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電子世界のフォルトゥーナ  作者: 有永 ナギサ
4章 第3部 謎の少女と追いかけっこ 

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175話 エデン財団について

「エデンと人類を結ぶ研究こそ、もっとも重要視されてるのが今の時代! だからエデン財団は世界最大規模の研究機関として君臨(くんりん)し、その研究者の数はほかとはもうケタ違いのレベルに膨れ上がってるのよん!」

 ファントムはエデン財団についての講義を始める。

 エデン財団とはセフィロトがエデンを生み出すプランを出した直後に、白神しらかみコンシェルンが設立した組織である。その役目は電子の世界と現実を結ぶ技術開発。それゆえセフィロトと共にエデン用の機材や第二世代といった様々な開発に取り組み、今現在もさらなる人類の進歩のため研究が進められているのだ。

 エデン財団は企業側と違い、傘下といった形式を持たない。一つの巨大な組織内で、すべてのエデン関連の研究者を取りまとめていた。

「研究機関ゆえ、当然研究に明け暮れてる日々! それは今も変わらないんだけど、パラダイムリベリオン後の影響で大きく変わってしまったんだー! その発端(ほったん)になったのが、アーカイブスフィアの問題。 あの事件でふれたらデータを好きにし放題になったから、クリフォトエリアで管理するはめに」

 研究機関なのだから、当然研究がすべて。しかし九年前のパラダイムリベリオンによって、そのあり方は一変。そこに企業側と同じように、データ管理と奪い合いが加わりだしたのだ。

「ここまでの流れは基本企業側と同じなんだけど、そこからヤバイことになったのよん! 研究者にとって一番避けたいのは、今研究しているデータの情報漏(ろう)えい。()れたらそのデータをもとに先に完成され、手柄(てがら)を横取りされる可能性があるでしょ? そんなことになれば、今までの苦労が水の泡! たまったものじゃない! しかもこのことはアーカイブスフィアを管理するトップたちなら、誰でもできるときた! もはや派閥(はばつ)争いや根回しとかで、いつ標的になってもおかしくない状況に!」

 エデン財団のアーカイブスフィアを管理しているトップの人間たちなら、いくらでもデータを悪用できる。つまりデータの横流しや妨害(ぼうがい)といった手段で、思い通りに派閥を優遇するなど造作(ぞうさ)もないのだ。恩恵(おんけい)を受けられる側にとってはこの上ない状況だが、奪われる側にとっては迷惑きわまりない話。もはや研究の苦労などあまり意味がなく、トップへの顔の立て方が大事といっても過言ではないのだから。

「だから自分たちの研究グループだけで、アーカイブスフィアを管理する者たちが続出したんだよねー! 管理はもちろんエデン財団のアーカイブスフィアに、途中報告や完成後のデータを納品(のうひん)する手間が増えたけど、いたしかたなしって感じで!」

 この事態を未然に防ぐには、自分たちの研究データをトップの者たちと切り離すしかない。ようはエデン財団のアーカイブスフィアとは別に、自分の研究チームのアーカイブスフィアを用意すればいいのだ。こうすれば向こうは触れられないので、研究データをおいそれ悪用することができない。そしてあとは完成した研究データを、発表と同時にエデン財団のアーカイブスフィアに納品(のうひん)する。これなら自分たちの成果を、理不尽に利用されることはないというわけだ。

 ただしこの方法だと自分たちがやっている研究の途中(とちゅう)経過(けいか)を、エデン財団のアーカイブスフィアに報告する義務が。なのでデータをメモリースフィアに入れ、納品しに行かなければならなかった。このときも企業側と同様に、必要なのはアーカイブスフィア内で作られる、しっかりとした計算にもとづいて裏付けもされた立証データ。なので書き込むだけといった、安易な方法は取れなかった。

 ただ納品時に関して救いなのは、そこまで詳細に研究データを報告しなくていい点。なので悪用されるとしても、向こうには詳細を省いたデータしか渡らないため、かなりこちらの被害を軽減できるのであった。もちろんこれによりほか同様、データの管理や納品時奪われるリスクが()せられるのだが。

「ここで驚くのはその数! エデン関連の研究者がすべて集まる組織だから、研究チームの数は尋常じゃない。もう、そのせいで企業側なみに、データの奪い合いが殺伐(さつばつ)といっていいのよん! なんたって研究機関みたいなところは、とにかく成果がすべて! 成果を出せばその分資金や設備が優遇されるということで、どこも躍起(やっき)だからね! 奪って先に完成できれば、勝ったも同然! どれだけ労力と時間を(けず)れることか! まさに夢のような近道! 狙わない手はないってわけ!」

 そう、今や研究機関はただ研究に明け暮れる場所ではない。中にはデータを奪い合い、研究成果を横取りするのが日常茶判事。もはや研究チームの数や奪った時のメリットから、規模は企業側並に激しいといっても過言ではない。上位の研究チームとなれば財閥レベルの管理になっていることも。

 ちなみに研究機関側のデータの管理や奪い合いは、自分たちでなくエデン協会や狩猟兵団に依頼するのが基本。その費用は必要経費としてある程度、エデン財団側が出してくれるらしい。

「じゃあ、エデン財団のアーカイブポイントがある関東アース内で、多くの研究者たちがデータを管理し争ってるんだね」

 現在エデン財団のアーカイブポイントは、日本の関東アースのクリフォトエリア。ちょうど十六夜(いざよい)()十六夜(いざよい)(とう)の近くなのだ。

「ううん、別のアースで管理してるチームも結構いるねー! 関東アースにはエデン財団のアーカイブスフィアがあるから、探りを入れてくる(やから)が多い! だから割と静かなアースで管理し、納品時に大掛かりな運搬(うんぱん)(とど)ける形が好まれてるのよん!」

 今いるクリフォトエリアの外周部分の方まで行くと、別の好きなアースのクリフォトエリアの内周部分に飛ぶことができる。ゆえに近いからといってわざわざ魔境(まきょう)で管理しなくても、安全なところで管理し持っていけばいい。これにより自身のアーカイブポイントが狙われるリスクを、かなり軽減できるのだ。そのため世界中のアースで、研究機関のデータをめぐる戦いが繰り広げられているのであった。

 この場合のデメリットは運搬する距離が長くなるのはもちろん、現実とアースのリンクによるラグ問題で人員が増えること。ようは端まで運ぶ部隊と、エデン財団のアーカイブポイントへ届ける部隊がいる。そのためデュエルアバター使いを雇う費用が、高くついてしまうのだ。

「まあ、そんなわけでエデン財団が企業側や情報屋に並ぶ、データの奪い合いの発端(ほったん)三大基盤といっていいのよん!」

「研究職までデータの奪い合いが激しいなんて、ほんとすごい世の中よね……。――あはは……」

 今の世界の混沌(こんとん)ぶりに、もはや結月は笑うしかないようだ。

「大体の説明はこんな感じかなー? で、ここからが今調べてる本題! エデン財団上層部について!」

「――上層部……。なんだかすごい重みがある(ひび)きね。どういう感じなの?」

「うーんと、それがほとんどつかめてないのよん。最上位クラスの人間で構成されていて、財団の方針とかを決めてるらしいんだ! でも、そのメンバーは情報漏えいを防ぐため、完全に非公開! だから(さぐ)ろうにも、誰を()ぎまわればいいか難しいんだよねー」

 ファントムは歯がゆそうに、彼らについて説明してくれる。

 エデン財団上層部。ウワサだと選ばれた最上位メンバーで構成されており、エデン財団を取りまとめているそうだ。しかしそのメンバーは、エデン財団内部の人間のほとんどが知らないらしい。もはや完全に謎に包まれた存在。近づこうとすれば、なにかしらの妨害が入るとかなんとか。

「たぶんそこで保守派の計画の話が進められてるはず! だからまずワタシたちのすることは 、その上層部メンバーを特定しないといけないのよん!」

 保守派の計画と関わっているのは、まず間違いなくエデン財団上層部であろう。おそらく上層部の権力を使い、秘密裏に計画が進められているはず。保守派の計画を追うなら、まずこの上層部からアプローチをかけるべきだ。

「その特定、なにか策があるのか? エデン財団内部でも、上層部メンバーを知ってるのはごくわずかなんだろ? 手当たり次第研究者のデータを奪うのは、さすがに骨が折れそうだが」

「にひひ、そこはしっかり考えてるのよん! この場合まずエデン財団でも上位クラスの人間を買収(ばいしゅう)し、内通者になってもらうのがベスト!」

 不敵に笑い方法を提示するファントム。

 外部からアプローチしていくには、あまりに闇雲すぎて限界がある。ならば内部事情にくわしい人間を(ひき)いれ、ポイントを(しぼ)るのが確かに効果的だろう。

「なるほど。内部から手引きしてもらうわけか。進行具合は?」

「今、内通者に最適な人材を、ピックアップしてるところだねー。まあ、大方絞りきれたから、徐々に交渉(こうしょう)の準備へ取り掛かるつもり!」

「さすが伝説の情報屋、ファントム。手が早いな」

「にひひ、それほどでもー! ということでお目当ての情報はもう少し待ってほしいのよん! 内通者の目処(めど)がたったら、また連絡するから!」

 レイジが賞賛すると、ファントムが頼もしくこたえてくれる。

「わかった。引き続き頼む」

「じゃあ、ファントムさんはこれにおさらばするのよん! ばいばーい!」

 ファントムは現状を説明しおえ、通話をきった。

「カノン、なにか重要なこと書いてあったか?」

 さっきからレイジの代わりに、購入した情報を見てくれているカノンにたずねる。

「うーん、今のところ冬華さんが納得しそうな情報はないみたいだね」

 カノンは残念そうに首を横に振る。

「そううまくいかないよな。ファントムももうしばらく時間がかかりそうだし、オレたちもできる範囲で探りに行くとするか」

 こうしてレイジたちはエデン財団上層部の情報を求め、再び行動を開始するのであった。



次回 休憩

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