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電子世界のフォルトゥーナ  作者: 有永 ナギサ
1章 第2部 電子の世界エデン

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27話 結月VS狩猟兵団の集団

 アイテムストレージを開き、レイジは自身の武器である(さや)に納まった日本刀を取り出す。そして結月に目配せして、廃墟のビル内から外に。狩猟兵団の前に立ちふさがった。

 場所は今だ廃墟と化したビジネス街。レイジたちがいるビル手前の道路は割と広く、戦闘を思う存分できるほど。ただこの道路の両サイドはビルが敷き詰められるように配置されており、しかも建物間の隙間も人一人通れるぐらいの隙間しかないぐらい狭い。なので実質一本道といってもいい場所であった。

 相手側の編成は薄いよろいに身をまとったゼロアバター七人と、二十代後半から三十代にかけての男たちが九人、そしてレイジたちと年齢がさほど変わらない少年が一人。レイジたちの方に前進していた。敵の配置はルート上の安全を確保する七人構成の部隊と、そこから少し距離を空けて第二世代の少年を中心とした十人構成の部隊である。

「結月は前の七人を片付けてくれるか? 後ろの十人はオレがやるから」

 前の七人はゼロアバターのアサルトライフル持ちが三人。そしてデュエルアバターの男たち四人がそれぞれ武器を所持している。この七人すべてを結月に任せることになるが、那由他やレーシスいわく戦力に関しては大丈夫という話だったのでおそらくいけるはず。レイジは結月が戦闘を始め、ある程度したら後ろにいる部隊に突っ込み全員斬りふせるつもりであった。

「うん。前の部隊は私に任せて。久遠くおんくんや剣閃の魔女さんの前で恥ずかしい思いしたくないから、全力で頑張るよ!」

 結月は両腕で小さくガッツポーズする。

「危なくなったら下がればいいからな」

「そうそう、いざとなったらくおんを弾除(たまよ)けに使えばいいよぉ。それで万事解決だぁ!」

 ゆきがワシのガーディアン越しに、相変わらずの口の悪さで楽しそうにいい放つ。

「弾除けっておまえな……」

「あはは、ありがとう。でもせっかくだし、ここは一人で頑張ってみるよ。久遠くんに私の戦力がどのぐらいになるか、見せておきたいしね」

 そして結月は意を決し、前方にいる部隊へと歩いて行く。

 すると相手側は目の前にいるのが敵だと察して、臨戦態勢を取り始めた。後方にいる部隊も武器を構えながら様子見しており、戦うか逃げるか見極めているのだろう。レイジたち二人が第二世代なのはすぐにわかるので、うかつに手を出せないようだ。

「一応聞いておくが、キミたちは我々の邪魔をするつもりか?」

 前方にいた部隊の隊長格と思われる男が前に出て、結月にたずねてくる。

「うん、悪いんだけど仕事なの。だからあなたたちが手に入れたメモリースフィアを渡してもらうね」

「そうか、ならば仕方ない。どこの差し金か知らんが、消えてもらおう!」

 隊長格の男が手を上げ合図を出した瞬間、一斉に前方の部隊が動きだした。まずゼロアバターのアサルトライフル持ちの三人が前に出て引き金を引き、一斉射撃を開始。銃口が火を()き、鳴り止まない銃声が辺り一面に響き渡った。

 フルオートで(はな)たれ続ける銃弾の嵐は、標的をハチの巣にしようと結月を襲う。

 デュエルアバターだと銃弾の数発ぐらいなら普通に耐えられ、そこまで重いダメージではないのだ。しかしここまで集中放火され、命中しまくったとなるとさすがにきついといっていい。

 しかも相手側の動きはそれだけでなかった。たたみ掛けるように隊長格をふくめた四人のデュエルアバター使いの男たちが、左右二手に分かれ動く。銃弾の射線上を避けながら剣や槍、斧といった武器を振りかぶり、結月目掛けて突っ込んで行ったのだ。これではたとえ銃弾の嵐を切り抜けたとしても、左右からの攻撃に対応しきれずそのまま強制ログアウトに持ち込まれてしまうだろう。

 絶対絶命といった状況を前に結月はというと、今だその場で避けようとせずじっとしていた。だがこうなるのも仕方のないこと。彼女はクリフォトエリアでの戦闘は初めてであり、対応しきれないのも無理はない。いくら第二世代であったとしても、ここまで見事な連携をとられたならば積む可能性もあるのだ。

(クッ!? さすがにこの状況はヤバイか!?)

 手助けしようとレイジは刀を鞘から抜こうとする。

 だが結月が右手を前に突き出した瞬間、劣勢だった事態が一変。銃弾がまるで鉄の壁にはばまれたかのように、はじかれた音が鳴り響いたのだ。なにが起こったのかと確認すると、なんと結月の目の前にはいつの間にか氷の壁ができており、それがせまりくる銃弾から彼女を守っていたのである。

(冷気……?)

 レイジは気づいた。

 結月を中心として、いつの間にか冷気がこの場所一帯を支配しているのを。気温が急激に下がっていき、彼女の真下の地面が徐々に凍結していく。

 しかも事態はそれだけでおわらない。結月が右手をかかげたと同時に、彼女の後方に氷の結晶が生成されまたたく間に肥大化。合計七本の氷塊は人の背丈ほどの巨大な氷柱(つらら)となり、()ぬくべき標的に狙いをさだめる。

「貫け」

 そしてかかげていた手を振り下ろす結月。それを合図に氷杭ひょうこう(くう)を切り裂き、標的に向かって一直線に飛来。もはやその勢いは相手の肉をたやすく食い破る銃弾といってよく、しかもその質量から直撃すれば致命傷はまのがれない代物(しろもの)。そんな空を駆ける凶器が敵に降り(そそ)いだのだ。

「うわーーー!?」

 氷杭はまず銃弾を弾き返した光景に呆然(ぼうぜん)としていたゼロアバター三人を、軽々と串刺しに。さらに二人一組で左右に分かれ突っ込んでいた男たちの左右一人一人を、対応させる間もなく(つらぬ)いた。

 これにより結月の攻撃を受けた者たちは粒子となって消え、強制ログアウトさせらていく。だが残り二人。左右にいた片方の者たちは、襲い掛かる氷杭をなんとか武器で()らし被害を最小限に抑えたみたいだ。

「まだまだ! 終わらんよ!」

 右側の剣を持った隊長格の男が叫ぶ。相手側の二人はひるみはしたものの後退はせず、結月との距離を詰めていく。彼女の氷のアビリティの性質がわかった以上、距離を空けるのは得策でないとふんだのだろう。それに今なら結月が技を放った後なので、隙が生まれると判断したはず。しかし彼らの期待は裏切られること。

「させないよ!」

 結月は右手の方で氷の剣を生成したかと思うと、その(ひょう)(けん)で斬りかかろうしてくる隊長格の男の攻撃を受け止めにいったのだ。

 剣と氷剣がぶつかりあい火花が散る。氷剣は銃弾を弾いた時のように強度が高いらしく、まったく砕ける気配がない。ここは電子の世界の中なので、必ずしも現実と同じ常識が通じるとは限らない。なのでアビリティーの設定次第では鉄と同じ強度の氷を生成したり、炎、風、雷といった形をもたないものを物質化したりなど好きにできてしまうのだ。

 剣と氷剣が何度か斬り結び合い、つばぜり合いに持ち込まれた。すると結月の方が徐々に押され始める。彼女のデュエルアバターはアビリティー特化タイプのカスタマイズなので、その分接近戦向けのステ振りをしていないからであろう。

「このまま押し切らせてもらう!」

 隊長格の男は勝ち誇ったように叫びながら、剣に力を込めた。

 さらに結月の後方には、左側から攻めていた男が槍で仕留めようと突っ込む。

 そんな状況に結月は。

「ごめんなさい。私はこんなところで負けるわけにはいかないの。だから!」

 氷剣から左手を離し、結月はもう一本の氷剣を生成。そしてすぐさまその氷剣で隊長格の男を薙ぎ払った。

「――ば、ばかな……」

 隊長格の男は信じられないというような顔で粒子となって消え、強制ログアウトする。

「よ、よくもッ。隊長のカタキーッ!」

 しかしそれと同時にもう一人が槍を突き付けて、結月を背中から(つらぬ)こうと。結月は今だ後ろを取られたまま。そして振り替えるよりも早く槍が彼女に届いてしまう。

 だが。

氷柱つららよ」

 結月がそう呟いた瞬間、彼女の後ろの地面が次々に凍り始める。そして氷は地上から瞬時に天目掛けて隆起(りゅうき)。氷の(とげ)となって後方にいる男を串刺しようといわんばかりに、襲い掛かる。

「ッ!?」

 間一髪のところで男は後ろに跳び引く。もしあと少しでも反応が遅れていたら、そのまま氷の棘に自分から突っ込んでいただろう。

 飛び退く中、男はなんとか避けたことで安堵の表情を浮かべていた。しかしその表情はすぐさま絶望のものへと変わる。

 なぜなら結月は真後ろにあった氷の棘が射線上に入らないように横へ一歩移動し、右手の氷剣を離していたのだ。その氷剣は持ち主が持ち上げていないにも関わらず独りでに宙に浮いており、さっきの氷抗と同じく標的に狙いを定めていた。

「氷剣よ、射貫いぬいて!」

 結月の掛け声と同時に、氷剣という名の弾丸が発射。その勢いはさっきの氷抗と同じように(くう)を切り裂き、一切の狂いなく男の胸板に吸い込まれていく。

「ぐふっ!?」

 男はそのままひざをついて崩れ落ち、粒子となって消えていった。

 こうして前半戦は最後の敵が強制ログアウトしたことにより、結月の勝利として終わったのであった。

「お疲れ、結月。後はオレがやるよ」

 レイジはそのまま結月のところまで歩いて行き、ねぎらいの言葉を掛ける。

「そのことなんだけど、思ったよりもいけそうだからこのまま続けても大丈夫よ」

 すると結月は力強く微笑んでくる。どうやら本人はまだやりたいらしい。

 確かに結月の実力なら、たとえBランクが相手だとしても問題ないだろう。なので少しでも実戦を積ませるために、彼女の案を受けてもいいのだが、ここは却下しておくことにした。

「うーん、そうさせた方がいい気もするけど、今回はゆずってもらおうかな。結月の強さは十分見せてもらったし、今後のためにも、オレの戦い方を見せといた方がいいと思うからさ」

「そっか、お互いの戦闘スタイルを把握しておくことは大事だものね」

「――と、言いつつ、本当はただ戦いたいだけだという、くおんの本音であったぁ……」

 話がまとまったところに、ゆきの声が割り込んでくる。

 レイジとしては失礼な、と抗議したいが、本当のことなので受け入れるしかない。

「――おい、オレの心の声を代弁(だいべん)するな、ゆき」

「うわぁ、やっぱり図星かぁ。これだから脳筋の戦闘狂は困るー」

 あきれたようなゆきの声が。

 結月はそれに苦笑しながらも、レイジにゆずってくれる。

「あはは、それじゃあ久遠くんに残りの敵を任せるから、頑張ってね!」

「ああ、任せてくれ。結月があれだけ鮮やかに決めてくれたから、オレもかっこいいところみせてやるよ。――では早速……、って、あいつら逃げる気か?」

 不敵に微笑んでいると、事態に動きが。

 向こうは向こうでなにやら話し込んでおり、それからゼロアバターたちを前に展開しだしたのだ。そしてあとの残りは、後退するような動きをみせる。

 おそらくレイジたちがただ者でないとわかり、ここは撤退することを選んだようだ。そのため何人かが残ってしんがりをやる気なのだろう。

「くおん。メモリースフィアを持ってるのは、あの第二世代。逃がすんじゃないぞぉ」

「そんなへまするかよ。ああいう強そうなやからはぜひ戦ってみたいから、絶対逃がしてやるものか」

 刀に手を掛けながら、前へと出ようとする。

「待って、それならこうして」

 そこへ結月が地面に手を置いて、なにやら目を閉じ始めた。

 次の瞬間、地面が一直線に凍っていき、敵側の後方に巨大な氷の壁が生成される。その道沿いの端から端まで埋め尽くし立ちはだかる氷の壁によって、彼らの一番手近な逃走経路はふさがれたことに。ただでさえビル間の横道は狭く、使いにくいというのにだ。

 相手側の様子を確認してみると、もと来た道を引き返せなくなったと混乱している様子。これで逃げるとしても少し時間が掛かってしまい、レイジとしては追い詰めやすくなったというもの。

「おっ、サンキュー、結月。これならそう簡単に逃げれそうにないな。――さあ、ショータイムの始まりだ!」

 レイジはさやから刀を抜きながら、楽しげに告げるのであった。


次回 レイジvs狩猟兵団の集団

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