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電子世界のフォルトゥーナ  作者: 有永 ナギサ
3章 第2部 姫の休日

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135話 アリスの答え

「――それでアリスたち狩猟兵団の方は、今どうなってるんだ? 今や世界を揺るがすほどの、戦場の火ぶたが切って落とされたんだ。あのアランさんが前回程度の闘争で満足しないはずだし、当然次の戦場の舞台も用意されてるんだろ?」

 ふとアリスに気になったことをたずねてみた。

 彼女は現在狩猟兵団側の人間なので、なにか情報を持っているかもしれない。

「ええ、もちろんよ! まだまだお祭りは始まったばかり! アランさんも前回のはいわば前座と言ってるほどだから、本番はここからだわ!」

 アリスはパンと手を合わせ、興奮気味にに答える。もはや楽しみで楽しみでしかたない、無邪気な子供のように。

「まあ、あの人のことだからそうなるよな。それで具体的にはどう動くんだ?」

「もー、レージ、敵にみすみす情報を渡せるはずないでしょ。そもそもアタシはそういう戦略的小難しい話に興味ない。ただ敵を斬り()せられることだけが重要なんだから、知ってるはずないじゃない」

 レイジの(さぐ)りに、アリスは肩をすくめてあきれたように正論を

 だがそれも口だけ。実際はなにも知らないので、答えたくても答えられないのである。アリスはただ闘争に酔いしれたいだけゆえ、もはや知ろうともしてないはずだ。

「ははは、実にアリスらしい答えだ。うまくむこうの情報を手に入れられるかもと思ったけど、完全に聞く相手を間違えたな。口が堅い以前に、なにも知らないなんて」

 そんないかにもアリスらしい答えに、苦笑するしかない。

 するとアリスがムキになったのか、力強く主張しだす。

「ム、なんだか呆れられてる感じが(しゃく)ね。一応アタシだって自軍の動向ぐらいはつかんでるわよ」

「ほう、じゃあ、聞かせてもらおうか」

「そうね。まず集められた高ランクの狩猟兵団の大半は、そのままこの日本に滞在し続けるわ。アランさんが再び収集を掛けたら、すぐに集まれるようにね。基本、呼び出されるまでは自由にしていいって話だから、各々(おのおの)依頼を受けたりしてこれまで通りに過ごしてるみたいよ」

 となるとしばらく狩猟兵団とエデン協会の戦いは、激化することになるだろう。

 高ランクの狩猟兵団が集まっているため、本来活動拠点が違う者も雇える。ゆえに企業や財閥側が今がチャンスと彼らを雇い、データを奪わせに行くはずだ。するとその分エデン協会側の依頼が殺到し、これまで以上に激しいデータをめぐっての攻防が行われる可能性が。

「なんでも最近は、依頼でアビスエリアによく駆り出されてるらしいわね」

「アビスエリアに?」

「だってあそこのデータは天下クラスだもの。得られたらそれだけで、一獲千金間違いなし。情報屋とかかぎまわってるのはもちろん、企業や財閥側もこの機をチャンスと狩猟兵団を雇って投入してるわね」

 アビスエリア内でアーカイブポイントをかまえている者たちは、どこもアポルオンに属する最上位財閥たち。なので彼らのデータの一部だけでも奪うことができれば、そこいらの企業、財閥の時と比べ物にならないほどの莫大(ばくだい)な成果を手に入れられるはず。

 それもそのはず彼らは幾百の傘下をまとめ上げる存在。それゆえ傘下側のデータもリーダーである彼らが把握(はあく)しているのは当然のこと。つまり彼らのデータを奪うことイコール、その傘下たちのデータもまとめて手に入ることにつながるのだ。となれば今後彼らやその傘下たちの企業方針がわかるため、先取りし利益を奪ってしまえばいい。こうすることで自分たちより上のライバル企業と立ち位置を入れ替え、さらに上位の歯車になれるというわけだ。

 もちろんこれは傘下間同士だけではなく、アポルオン序列持ちの財閥にもいえる。自分たちより上の序列のデータを奪って出し抜き、世界の影響力の順位を変動。みずからの序列を上げることも。相手は最上位の財閥ばかりなのでそのデータを奪うのは至難(しなん)(わざ)だが、その分見返りは想像を(ぜっ)するため皆奪いに行っているのだろう。

「今までわりと平穏だったアビスエリアも、今じゃクリフォトエリアみたいにカオスなことになってるのか」

 こうなっているのも森羅たち革新(かくしん)派が、アビスエリアを解放したため。もしあの事件がなければ今もアビスエリアは静かであり、狩猟兵団たちが押し寄せることもなかったはず。この事態も彼らが望んだ状況なのだろうか。

「そうそう。今後のこちらの動きなんだけど、これからはレジスタンス側と連携して動くことが多くなるそうよ。彼らに雇われる形で、アポルオン側にケンカを売りにいくとか」

「ははは、それだと軍は苦労するだろうな。レジスタンスに属するのは基本戦い慣れてない素人(しろうと)だけど、そこに本職のプロが加わるんだから」

 これまでのレジスタンスの活動に狩猟兵団が加わるなら、その戦力は大幅にアップすること間違いなし。もはや軍だけでは手に()えず、エデン協会に対しこれまで以上に依頼を回すことになるだろう。結果レジスタンスと狩猟師団、軍とエデン協会という二大勢力が世界の在り方を()けて激突することに。

 ここでの問題は狩猟兵団側のバックに、アポルオン革新派がいることであろう。本来な軍に身元がばれると、狩猟兵団側は過度な活動内容につかまるおそれが。だが自軍の戦力が落ちることを革新派は許さない。アポルオンの権力で軍に圧力をかけもみ消すはず。なので狩猟兵団はお(とが)めなしで、好き放題暴れられるということだ。

 実際前回の政府のアーカイブポイント襲撃の時、レジスタンスと共に行動した狩猟兵団の者たちが軍に目を付けられた。しかし狩猟兵団連盟と革新派の手回しで、すぐさま解放されたらしい。

「軍もこれまでエデン協会と手を組んでことに当たってたから、ようやくイーブン。フフフ、楽しい戦場になりそうね! レージがいない分も、アタシががんばっておいてあげるわ!」

 アリスには自身の胸に手を当て、得意げにウィンクしてくる。

「――えっと……、アリス。アイギス加入の件は……」

 そんな狩猟兵団として戦っていく気満々のアリスに、結月は遠慮ぎみにたずねた。

「あら、そんな話もあったわね。まあ、まだ保留(ほりゅう)かしら。アタシってかなり気まぐれなの。だからすぐ受けるかもしれないし、もっと先かもしれない。もしかするとこのまま狩猟兵団を続ける可能性もあるから、過度な期待はしないほうがいいわね」

 ほおに手を当て、特にわるびれた様子もなく平然とかたるアリス。

「そっか、こればっかりは仕方ないよね。アリスの好きにすることだし」

「フフフ、ありがとう。ところでアタシみたいなきっすいの狩猟兵団の人間が、アイギスに入るかもしれない件、カノンはどう思ってるのかしら? さすがにユヅキの推薦(すいせん)があっても、それを決めるのは最終的にあなたのはず。入るか入らないかにしろ、まずはそこをはっきりさせとかないと」

 彼女の言うことはもっともだ。結月はアリスのアイギス加入の件を、カノンに頼むつもりであった。ゆえにすべてはカノンの答えにかかっているのである。

 「もちろん、大歓迎! アリス、すごく強いみたいだし、こちらとしては大助かりだね! ハーレム同盟を結んだ仲でもあるし、できれば一緒にいれたらなぁ、って思うんだよ!」

 そんなアリスの問いに、カノンは両腕を差し出しながら満面の笑顔で(むか)えいれた。

 そこには不安要素などなにひとつなく、アリスのことを信頼しているご様子。

「あら、そこまで歓迎されちゃうと、入りたくなるわね。フフフ、カノンとは気が合うみたいだし、一緒にレージを攻略するのも楽しいかもしれないわ。となると最後はレージ次第ということになるのかしらね」

 アリスはあまりに快く受け入れられたため、乗り気な反応を見せる。目を静かにつぶり、そうなった未来を思い(えが)きながら笑い出した。そしてレイジの方に意味ありげな視線を投げかけてきた。

「なんだ? その意味ありげな発言は」

「フフフ、言葉通りの意味よ。レージが最後にアタシの心をわしづかみにするような、ステキなイベントを起こしてくれれば、この話が実現するかもしれないってこと!」

 胸に手を当て、愉快げにウィンクしてくるアリス。

「えっへへ、じゃあ、さっそくレージくんには、アリス攻略の(にん)についてもらおうかな。お得意の口説き文句で、アリスのハートを奪ってきてほしいんだよ!」

 するとカノンは話は聞かせてもらったと、レイジを指さし楽しそうにオーダーを。

 しかもレイジに対し(いだ)く謎のイメージでの、むちゃぶりでだ。

「――お得意のって……。カノンのオレのイメージ、なんかおかしくないか?」

「フフフ、いつでもいいわよ、レージ! なんなら今すぐ愛の告白でもしてくれればすんなりと……、――あら、ヒカリからだわ」

 アリスは小悪魔的な笑みを浮かべながら、どんと来いと催促さいそくしてくる。今やアリスの心をつかむため、なにか行動を起こさなければならない空気に。

 だがそこへ救いの手立てが。なんと光からアリスに通信が入ったらしいのだ。    

「――ヒカリ、話はおわった? ええ、そう、わかった、今すぐ行くわ。――ごめんなさい。楽しいお話の最中なんだけど、アタシそろそろ仕事にいかないといけないの」

 アリスは光と通話をおえ、立ち上がる。

「話ってことは、光に打ち合わせのほうを丸投げして」

「もちろんよ、だってアタシは戦うこと専門。堅苦しい話は(しょう)に合わないというか、正直眠くなってくるわ」

 レイジの予想通り、光に面倒事をすべて押し付けたようだ。実際アリスがその場に付き()っても、暇ゆえ居眠(いねむ)りするのが(せき)の山。もはや邪魔になるだけなので、ある意味正解なのかもしれない。

「――はぁ……、どんだけ後輩(こうはい)をこき使ってるんだよ」

「だってあの子がやってくれるって言うんだもの。アタシ、人の好意は喜んで受ける方だから、しょうがないわ! じゃあね、レージたち、またどこかで会いましょう!」

 頭を抱えるレイジに対し、アリスはあっけからんに主張を。そして別れの言葉を残して去っていくのであった。


次回 休日の終わり

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