174話 情報屋
4章 第3部 謎の少女と追いかけっこ
冬華との会談がおわってからすぐ、レイジとカノン、結月はメインエリアのビジネスゾーンへ。そのエデン協会アイギスの事務所内へと来ていた。中は現実でのあの寂れた味のある事務所とは違い、ちゃんとしたオシャレなオフィス。外側の壁はすべてガラスとなっていて解放感があり、外の景色を一望できる。この借りているフロアは上層部分なため、ビジネスゾーンだけでなくメインエリアの方も上から見渡せ、かなり壮観であった。
現在三人で来客用のソファーに腰を下ろしながら、冬華に出された条件であるエデン財団上層部の情報を探っていた。
「ファントム、こっちはビジネスパートナーなんだから、もう少しぐらい安くならないのかよ?」
そして今、凄ウデの情報屋であるファントムと連絡をとりながら、情報を買おうとしている真っ最中。那由他やレーシスから力を借りれない以上、頼みの綱はこの手のプロのファントム。よって冬華と別れた後すぐに連絡を入れ、彼女が持っている情報を使い探りを入れようとしているのだ。
現在、ファントムのアーカイブスフィアにつながり、情報のラインナップを閲覧しているところ。問題は詳細を見るための金額が、ほかの情報屋よりも高いということだろう。
「にひひ、これでも十分安くしてあげてるのよん! 凄ウデの情報屋であるファントムさんの情報なんだから、それなりの値は仕方ないってね!」
こちらの値切りに、ファントムは不敵に笑って却下の言葉を。
「くっ、カノン、これアイギスの経費で買っていいか?」
「うん、今の私たちにとって必要なものだから、金銭問題はこの際目をつぶろう。那由他には私から言っとくんだよ」
「わかった。じゃあ、ファントム。とりあえず今選択した情報を買う。開示してくれ」
とりあえずレイジたちが欲しそうな情報を、何個か買うことに。上位にいる研究チームの詳細や、彼らのアーカイブポイントの場所などをである。
ファントムへ金を振り込み、その情報を閲覧する権限を購入する。これでラインナップのさらに奥。その購入した部分のデータの場所まで、アクセスできるようになったというわけだ。このようにアーカイブスフィアの管理権限を持っている者なら、自由に他者へアクセス権限を発行できる。なので団体、企業や研究機関などでは、与えられたアクセス権限分そこのアーカイブスフィアにつながり業務をこなすのであった。
「にひひ、まいどありなのよん!」
「さすがは研究機関の情報。難し文字が大量にあるな。――ははは……、見るだけでも頭が痛くなりそうだ」
買った情報を見てみると、そこにはビッシリ書かれた詳細データが。これには思わず、苦笑いを浮かべてしまった。
「わぁ、ほんとだね……。でも冬華さんの条件をこなすためにも、頑張らないとだよ!」
カノンが画面をのぞきこみ、レイジと同じく表情を曇らせる。だがすぐに立ち直り、両腕で小さくガッツポーズを。
「――ねえ、ファントムさん、もしよかったらでいいんだけど、情報屋についてくわしく教えてくれないかな? クリフォトエリアで仕事する以上、そういった事情も知っておいた方がいいと思うし」
二人で買った情報とにらめっこしていると、結月がファントムにたずねだす。
「お安いごようなのよん! 情報屋は今の世の中にとって、かなり重要なポジションにいる存在! データの奪い合いを加速させる、一大要因の一つといっていいかな!」
「それってどういうことなの?」
アゴに指を当て、首をひねる結月。
「本来、データの奪い合いは、企業間や研究機関の派閥たちといった内部の者たちがやるでしょ? 部外者が奪ったところで、あまり活用のしようがない。でも、情報屋が現れたことで、そこに大きな意味を生み出すことになった。なんたってその奪ったデータを、誰でも売買できるシステムができてしまったのだから!」
昔だと、部外者の人間がデータを奪いに来るのはめずらしいケース。なぜなら奪ったとしても、そのデータを手軽に金にできなかったからだ。それゆえデータの奪い合いもそこまで激しくなく、身内だけでやるのが一般的だった。しかし情報屋というシステムが生まれてから、事態は一変することに。
「結果、関係者同士の戦いに、部外者が大勢流れ込むことに。そう、情報屋という存在は、これまでのデータの奪い合いに第三勢力を作ったわけなのよん!」
ここでの問題は情報屋により、誰でも気軽にデータを売れるようになってしまったということ。これによりデータを売って一儲けしようという考えが、一気に拡散。小遣い稼ぎはもちろん、中には本業にする者まで現れる始末。これまでのデータを奪い合う舞台に、無数の人間を参加させる事態になったのだ。
「ははは、当事者たちからしたら、ほんと迷惑な話だよな。常時無数のハイエナに、狙われるはめになったんだからさ」
今まで当事者は、関係者だけに注意を払えばよかった。だが情報屋の出現により、それだけでは済まされないことに。なんたってこれまでの何十倍といっていい規模の人間が、自分たちのデータを奪いに来る恐れが出てきたのだから。
彼らは金が目当てなので組織など関係ない。もはや世界中の人間がいつ敵になってもおかしくない状況。当事者にとって、悪夢そのものだったに違いない。
「確かに! しかも情報屋はデータを仕入れるため、裏工作しまくりだしねー! ガンガンそそのかしまくって、しかも自分たちで雇った戦力をも投入しまくる! 中には関係者側が、こちらに依頼し奪わせることも当たり前に。もう戦場は阿鼻叫喚のカオス状態に! あー、ほんとこんな世の中にした私たち情報屋は、罪作りだよねー! にひひ!」
ファントムはさぞ愉快げに、情報屋によって生み出された世界の形を告げる。
これがデータの奪い合いを生み出す、一大要因の一つ。情報屋のコミュニティだ。今の時代、企業側、研究機関側に次ぐ第三勢力として猛威を振るっているのであった。
「――あはは……、情報屋って、思ってた以上にすごかったのね……」
想像以上の答えが返ってきたため、結月は圧倒されているようだ。
「――えっと……、情報屋のお仕事って、どれぐらい大変なの?」
「もー、大変すぎて大変すぎて、苦労の連続なのよん! データを仕入れるための裏工作はもちろんのこと、保管もしないといけないし!」
結月の問いに、ファントムは普段の苦労をにじませながら説明を。
「保管?」
「売買するほどのデータは、基本個人端末に入れられないからねー。だから受け取った後、自分ところのアーカイブポイントにほり込まないといけないのよん!」
運ばれている企業側や研究機関のデータは、セフィロトが演算に使う上位のデータ。よって個人端末には入れられない。なのでもし手に入れたからといってログアウトすると、そのデータはその場に残ってしまうだけ。閲覧など到底できないし、再び回収しに戻ったところで誰かに奪われている可能性が高い。せっかくの苦労が、水の泡となってしまう。ゆえに管理できる場所に持っていかない限り、完全に手に入れたとはいわないのであった。
そういうわけで情報屋は物を手に入れると、必ず自身のアーカイブポイントに運ぶはめに。そして自分の管理するアーカイブスフィアに、そのデータを追加する作業があるのだ。
「だから奪ってくる側の多くは、すぐ情報屋に売り渡すんだ。保管するのは手間だし、相手に取引するのも一筋縄でいかない可能性があるからな」
「そっか、情報を手に入れただけで、おわりじゃないんだ」
「しかも運搬時も気をつけないといけないし! 護衛だったり、索敵だったり気を使うことは盛りだくさん。取引時も相手方に裏切られる恐れがあるから、細心の注意を払わないとダメでさー」
ため息交じりに、ぐったりとした声色で愚痴をこぼすファントム。
自身のアーカイブポイントまで持ち帰るのはもちろん、取引き相手の指定した場所まで運ぶ時も注意しなければならない。もし道中奪われることでもあれば、大損の恐れがあるのだ。さらには取引中にも相手に裏切られ、金を得ずままにおわることも。なので自分だけでなく私兵や雇った戦力を護衛につけ、安全を確保するのが当たり前なのであった。
「ははは、そういうわけで情報屋関連だけでも、デュエルアバター使いの需要は山ほどある。だからある程度自分の名が知れ渡ると、仕事に困らなくなるんだよな。こっちとしてはありがたい話だ」
「儲かるけど、それなりにハードな職業ってわけ! にひひ、とはいってもファントムさんの場合は、それらも含めて楽しんでるんだけどね!」
ファントムは豪快に笑い飛ばしながら、みずからの本音をかたる。
「そうなんだ。あはは、ありがとう、ファントムさん。おかげで情報屋のこと、いろいろ勉強できたよ」
「そうだ、ファントム。ついでにエデン財団側の小競り合いの方も、説明してあげてくれ。あそこを追うなら、内情を少しでも知っといた方がいいからな」
「オッケー、ファントムさんにまかせなさいな!」
レイジのオーダーを、ファントムはノリノリで引き受けてくれる。
次回 エデン財団について




