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電子世界のフォルトゥーナ  作者: 有永 ナギサ
4章 第3部 謎の少女と追いかけっこ 

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180話 追いかけっことポッ〇ーゲーム?

 レイジは(はい)ビルの階段を、ダッダッダッと全力で上がっていく。中は無人ゆえより足音が響き渡っている。現在咲(さき)をつかまえようと、シティーゾーンを駆けまわっている真っ最中。そして今彼女をこの五階立ての廃ビルまで追い込み、つかまえようと必死になっていた。

「ふふん、お兄さん、こっち、こっち!」

「屋上か!」

 階段上から咲の楽しげな声が聞こえてきたので、すぐさま急行。

 屋上の扉を開け、外に出る。すると咲が奥の手すりの方にいた。

「はぁ、はぁ、咲、やっと追い詰めたぞ」

「あー、あー、追い込まれちゃった!」

 肩で息をしながら近づいていくと、かわいらしく舌をだす咲。

「さあ、そろそろ観念してだな」

「なーんてね! バイバイ! お兄ちゃん!」

「なっ!?」

 追い込んだと思ったのもつかの()、咲は手を振ったあと手すりを飛び越えそのまま降下。なにごともなかったかのように着地し、路地裏の通路を逃げてしまう。

「カノン! そっちにいったぞ!」

 なのであわてて手すりから下をのぞき込み、声をかける。

 そう、咲が逃げた先にはなんとカノンの姿が。彼女には咲がビルを飛び出す可能性を考え、周辺に待機してもらっていたのである。

「任せてなんだよ! さあ、咲ちゃん、ここでお(なわ)についてもらうね!」

 カノンは両腕を横にバッと広げ、咲に立ちふさがる。

「ふふん、次はお姉さんか! 咲を捕まえれるものなら、捕まえてみなよ!」

 次の瞬間、咲の速度が一気に跳ね上がる。どうやらアビリティを使い、一気に()ける気らしい。

「そこなんだよ!」

 カノンはなんとか咲をとらえつかまえようと。

 しかし彼女の腕は空を切るだけ。なんと咲はつかまる寸前、かろやかに跳躍(ちょうやく)しカノンを飛び越えていってしまったのだ。

「あわわ、そんなー!?」

「ふふん、お姉さんもバイバイ! 次は中心のタワーのところで遊ぼうね!」

 咲は振り返り手をぶんぶん振りながら、はしゃぎぎみに行き先を告げてくる。そして猫のような俊敏さで、またたく()に走り去ってしまった。

「また逃げられたか」

 レイジも咲と同じく屋上から飛び降り、カノンのところへ。

 そう、こんな感じのことが先程からずっと続いているのだ。追い込んだと思ったら逃げられのくり返し。相手が相手だけに、なかなかつかまえられないのであった。

「ごめん、レージくん。逃げられちゃったんだよ」

「仕方ないさ。あんな手を使われたら、オレでも難しいよ。それにしても、ここまでいいように遊ばれるなんて」

「うん、咲ちゃん、なかなか手強いんだよ。なんだか逃げちゃった猫さんを、つかまえようとしてる気分だね、えへへ」

 カノンは悔しそうにしながらも、どこかほほえましそうに笑う。

「せめてあのアビリティをどうにかできればいいんだが」

「そうだね。とらえても急に速度を上げられたら、つかまえようがないかな」

「おや、二人とも苦戦しているようですね」

 二人でがっくり肩を落としていると、美月から通信が。

「なあ、美月も手伝ってくれないか? 二人だときついんだが?」

「いやですよ。鬼ごっこするほど、美月は子供ではありませんので。お子様のお相手は引き続きお二人にお任せします」

 とりつく島もなく、きっぱりと断られてしまう。

 そう、美月は咲との鬼ごっこに参加していない。走り回るのは御免(ごめん)だと、おわるまで待っているのであった。

「美月ちゃん! そこをなんとかできないかな!」

「ふぅ、仕方ありませんね。これまでの報告からみるに、ターゲットは完全に遊んでいると推定できます。だからわざと姿をちらつかせて追わせたり、ヒントを出したりしている」

 カノンの精一杯のお願いに、美月はようやく重い(こし)を上げてくれたみたいだ。

 咲はレイジたちに追ってほしいのか、たびたび姿を見せたり、行き先を伝えてきたりしていたのである。

「まあ、そうなるな」

「クス、では、別のアプローチを試みてみるとしましょうか」

 そして美月は不敵に笑い、ある案を出してきた。






「ほんとにこれで大丈夫なのか?」

 現在レイジとカノンは咲を追いかけていない。

 ここは廃墟の街中のとあるカフェ。そのカフェテラス席に座り、お茶しながらおしゃべりをしていた。ただ気になるのは、周りの視線。なんといってもこちらには、お姫様オーラ全開のカノンがいるためけっこう目立つのだ。そのため通りかかる人は誰だあの美少女と見惚れ、そして一緒にお茶しているやつは誰だと嫉妬しっとのまなざしを。もはや居心地がけっこう悪いといっていい。しかしカノンの方はとくに気にした様子もなく、レイジとのおしゃべりを楽しんでいた。

「えっと、美月ちゃんが言うには、このまま二人で楽しくおしゃべりしとけばいいんだよね?」

「ああ、そしたらそのうち向こうから姿を現すだろうから、そこをとっつかまえるって作戦だとさ。つかまえるに関しては美月がやってくれるらしいから、オレたちは(えさ)としてできるだけ引き付けとけってオーダーだ。でもこんな作戦に引っかかってくれるものかね?」

 見え透いた作戦に、肩をすくめ笑うしかない。

 おそらくこれは咲の遊んで欲しいという心情に、つけこんだ作戦。あえて興味をなくしたようにすることで、むこうはかまってほしいと茶々を入れてくるだろうと。

「でもやるだけやってみようよ! それでレージくん。ただおしゃべりするだけより、なにかやって()り上がった方がいいと思わないかな?」

 カノンは両腕で小さくガッツポーズを。そしてレイジに意味ありげなまなざしを向け、小首をかしげてきた。

「一理あるが、なにをするんだ?」

「えへへ、実は少しやりたかったことがあるんだよ! 今購入するから待っててね。はい、これだよ!」

 カノンは購入画面を開く。そして目を輝かせながら、じゃじゃーんっとお菓子の箱を取り出した。

 そのパッケージから見るに、チョコレートがついた細いスティック状のお菓子のようだ。

「お菓子?」

「うん! このお菓子をお互い両端(りょうはし)から食べていくってゲームなんだよ! 聞いたうわさによるとすごく盛り上がるんだって。せっかくだし、二人でやろうよ!」

 わくわくといった感じにお菓子の箱を開けながら、ウィンクしてくるカノン。

「カノンがやりたいならいいが」

「やった! じゃあ、スタートなんだよ!」

「ああ」

 二人で一つのチョコレートのついたスティックをくわえ、食べていく。

 だがある程度食べたところでふと疑問が。

(あれ? これどこまでいったらおわりなんだ?)

 そう、このまま食べ進めていくと、カノンとぶつかることに気付いてしまったのだ。

 レイジは小さいころから狩猟兵団で戦いに明け暮れていたので、こういった遊びにうとい。さらにカノンの説明もあいまいだったため、どこでゲームがおわるかわからなかったのである。

(――このままだと(くちびる)が……、って、なに考えてるんだオレ!?)

 すでに二人ともかなり食べ進めており、顔はもうふれ合うぐらい近い。そのため思わずカノンの(やわ)らかそうな唇に、目がいってしまった。このまま進めばキスみたいな感じになってしまわないかと。

(そうだ! カノンの出方を見れば!)

 ここはカノンに任せようと、彼女をみる。

「――うぅ……」

 だがカノンの方も、レイジと同じく固まっている。

 よく見れば彼女の顔は、はずかしさのあまりか真っ赤に()まっていた。

(もしかしてカノンも知らないとか……、――ははは……)

 そしてお互いどうすればいいかわからず、ただ見つめ合う形に。

 おそらくカノンもただうわさで聞いただけなのだろう。実際遊んだことがなく、やった結果どういう展開(てんかい)になるのかもくわしく知らなかったみたいだ。この場合ただ口を離せばよかったのだろう。だがカノンはレイジの初恋の相手。そんな相手とキス間近という展開のため、思考回路がやばく冷静な判断ができなかったのである。

「お兄ちゃん! 咲を放ってなにやってるのかな!」

「「わわ!?」」

 そこへ救いの女神(めがみ)が。最後の一口分で固まり合う二人に、テーブルをドンッとたたきながらのツッコミがきたのだ。

 突如(とつじょ)割り込んできたのは、先程まで追いかけっこをしていた咲。ただそのおかげでレイジたちは口を離すことに成功。あの甘酸っぱい硬直状態を、なんとか切り抜けられたのであった。

 そして事態はさらに進み。

「はい、そこまでです。上層部のエージェント」

「わっ!?」

 咲の首元にレイピアの刃先(はさき)が。

 なんとすでに美月が咲の後ろに回り込み、レイピアを向けていたのだ。

「ふぅ、これで捕獲完了ですね」

 こうしてレイジたちは、咲をつかまえることに成功したのであった。


次回 痛い視線

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