4話 道化師の宣言
冬華はある人物と通話しながら、周囲に誰もいない砂浜を一人歩いている。レイジと別れたあとすぐに車の方へと戻らず、現在彼がいる方向とは別方向に少し歩いていた。
「今言った場所にあなた方の戦力になりそうな人物がいるので、ぜひスカウトしてみてください。――その人物の名前は久遠レイジ。ええ、あの男の息子ですよ。――ハイ、要件はそれだけです。――いいえ、礼には及びません。ではごきげんよう!」
通話をおえて、その場に立ち止まった。
「フー、これでお膳立てはおしまいですね。――レイジさん、ワタシが力になれるのはここまで。あとはすべてあなた次第。かつてたどり着けなかった輝きに手が届くのかどうか」
さっきの電話である人物にレイジがいる場所を伝えておいた。彼女は以前からなぜかレイジのことを気にしていたので、うまくいけばスカウトしにいくはず。まあ、それ以前に久遠という名字で、食いつかないはずがないのだが。それに向こう側はただでさえその立ち位置上、人員が少ない。最近今後のために表沙汰の組織を創設するとも聞いていたので、おそらく大丈夫だろう。
そう、あとはレイジが彼女の手を取るかどうか。その選択で彼の人生は大きく変わるのだ。
「そして選択するのです。秩序か混沌か、それとも別の世界か……。おそらくあなたが求める答えの果てに、世界の命運がかかっているのですから!」
レイジがいる方向へと手のひらを差し出しながら、意味ありげに告げる。
なぜこのようなお膳立てをしたのか。その答えはすべてそこに集約されていた。レイジの選んだ答えの果ての結末は、世界に大きく影響するはずなのだから。ゆえに彼がどんな答えを出すのか、興味が尽きないのだ。なので自分がやることは、レイジをより劇的な結末を生む答えに導くこと。だからこそ彼をある人物と引き合わせるのである。そう、久遠レイジはたどり着かねばならない。この世界を統べるアポルオンの巫女に。
「うふふふ、なんたってレイジさんは久遠の血筋! だからこそこの舞台の主演を演じるにふさわしい! 八年前のように、いえ、今の電子の世界を生むきっかけとなった、始まりの物語の時のように!」
これまでのようにすべての因果には久遠が関わっている。いつも彼らが中心となり、そして結末に導くのだ。きっと今回も、また最高の劇的な結末を見せてくれるのだろう。それが楽しみで仕方がなかった。
「運命からはきっと逃れられません! なぜならレイジさんはすでに、勝利の女神に愛されてるんですから!」
あの子が彼の味方に付いている時点で、この理屈は証明されたも同然。もはや始まる前から、レイジは今後の幾末を決める重要人物とさだめられているといっても、過言ではなかった。
「――さあ、舞台の幕が上がるのはおそらくあと一年後! 八年前の物語はまだまだおわってません! パラダイムリベリオンはしょせんプロローグ! ――そう、ここからすべての女神と役者がそろった、激動の第二幕が始まるのです!」
踊るようにクルクルと回り、両腕をバッと横に広げる。そして芝居がかったように宣言した。それはまるで声高らかに歌うかのごとく。そう、自分は今、この興奮する気持ちを抑えきれない。それはまるで恋する乙女のように。
「――では、ワタシはより劇的な結末になるように、これからも道化として踊り続けるとしましょう! うふふふ!」
冬華は最後に自身の方針を改めて確認し、はずむ足取りで車へと戻っていくのであった。