十一男
なにがどうなっているんだ。
『十一男』は目の前にある生き物だった黒い塊に混乱していた。
『十一男』。
エルラドの数多くある冒険者ギルドの一つ、『ブルー・ウイング』の男子ユーザーの中で十一番目に入っことから、みんなには『十一男』と呼ばれている。
本名は『長野 龍次』。十七歳の高校二年生である。
エルラドレインには友人の勧めで参加。
あまりゲームには参加することはなく、やり込みや課金ゲーマではない。
本人は一日一回、エルラド内のダンジョン内に現れるボスモンスター討伐イベントだけに参加することが多いい。
よって、職業は前衛ではなく後衛の術師系統のものである。
そんなオタク未満ミーハー以上の『十一男』にある事件が起こる。
ある日起きたら自分は理想の自分になっていたのだ。
『十一男』が目覚めたのは困惑の声が響く部屋の中だった。
周りにいる人が目覚めた自分を見て、なんて言ったらいいのか分からないがとても複雑な顔をしていた。
『十一男』は始め、そんな目で自分を見ているギルドメンバーに対し、
「おー、『長男』さん!」
普通に笑いかけた。
周りのみんながどうして驚いているのか龍次には最初分からなかった。
言い訳をするなら、あのときの自分は寝ぼけていたのだ。頭もうまく働かなく、何処か危うい思考でギルドメンバーを見ていた。
こうして彼はギルドメンバーから畏怖の目で見られるようになった。
それから、みんなの話により、自分は訳のわからない状況に陥っている事を知った。
彼がこの状況に落ちる前の最後の記憶は、エルラドのイベントが終わり夜ごはんを食べに家の二階から一階に向かおうと階段を下りている時だった。その先の出来事はなぜか記憶がすっぽりと抜けた感覚で覚えていない。階段を下りてご飯を食べたのか、それとも下りる前にこんな状況になったのか、彼には断言できなかった。
その先の記憶は確かにあったのに、それを確信することのできない奇妙な感覚に龍次・・この際めんどくさいので『十一男』は陥っていた。
それから、状況を理解するために数人で分かれて、情報収集をすることになった。
緊張していたが『長男』さんの気遣いのおかげで、『十一男』も冷静に情報収集に取り組むことが出来た。
しかし、そんな中トラブルが起きた。
すこし目を離して情報収集していた間に『長男』さんが消えたのだ。
本来なら、集団行動は全員で集まりお互いの安否を確認しながら行うものである。離れて行動するにしても、お互いが見える位置にいるべきなのは基本である。まさかそれを一番年上である『長男』さんが破るとは意外であった。
わずかに開かれた、外につながる扉を見て『十一男』は呆れた。なにをしているんだと。
それから、三人で外に出た。
嗅覚を刺激する、さわやかで何処か安心する木々の香り。雲の隙間からこぼれてくる太陽の光。全てが初めて見る大自然の景色に目を奪われた。
空想の物語でしか見ることの出来無かった理想の風景に『十一男』はとても感動した。
しかし、いつまでもその景色に見とれていることは出来ないと、『十一男』は視線を木々から外した。
そして周りを見渡す。
木々と後ろにある建物以外、目立つものは存在しなかった。あるとすれば建物の扉からまっすぐの所に存在する、何処かにつながっていると思われる道だけだった。
だがその道に『長男』さんがいるとは『十一男』は考えなかった。なにもわからない状況の中、一人単独行動で道の場所を探索するなど危険だ。『長男』さんは三十を超えた大人だ、それぐらいは分かっていると思う。
とするならば、『長男』さんがいるのはこの建物が見える範囲。建物周辺だと『十一男』は考えた。
そして、そのまま捜索に移る。
しかし、このとき彼は重大なミスを犯した。
慢心していたのだ。何処かで、この状況でも冷静にいられる自分に安心して視野が狭くなっていた。
だから『十一男』は気付けなかった。
その他二人をほったらかしにしているのを。