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電子世界のフォルトゥーナ  作者: 有永 ナギサ
3章 第4部 逃走劇

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154話 結月vs伊吹

片桐(かたぎり)結月(ゆづき)。あなたはアポルオンメンバーゆえ、本当は手荒な真似(まね)をしたくないのだがこればかりはしかたない。こちらの邪魔をするならば、執行(しっこう)機関(きかん)の名のもとに(さば)かせてもらう」

 伊吹は背丈(せたけ)ほどの大鎌(おおがま)をかまえ、臨戦態勢を。

「――伊吹(いぶき)さん……」

 結月は今伊吹と対峙(たいじ)しており、少し離れたところではレイジと(とおる)が戦闘を繰り広げている。彼らはともにスピード重視の接近タイプのようで、目にも止まらぬ速さで疾走しぶつかり合っていた。

「その前に一つ聞きたい。アポルオン十三位片桐(かたぎり)()は今、革新派(かくしんは)に属しているのか?」

「――え? ううん、そんな話、聞いたことないけど……」

「なに? 違うのか?」

 なにやら確証がある質問だったためか、否定されたことできょとんとする伊吹。

「うん、現状片桐は中立の立ち場でいるみたいなことをお父さん、片桐家当主から聞いたよ」

 アポルオンの内乱が始まった後、片桐家当主である結月の父親に直接たずねていたのだ。

 その話によると革新派とのつながりはないとのこと。なので以前と変わらずアポルオンメンバーの役目を果たす、中立派の立ち位置だそうだ。

「ふむ、嘘をついているようではないな。となると片桐(かたぎり)美月(みつき)の行動は単独か?」

「美月がどうかしたの?」

「いや、少し気になることがあっただけだ。さて、こちらもルナの応援に向かわないといけないため、そろそろ行かせてもらうぞ」

 伊吹は一人で話を完結させ、大鎌の刃先(はさき)を結月に向けた。

 もはや話はおわり。ここからはデュエルアバター戦だという、問答無用の敵意を放ってくる。

「やっぱり、戦わないとダメなのね。うん、それなら私も全力で行かせてもらうよ。カノンを自由にするためにも、この作戦はなんとしてでも成功させないといけないから!」

 対して結月も氷剣ひょうけんをにぎる手に力を入れ、意を決し宣言する。

「クク、敵ながら見事な心意気だ。では、(まい)る!」

 伊吹は掛け声とともに地を()り、結月目掛けて突撃を。

 そのスピードは結月がギリギリ目で追えるほど。どうやら彼女もレイジや透のようにスピード重視の接近タイプのようだ。

 もはや感心などしている場合もなく、大鎌による銀閃が結月に襲い掛かる。その斬撃の精度はまさに完璧。いかにも扱いづらそうな大鎌を、まるで自身の手足のごとく使いこなしているのだ。このままでは反応する間もなく、大鎌の餌食(えじき)になってしまうぐらいであった。

「速い!? でも、まだ!」

 結月は地表に手を置き、氷のアビリティを起動。自身の目の前に氷壁(ひょうへき)を展開した。

 この氷壁はそこらの銃弾など、びくともしない鋼鉄レベルの強度。ゆえに伊吹の斬撃を防ぎ切れるはず。

「その程度の壁で防ぎ切れるとでも!」

「ハッ!?」

 伊吹はそのまま突進した勢いを加え、思いっきり大鎌を振るってくる。

 刹那(せつな)、嫌な予感が頭によぎった。よって結月はすぐさま地を蹴り後退を。

 するとさっきまで結月がいた場所に、(やいば)の閃光が走った。なんと伊吹は氷壁を大鎌で()ち斬ったのである。もし結月が後ろに下がっていなければ、そのまま氷壁ごと大鎌の餌食(えじき)になっていただろう。今回紙一重(かみひとえ)にかわせたのは氷壁が少しばかり耐え、斬撃の速度を弱めてくれたからといっていい。

「よくかわしたな。では次はどうだ?」

 伊吹は大鎌を手で器用に回し、再び振りかぶれるようかまえた。

 そして結月に休むヒマを与えず、即座に詰め寄ってこようと。

(今だ! お願い! 当たって!)

 さっきは不意打ちを食らったが、ここからは結月の番。

 座標を確認し、氷のアビリティを。そして伊吹の進行方向の地表に、彼女を(つらぬ)くといわんばかりの巨大なつららを()やした。うまくいけば伊吹は突進する勢いを殺しきれず、急に地表から割り込んできた氷柱によって串刺しに。

 タイミングはバッチリであったが、伊吹はせまりくる氷柱の刺突の先端を見さだめ大鎌をすべり込ませた。そして氷柱の先端と大鎌の()の部分をはじくようにぶつけ、その反動で横へとかろやかに移動。見事にかわしてみせた。

(ひょう)(こう)(つらぬ)いて!」

 しかし結月の猛攻は終わらない。みずからの上空に巨大な氷柱の塊を五つ生成。伊吹に向かって氷杭の雨を放つ。

 弾丸(だんがん)のごとく勢いで飛翔(ひしょう)した氷杭は伊吹を強襲。彼女が横へ避けた地点目掛けて、猛威を振るう。巨大な氷杭の質量と放った勢いにより、一発でも当たれば大ダメージはまのがれないはずだ。

「これがアビリティブーストを受けた、氷のアビリティか。なかなか手強い。だが!」

 降りそそぐ氷杭の二発を大鎌ではじき、伊吹は上空へ跳躍(ちょうやく)。結果、氷杭の雨は獲物貫けず、轟音(ごうおん)とともに地面へクレーターを作るだけでおわってしまう。

「ッ!?」

 ここで落胆(らくたん)しているヒマはない。結月はとっさに左手へ氷の盾を生成。そして上空から降りかかる、伊吹の斬撃を受け止めた。

 今度はさっきの教訓を生かし、強度を限界まで上げた氷。ゆえになんとか伊吹の大鎌の閃光を防ぎきることに成功。

 しかし上空からの奇襲が失敗におわった伊吹は、続けざまに大鎌を何度も回して攻撃態勢を取ろうと。

「させない!」

 氷の盾を捨て、即座に(ひょう)(けん)で斬りかかる結月。

 しかし氷剣の一太刀(ひとたち)も、伊吹の大鎌にいともたやすく受け止められてしまう。ただ今の攻撃のおかげで敵の連撃をつぶし、つばぜり合いの状況に。

「どうやら使い手はまだ、慣れていないようだな。これなら自分にも十分勝機がある。クク、ではこちらもそろそろアビリティで片を付けさせてもらうぞ!」

「ッ!?」

 結月は嫌な予感にさいなまれ、瞬時に後方へと下がった。

 なぜなら伊吹のアビリティに、ただならぬ危機感を覚えたという。あのままでは危ないと、直観が叫ぶのだ。

「那由他、今いい?」

 すぐさま通信回線を使い、那由多に伊吹のアビリティをたずねようと。

 那由多は伊吹と同期らしいので、彼女のアビリティを知っているはず。まずはそれを聞いて対策をらなければ、結月に勝機はない判断したのであった。

「結月、なんですか? 今こちらはゆきちゃんを狙ってくるやからと、絶賛交戦中なのですが」

「伊吹さんのアビリティについて教えてほしいの?」

「はっ!? そうでした!? ――結月! 伊吹ちゃんの攻撃に当たったらダメですよ! なぜなら彼女のアビリティは!」

 よほどやばいものなのか、あわてて説明しようとする那由多。

 しかし。

「さあ、執行(しっこう)を始めよう。片桐さん、覚悟!」

 那由多が答える間もなく、伊吹がアビリティを起動し突撃してきた。


次回 レイジvs透

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