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電子世界のフォルトゥーナ  作者: 有永 ナギサ
1章 第2部 電子の世界エデン

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21話 電子の世界エデン

1章 第2部 電子の世界エデン

 レイジたちはあれからすぐに事務所内のエデンに行くとき用の部屋から、有線式の専用機材を使ってエデンに入っていた。

 セフィロトが自身の電子ネットワークと、その中にあるすべてのデーターを物質化して創りだした電子の世界、エデン。その構造をわかりやすく説明すると現実の地球をそのままの形と大きさでコピーした、もう一つの地球だ。こうなったのも一から新しく世界の形を創造したならば、構造が複雑になり利用しにくくなるとされたから。なので人々に一番なじみの深い形になったというわけである。たださすがにすべての部分を使う必要もないので、その各国々の象徴(しょうちょう)である都市や主要な地区の一帯の区画だけを、人々がエデンで自由に活動できるエリアに指定していた。その区画をアースと称し、日本だと北海道、東北、関東、中部、近畿、四国、九州の七つのアースが存在しているということに。あとレイジたちが現在いるのは、東京を中心をした首都圏内の区画である関東アースにいた。基本場所に関しては、行きたい座標を打ち込めばどの場所にでもすぐさま移動することができるのであった。

 ちなみにエデンに入るときに必要な有線式の専用機材は、今やどの建物にも設置されているといっていい。それは家やオフィスなどの仕事場、ホテルといった宿泊施設の各部屋や公共施設などにも当たり前のようにあり、むしろ設置が義務付けられているほど。さらに外出中などいつでもエデンに行けるように、ネットカフェのような施設がこれまでと比べて急激に増加しているのだ。その使い方はまず市販の簡易式ヘッドギアについているコードを、専用機材に差し込む。あとはヘッドギアを頭に装着し起動させれば、エデンの中に入れる仕組みになっていた。

「よし、到着と」

 ふと空を見上げると雲一つない青くみ切った空が。エデンの天気に関しては基本快晴となっており、現実の時間と合わせて朝昼夜となっていく感じなのだ。そのため日中は気持ちのいい晴れ晴れとした空が広がり、夜はきれいな満天の星空が迎えてくれるのである。

「ははは、相変わらずここはにぎやかだな」

 レイジたちがエデンにログインしてまず出てきたのは、大通りのスクランブル交差点のど真ん中。休日とあてっかこの場所は人でいっぱいだ。建物に取り付けられた超大型モニターに映る映像を見ている人や、グループで楽しそうにおしゃべりしている人。待ち合わせなどで時間をつぶしているのか、宙に自身の選択画面を出してターミナルデバイスを操作するかのごとくいじっている人などなど。その光景はもはや現実の大都会の様子と同じような感じだ。しかも次々とレイジたちのように人々が入ってきて、各々の目的地に向かったり、友達とかと合流したりしている。そのガヤガヤとしたにぎわいっぷりを見るに、本当にここは平和な世界だと笑ってしまう。

 あと現在レイジたちがいるメインエリアという場所は、指定した座標にすぐに飛べるため車や電車とった車両系の乗り物などは存在しない。なのでこのスクランブル交差点のように道路全体が、歩行者貸し切り状態。よって車など気にせず、ずっとおしゃべりとかして居座ることができるのだ。

「さて、これからどうしたものか。急ぎの用じゃないって言ってたし、結月にレクチャーしながら向かうとして」

 少し遠くの方に視線を移すとお店がずらりと並んでおり、ところどころにマンションやオフィスビル、イベント会場の用の建物などがそびえたっている。もはや大都会の街並みそのものだ。

 この場所こそ、エデンでもっとも人々のなじみ深いメインエリアと呼ばれる場所。アースの地表部分はこのメインエリアで構成されているのだ。その構造は居住スペースや様々なお店や建物、広場などがアース一面にかれている。そしてその中にビジネスゾーンや保管(ほかん()ゾーンといった特殊な場所が、一定間隔で配置されている形だ。あとクリフォトエリアという特別な場所もあり、このアースの地下に存在していた。

 ちなみにこのスクランブル交差点のような場所もまた、ある程度の間隔で用意されているのだ。そして人々にはメインエリアのエントランスみたいな感じで、使われることが多かった。

久遠くおんくん、それなら話しができる、落ち着いたところに行こうよ。とりあえずどこかの喫茶店にでも行く?」

 制服でなく私服姿の結月が声をかけてくる。その外見はエデン用のアバターにも関わらず、本人とまったく同じである。このメインエリア、さらには戦場であるクリフォトエリアはエデンのシステム上の制約により、アバターを現実の自分の姿と同じにしないといけない。なので決められた期間ごとに専用のスキャナーを使って全身のデータを取り、本人と同じ外見のアバターにするのであった。

 ちなみに現在レイジと結月が使っているのはデュエルアバター。結月の方は事前にデータを取っておいて、レーシスに用意してもらっていたらしい。これは戦場であるクリフォトエリア限定で力を振るう事ができるアバターなのだが、ほかのエリアだと普通のアバターとまったく同じ仕様になっていた。なぜ今使っているのかというと、クリフォトエリアに向かうにはデュエルアバターでないと入れないからだ。

「――あまり表沙汰(おもてざた)にできない話なら、私の部屋に招待してもいいけど……」

 結月は手をモジモジしながら、提案してくる。

 エデンの一番のコンセプトとなっているのは人々がセフィロトの様々なサポートのもとデータに直接触れて、より効率的な作業をするというもの。その性質上この世界はゲームのような感覚ではなく、データを扱う作業場という側面が強かった。そのためエデンには居住スペースやビジネスゾーンのように、なんらかの作業をするための場所がいくつも用意されているのである。

 今回結月が言っているのは、個人がエデンでの作業場を借りることができる居住スペースのことであろう。これらは基本高層マンションの形をとっており、一室を借りる形式。部屋の中は独立した広い空間になっていて、払った家賃(やちん)の分いくらでも大きく設定できるのだ。値段はそこまで高くなく学生でも気軽に借りられるようになっていて、一度契約するといつでもその場所に直接入れたり、人を招待出来るようになるのであった。

「さすがにそこまでしなくていいよ。いざとなればビジネスゾーンにある、アイギスの事務所にでも行けばいい話だし」

 ビジネスゾーンも基本は居住スペースのようなものだが、こっちは高層マンションだけでなくオフィスビルや、その仕事にあった外観の様々な形の建物が立ち並び密集している。ようはビジネス街のような形式をとっていた。

 こちらは社会人などの働く人がメインの場所。これはより効率的に作業をするため現実の仕事場だけでなく、エデンにも同じような仕事場を作っておくのがもはや一般的になっているからだ。このエデンに仕事場となる事務所を用意してあると、依頼や営業なのですぐさま相手側の事務所がある場所の近くに移動することができ、現実の移動時間をムダにしなくてすむ。なのでアイギスの場合も、エデン用の事務所に来客があればすぐさまエデンに入って依頼を聞く流れであった。

 ちなみにエデンでのアバターを現実と同じにしないといけないのは、こういった仕事関係の事情がふくまれていたりするらしい。

「それならよかった。誘っておいてなんだけど、久遠くんを呼ぶなら急いで部屋を片付けないといけなかったから。あはは……」

 結月はほおを赤らめながら、むねをなでおろす。

 その様子からして、あまり見つかりたくないものがあったのかもしれない。さっきはさらっと流してしまったことであったが、よく考えてみるとすごく興味が湧いてきてしまった。

「――なんかそういわれると、急に行ってみたい気が……。ははは、わつい、結月。やっぱりくわしく説明したいから、お邪魔させてもらおうかな」

「あはは、アイギスの事務所がこっちにもあるなら、もう行く必要ないよね? だからまたの機会に!」

 頭の後ろに手をやりながらたずねると、結月はにっこりほほえんで却下してきた。

「――クッ……、仕事中ってことで真面目に考えすぎてて、選択をミスったか……」

 自分のミスに思わず肩を落とす。

 うまくいけば結月みたいなかわいい女の子の部屋に入れるという、思春期の男子としてはありがたい貴重な体験が出来たかもしれなかったのだが。

「それでどうしよっか?」

「――まあ、とりあえず適当に歩いて、人通りが少ないところでも行くか。そこで軽く説明してから、オレたちの戦場であるクリフォトエリアに向かおう」

「うん、いいね! そうしよう!」

 レイジの提案に、結月はどこかうれしそうに賛成してくる。

 やることが決まったので、レイジたちはメインエリアを歩いて行くことにした。


次回 結月とのデート



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