140話 カノンと学園
「やっぱ、いつ見ても立派な学園だよな」
レイジは十六夜学園の校門近くでつぶやく。
先日来た時も思ったが規模も設備も普通とは違い、まさに財閥関係の子供たちが通うにふさわしい構造。気品あふれる校舎内に、いき届いた最新鋭の設備の数々。庭園はもちろん、ラウンジや貸し出し用のVIPルームまでもが複数配備されているとか。こんな学園に通うとなると、さぞ充実した日々を過ごせるのだろう。
カノンと昼食を取りしばらくおしゃべりしたあと、十六夜島にある十六夜学園の方に来たという。実はここでルナたちと会う約束をしているのだ。もちろん学園内に入ることになるので、レイジはあれから十六夜学園の制服に着がえていた。カノンも近くの洋服店で制服に着替えてから、校門前に来るとのこと。なのでレイジは彼女が来るのを待っている状況であった。
ちなみに今日は土曜日で学園はお休み。しかし部活だったり、課題だったりでちらほら生徒の姿が見受けられた。
「レージくん、お待たせー!」
ボーと学園をながめていると、カノンの声が。
「お、来たか。以外に時間がかかったな、カノ……、ッ!?」
カノンの姿を見た瞬間、レイジは思わず息を飲んでしまう。
というのも彼女はさっきまでの清楚な私服でなく、十六夜学園の制服を着ていたから。ここの女子の制服は那由他がお墨付きするほどデザインがこっており、とてもかわいらしい構造をしている。その人気ぶりはすさまじく、全国で一、二を争うほどとか。そんな制服を文句なしの美少女であるカノンが着ているのだから、破壊力は抜群。見惚れずにはいられなかった。
「えへへ、ごめんなんだよ。ちょっと身だしなみとか整えてたら、時間が掛かっちゃった。うん? どうしたのかな?」
「――い、いや、別に……」
「そうだ! レージくん、どうかな? 私の制服姿! 似合ってる? 結月が着ているのを見て、ずっと着てみたかったんだよね!」
カノンはくるりと一回転。スカートの裾をふわりとさせながら、はしゃぎ気味にたずねてくる。
「――ああ、すごく似合ってる。――ははは……、わるい、見惚れすぎて、そんな当たり前の感想しか言えないよ」
ほおをポリポリかきながら、正直な感想を伝える。今のカノンのかわいらしさは、言葉では言い表せないほど。それでほどまでにインパクトがあったといっていい。もはや写真をとって、永久保存版にしたいぐらいであった。
「――あわわ、それってほめ言葉として最上級レベルじゃないかな……。聞いといてなんだけど、予想以上の感想に困っちゃうよぉ……」
カノンは顔を真っ赤にさせ、はにかみだす。よほどテレくさいのか、顔を手でおおいながらだ。そして指の隙間からチラチラとレイジの方を見ながら、かわいらしいほほえみを。
「――で、でもうれしい……。えへへ、ありがとう、レージくん」
「――ど、どういたしまして……、でいいのか?」
その反応にレイジまで気まずくなってしまう。
結果、二人してどぎまぎした雰囲気に。もし第三者がこの場を見れば、ピンク色のオーラがただよっているふうに見えるかもしれない。
「――ごほん、じゃあ、レージくん、学園内に入ろうか」
しばらく二人で見つめ合っていると、カノンが我に返り話を進めてくれた。
どうするべきか迷っていたレイジは、すぐさま彼女の話題に乗ることに。
「そうだな。待ち合わせの場所は生徒会室だから、オレが案内するよ」
「えっへへ、学生服を着てこうやって学園をじかに目にすると、なんだが本物の学生になった気分がするんだよ! もしこんな素敵な学園で学生生活を謳歌できたら、毎日がすごく楽しいんだろうね!」
カノンはタッタッタッとはずむ足取りで学園内へ。そしてくるりとレイジの方を振り返り、目を輝かせながら満面の笑顔を。
ずっと屋敷の中で隔離されている彼女のことだ。きっと学園にたいしてすごいあこがれを抱いているのだろう。
「あーあ、レージくんがうらやましいなぁ」
どこかうらやましそうに、レイジの顔をのぞき込んでくるカノン。
「ん? なにがだ?」
「だってレージくん、四月から十六夜学園に通うんでしょ? そこに結月や那由他もいるから、きっと甘酸っぱい青春とか送ることになるんじゃないかなー? 楽しみだね!」
カノンはのニヤニヤと意味ありげな視線を向け、茶化してくる。
そういえば十六夜学園に通う話があったのを思い出す。レイジとしてはもちろんこの件に反対だ。だが那由他と結月がなかなかあきらめてくれそうになく、困っているのであった。
「――その話か……。カノン、オレは断固として通わないぞ。あれは那由他が裏で勝手に決めたことだ」
「もう、なに寝ぼけたこと言ってるのかな? レージくんはこれまで普通の日々を過ごせなかった分、ここで有意義な学園生活を送るべきなんだよ。というかこれ命令だから、大人しく聞くように」
指を突きつけて、まるで年上のお姉さんのように言い聞かせてくるカノン
「――命令と言われてもなー……。――あ、そうか。今のオレはアイギスを謹慎中だったはず。ははは、となるとカノンがオレのアイギス残留を認めない限り、命令を聞く必要がないというわけだ」
そう、カノンがレイジに学園へ通ってほしければ、アイギスメンバーとして認めるほかない構図が生まれるのだ。これはカノンを説得できるまさにチャンス。ゆえにレイジは言葉巧みに攻め立てる。
「ぐぬぬ、痛いところを突いてくるね。じゃあ、私がそれを認めれば、レージくんは大人しく十六夜学園に通ってくれるんだよね?」
「――あ……、いや……、それとこれとは話が別だな。――ははは……」
どうやらこの一手は。初めから破綻していたようだ。もしこの作戦でカノンを説得しきると、確実にレイジは学園に通うはめになるのだから。よって笑いながら言葉を濁しておく。
「なんでそうなるのかな!?」
「ははは、いくらカノンの命令でも、さすがに学園に通うのはないな。――あ、そうだ! もしカノンが一緒に通ってくれでもしたら、その時は潔く受け入れてやるよ」
とりあえずカノンをあきらめさせるためにも、今思い付いた非現実的な条件を突きつけておいた。こうでもしないともしレイジがアイギスメンバーとして認められた場合、カノンの命令で学園に通うことになる。これはその問題を回避する布石となるはず。とっさに思い付いた案としては、上出来といっていいだろう。
「あー、いじわるだね。私の立場的に、それは無理なのを知ってるくせにー」
「オレも同じぐらいのことを言われてるってことさ。ほら、そんなことより行くぞ。ルナさんたちを待たせたらわるいだろ?」
ほおを膨らませ抗議するカノンを言い聞かせ、レイジは逃げるように校舎の方へと。
「あー、逃げたぁ。もう、レージくんったらー。ほんと、キミは私の言うことを聞いてくれないんだからー」
そんなレイジに対し、カノンは本当に困った男の子だと肩をすくめながらもついてくるのであった。
次回 カノンとルナ
次の投稿は2作目の宣伝回とさせてもらいます。




