148話 依頼内容
「これからの依頼内容は那由他に聞いてるよな?」
「ハイ、なんでもあの一時期有名になったアビスエリアの十六夜島で、ドンパチするんすよね!」
今回出向くのはアビスエリアの十六夜島。そこでカノンがらみのとあるミッションを遂行せねばならないのだ。
「ハハッ、いいねぇ、ドンパチ。好きなだけ暴れまくってやるよ!」
「おいおい、ドンパチって……。今回の最優先事項は、カノンをアビスエリアの十六夜島から出すことだぞ。そこをしっかり肝に銘じておけよ」
いかにもヴァーミリオンらしい血の騒ぎように、軽く注意しておく。
そう、今回はカノンを無事アビスエリアの十六夜島の外へ連れ出す護衛がメイン。なので追手に対し暴れるのはけっこうだが、本来の目的を忘れてもらっては困るのだ。
「もちろん、心得てるっすよ。うちの連中はこう言った方がやる気が出るんで!」
任せてほしいと、得意げにウィンクしてくるエリー。
「なんだ、エリー? 今回の依頼は、護衛みたいなまどろっこしいやつなのかよ?」
「そうっすよ。カノン様を追ってくる敵を足止めするのが、主な依頼内容っす。なのであまりのめり込んで戦わず、護衛対象を逃がせるよううまく立ち回らないと」
「マジかよ。オレは好きなように突っ込んどくから、エリー、任せたぜ」
「ダメっすよ。今回の相手はかなりヤバイらしいので、アキラの戦力は必須。好き勝手動かれたら困るっす。成功報酬がすごい分、失敗は絶対許されないっすからね」
さっそく投げ出そうとするアキラの肩を、後ろからがっしりつかみ圧をかけるエリー。
「へいへい、マジの時のエリーを怒らせたら怖いから、大人しく従ってやるよぉ。――はぁ……、というかよ、この依頼どういう経緯なんだ? そこの嬢ちゃんを、ただアビスエリアの十六夜島から出すのが目的って」
彼女に逆らうのはまずいと、アキラはしぶしぶ納得を。
そしてレイジたちに今回の依頼の件について、疑問に思ったことをたずねてきた。
「うーんと、そうだね。簡単に説明すると、私のデュエルアバターはアビスエリアのとある場所で鎖につながれてる。その鎖を完全に外す最後の工程が、アビスエリアの十六夜島から出る事なんだよ」
カノンはアキラに事の経緯をぼかしながら説明する。
「すべてを知ってるレージくんたち用だと、制御権は破壊したけどまだ私を巫女の間につなぐ鎖のシステムが生き残ってる。それは私が自分の意思で外に出て、引きちぎることで初めて完全になくなるんだよ」
そう、現在巫女の制御権は無事破壊できたのだが、まだあるシステムが生きているのだ。それはカノンを巫女の間に繋ぎとめる鎖のシステム。これのせいでカノンは今だ巫女の間から、許可なしに出れないのであった。ただ制御権を破壊したことで、その鎖のシステムはほとんど壊れかけ。あとはつながれている本人が、みずからの意志で引きちぎろうとすれば完全に破壊できるらしい。
「カノン、それがアビスエリアの十六夜島の外ってわけだな」
「うん、あそこから出てしまえば、もう私の勝ち。これからはみんなと同じように、エデンで自由に動くことができるんだよ!」
両手で小さくガッツポーズをしながら、力強くほほえむカノン。
鎖のシステムを引きちぎる方法はというと、カノンがアビスエリアの十六夜島の外に出ることだそうだ。そうすることでカノンはエデンに入る時巫女の間からスタートせずにすみ、レイジたちと同じくどこにでも制限なしに行けるらしい。しかし巫女の間を出た瞬間、序列二位側に必ず警告が入り知られてしまうとのこと。そのため向こうが外に出させないと、追手を差し向けてくる可能性が非常に高い。なのでその追っ手からカノンを守りつつ、外まで護衛しなければならなかった。
「ですが戦力が限られてるのは、大きな痛手っすね。うちの精鋭も数人しか連れていけないとなると」
「あそこに部外者が入る場合、権限をもってる者に連れていってもらわないとダメなの。しかもその数は限られてるから、戦力を十分に連れていくのは難しいのよね」
エリーの危惧に、結月は申しわけなさそうに目をふせる。
もし何事もなければ使える戦力を投入しまくるのだが、アビスエリアの十六夜島はそもそもアポルオン関係者の権限を持っていないと入れない。部外者が入るには権限をもっている者に許可証を発行してもらい、連れていってもらわなければならないのだ。問題はその連れていける数には限りがあるということ。よって限られた戦力でカノンを守り通さなければならなかった。
「それでもやるしかないさ。というわけで数少ない戦力としてあてにしとくぞ、ヴァーミリオン。向こうでのくわしいミッション内容は、那由他の指示通りに」
手のひらに拳を打ち付け、気合を入れる。
「了解っす」
「おうよ」
「あとエリー、ここの守りの件はどうなってるんだ?」
「そこは心配いらないっすよ。うちのメンバーは屈強な男どもが多いっすから、守りは固いはずっす。避難系路も抑えてますし、レーシスさんが用意してくれた人員も外で待機してくれてるそうなので、もしもの襲撃対策はバッチリっすね」
もしこの場を特定された場合、このヴァーミリオンの事務所に敵が攻め込んで来る可能性も。もちろんそうならないようにレーシスがいろいろ手を打って、捜索の妨害をやってくれているらしい。これにより当面はバレる心配がないとのこと。たとえ見つかったとしても避難のプランは年密に立てられており、そこまで心配することはないのだそうだ。
「よし、なら全員の準備が整い次第、アビスエリアの十六夜島に乗り込むぞ!」
「うん、頑張ろうね」
「みんな、お願いするんだよ」
こうしてレイジたちは、アビスエリアの十六夜島に向かう準備をするのであった。
那由他への連絡




