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電子世界のフォルトゥーナ  作者: 有永 ナギサ
2章 第1部 十六夜学園

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77話 革新派との会談

 レイジと那由他は指定された部屋にたどり着き、中へと入る。そこはVIP用に貸し出された部屋らしい。広く、高級な家具が(そな)えつけられた談話室のような内装。どうやらレイジたちが借りていた部屋よりも、さらにランクが高い場所のようだ。室内は差し込む月明かりで明るいのと、雰囲気を出すためか電気がついていなかった。

 部屋にいたのは十六夜(いざよい)学園の制服を着た二人の男女。少女の方はソファーに座り、少年の方は彼女のすぐ後方に立っていた。

「那由他あの二人を知ってるのか?」

「はい、十六夜学園高等部二年、シャロン・グランワース先輩と同じくアーネスト・ウェルベリック先輩ですねー。もちろん二人ともアポルメンバーです!」

「よく来てくれたわね。あたしはアポルオン序列八位グランワース家次期当主、シャロン・グランワースよ。一応、革新(かくしん)派のリーダーをさせてもらってるわ。そして……」

 シャロンは足を組みながら、不敵な笑みを浮かべ自己紹介してくる。

 大財閥のお嬢様とだけあって、やはりその(にじ)み出る気品は普通じゃない。しかも(きも)()わっている性格なのか出来る女感が半端なく、かなりの切れ者のようだ。ただ彼女はリーダーのように表で仕切るというよりは、どちらかというと裏で策略を張り巡らせている印象が。

「また会ったな。久遠くおんレイジ。柊那由他ひいらぎなゆた。自分はアポルオン序列七位、ウェルベリック家次期当主、アーネスト・ウェルベリックだ」

 昨日ゆきのアーカイブポイントで戦った全身鎧(よろい)をまとっていた少年、アーネストが堂々としたたたずまいであいさつを。

 彼を改めて観察してみるといかにも生真面目(きまじめ)そうで、規律などにうるさそうな少年であった。

「あはは、わたしたちみたいなエデン協会の者に、革新派の上位組お二方がお出迎えとはすっごい歓迎ぶりですねー」

「ああ、しかもその一人が革新派のリーダーって……。今日は偉い人らに会いまくりだ」

 驚くべきことはシャロンのような少女が、革新派のリーダーをしているということ。

 本来ならもっと年上の者がやるべきだと思うが、今の時代的にエデンに特化した第二世代の方が適していると判断されたのだろう。実際彼らの暗躍(あんやく)はエデン内が基本。ゆえにデュエルアバターを使える者の中から、抜擢(ばってき)されたに違いない。

「大体のこういう黒幕系のリーダーは、長い道のりを()てようやくたどり着くのが定石(じょうせき)ですからねー。あはは、もう、いきなりの最終局面なのでしょうか?」

 那由多はほおに指をポンポン当て、少し戸惑い気味に首をかしげる。

「――はぁ……、あたしもほかの者に任せようとしたんだけど、アーネストがやれとうるさくて。もう少しもったいぶって出た方が、盛り上がるというのに……」

 するとシャロンが肩をすくめながら、不服そうに愚痴ぐちをこぼす。

「わからんでもないが、相手はあのアポルオンの巫女の使いの者たち。交渉(こうしょう)を進めるなら、我ら革新派の代表であるシャロンがやるべきだろ」

「はいはい。――さっ、立ち話もなんだからとりあえず座りなさい」

 アーネストのまじめな主張に、シャロンは適当に相づちをうつ。そしてレイジたちへ、向かいのソファーに座るよううながした。

「では失礼して!」

 那由多ともに、ソファーへと座る。

「夜遅くに悪かったわね。もっと早く話をしたかったんだけど、保守(ほしゅ)派の目がどこにあるかわからない以上、目立った接触はやめておきたかったの。ほら、アポルオンで巫女に近づくのはタブー行為だし、事を起こす前に目を付けられるのは嫌だったから」

「つまり今回の会談はアポルオンの巫女がらみというわけですね。となると規律上、彼女の監督かんとく権を持つ序列二位側に報告させてもらわなければなりませんよ?」

 アポルオンの巫女にどんな権限があるのか知らないが、かなり特別な立ち位置にいるようだ。話の流れからして会うことはもちろん、彼女側の陣営であるアイギスに話を持ち掛ける事態よくないらしい。

「ふふふふ、そうなるわよね。だからあなたたちに話を持ち掛けるのは、本格的に動き始める直前でなければならなかったというわけ」

 革新派側からしてみればもっと早くから接触したかったみたいだが、その結果保守派側である序列二位に伝わってしまうため無理な話。下手すると革新派の暗躍(あんやく)が早々に明るみに出て、なにか対策をたてられてしまうかもしれない。なのでアラン側と同様、この直前のタイミングで話を持ってきたということらしい。

「それだとあとでもよかったのでは?」

「いいえ、もしもの時のためにも今がベスト。まず計画の第一段階を確実に成功させたいから、不穏分子はできるだけ取り除いておきたいの。それにもしかすると(さと)いあなたなら、今後のためにも黙ってくれそうだし、ふふふふ」

「おやおやー、どうやらすてきな情報をお持ちのようですねー。あはは、これは楽しみです!」

 シャロンと那由他は意味ありげなやり取りをし、互いにふくみ笑う。すごい悪だくみを考えてそうな雰囲気が半端なかった。

 あちらには那由他を味方につけるかもしれないほどの、とっておきのネタがあるのだろうか。

「――ではまず話の趣旨(しゅし)から。これに関してはアラン・ライザバレットと同じよ。保守派の戦力はあまりにも強大。だからアポルオンの巫女に、あたしたち革新派の力になってもらいたいの」

 シャロンは腕を組みながら、包み隠さず単刀直入に告げてきた。

「ふむ、その件に関してはアラン・ライザバレットにも言いました通り、答えはノーです! アポルオンの規律を乱し争いを生もうとするあなたたちに、力を貸す義理はありません!」

 腕をバッと前に突き出し、迷いなく宣言する那由多。

「確かにあたしたちは争いを生むわ。でもこの戦いは誰かがやらないといけないもの。役割を決められた管理される世界より、個人の才能しだいでいくらでも上にいける世界の方が、自由があっていいはず。アポルオンの巫女だって、このままのアポルオンの世界でいいと思ってないんじゃない?」

 対してシャロンもっともらしい主張でたくみに説得してくる。

 保守派の世界存続を目指す話は確かに一理あるが、それは今を生きる者たちにとって重すぎる制限。さすがに不満を抱かずにはいられない。そう、ほとんどの人間はシャロンの自由を求める主張に同意するだろう。

「むー、一理ありますけどー」

 彼女の考えはアポルオンの巫女と似通っているみたいなので、那由他は少し押されがちに。

 そんな中、レイジはシャロンに気になっていたことを質問しようと。

「シャロンさん。一ついいですか?」

「なに? 久遠くおん

「革新派がなにをしでかそうとしてるのか知りませんが、そちらがいくらクーデターを起こしたとしても、現状を変えるのは難しいんじゃ? セフィロトのせいで、アポルオンの序列による権限が守られてるわけですし」

「いい質問ね。久遠の言う通り、正規のやり方だと革新派に勝ち目はない。そう、正規のやり方では」

 人差し指を立て、ニヤリと不敵な笑みをこぼすシャロン。

「ほかに方法があると?」

「こちらもあまりくわしくはわかってないんだけど災禍さいかの魔女、柊森羅ひいらぎしんらいわく革新派の望む世界を実現することが可能らしいわ。かつてのパラダイムリベリオンのように」

「――ははは……、望む世界の実現って……。あの災禍の魔女の力を持ってる彼女が言うんだから、信憑性(しんぴょうせい)がありますね。それが革新派の行動を起こす理由というわけですか」

 ここで森羅の名前が出てくるとは。彼女の災禍の魔女として恐れられている力。さらにパラダイムリベリオンを出されると真実味が出てしまう。そういえば森羅がレイジに聞いてきた望む世界を創造する話。今改めて考えてみるとアレは設定でもなんでもなく、まぎれもない本当の話だったのかも。

「いいえ、そうじゃないの、久遠。革新派が戦う一番の理由はほかにある。そう、柊森羅の言ってることは、いわばおまけ程度。そんなあるかもしれない突拍子(とっぴょうし)のない話のために、革新派は動こうとしない。だって今の世界の形は不本意なところもあるけど、アポルオンによる見返りがある分十分許容できる範囲よ」

 レイジの導き出した答えに、シャロンは首を横に振って話を進める。

「え? ちょっと待ってください。なら革新派はなんのためにクーデターみたいなことを?」

「わたしもレイジと同じ意見です。それではあなた方革新派はなぜわざわざ危ない橋を渡ってまで、反旗(はんき)をひるがえそうとしてるのでしょうか?」

 レイジと那由他は革新派の意図がみえず、困惑するしかない。

 森羅の案を実行するために行動を起こしたのならば、まだわかる。いくらセフィロトによってアポルオンの世界が守られているといっても、パラダイムリベリオンのような事を起こせるのだ。となれば革新派やアラン側の行動にも意味がある。だがシャロンはそれが本命ではないと言った。まるでさらに優先度が高い事案があるかのように。


次回 革新派

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