよう手筈を整えました。あの那由他さんがつかんだ情報ですから、間違いないと思い上にかけあってなんとか!」
ほのかは胸元近くで両手をぐっとにぎりながら、報告してくれる
「おー! ほのかちゃん、ナイスです! 向こうの状況がわからない以上、戦力が多いに越したことはありませんからねー! ではでは、そろそろ乗り込むとしましょうか!」
那由他の掛け声とともに、レイジたち全員はクリフォトエリアにある十六夜タワーに向かう設定をするのであった。
次回 十六夜タワー




