治療
更新遅れました。
「『次女』さん!」
建物に入った瞬間、『次女』さんは力尽きたのか、ゆかに膝をついた。しかもさっきよりも顔色が悪い。
腕からの出血が多すぎるのだ。
そこに来て俺は、傷の治療おろか応急処置も出来ないことに気づく。
「くそっ!」
どうすればいいのかと、普段あまり使わない頭をフル回転させて周りを見渡す。
すると視界の端にバーのカウンターの様な場所が入った。
直観のようなものを感じ、ふと、その場所を見つめる。
「!」
そして、ある可能性を思い出してハッとする。
『次女』さんを近くにあった椅子に、怪我をしている腕が傷つかないようにすわらせ、走って部屋のカウンターに向かう。
焦る身体の中で頭だけはどこか冷静に解決策を出していた。
さっきよぎった可能性。
今この現状の答えかもしれないこの世界の真実が、俺に『次女』さんを救える方法を教えてくれていた。
カウンターの奥にあった棚の扉を開ける。
その中からとてもなじみのある緑の液体が入っている瓶を引っ張り出し、扉を閉めると、『次女』さんのもとへ行く。
『次女』さんのいる椅子まで来ると、急いで瓶のふたを開ける。
その瞬間ほんの少し迷いが生まれる。
本当にこれでよかったのか。
間違ったものではないのか。
そもそも本当にこれが効くのか、と。
いろんな思いが頭の中でぐるぐると回る。
「くっ・・・」
しかしそんな迷いも『次女』さんの痛がっている姿を見てすぐにきえた。
そうだ、考えてどうする。今の俺にはこの方法しかないのだ。
俺は『次女』さんの顎を掴み、顔を上に向けさせた。
そしてわずかに罪悪感を覚えながら
「『次女』さん、ごめんなさい!」
瓶の中に入っていた液体を『次女』さんの口の中に流し込んだ。
「むぅっ!」
口の中に広がる液体に『次女』さんは最初、とても驚いた様だ。逃げるように体が動いたのが分かった。
俺はその動きを抑えるように、掴んでいた顎の手を『次女』さんの肩に置き力を入れる。
半分ぐらい中身が無くなると、流し込むのをやめる。
そして瓶を近くのテーブルに置くと、『次女』さんの怪我をしている手に視線を移した。
さっきの怪物にやられたと思われるその怪我は痛々しく、目をつぶりたくなる。
しかし迷っている時間は無い。
俺は、その腕に刺さっている針に手をかけると、
「ああああああっ!」
勢いよく抜いた。
一本、二本、三本と針を抜きゆかに投げると、テーブルに置いていた瓶を再び手に持ち、傷口に残りの液体を振りかけた。
すると、先ほどまで血が流れていた傷口は振りかけた部分からみるみるふさがっていき傷があととして残った。
肩から力が抜ける。
体中に安心感が広がりゆかに座り込んだ。
とりあえず、これで大丈夫だと。
思ったよりも精神的に疲れていたようで、体を動かそうとは思えなくなったいた。
少し休もうと思い、座り込んだままゆっくりと目を閉じ。そのまま考えることも無く、暖かな感覚に身をまかせようと意識をとばそうとして、
「いやいやいや、」
慌てて立ち上がる。
なに忘れてんだよ。
『次女』さんを助けたから終わった気になっていたが、一番重要なことを忘れている。
怪物を『十一男』さんに任せっぱなしだった。
「まずい、まずい、」
外からは物音一つも聴こえないし。なのに『十一男』さんも、どこかに行っている『長男』さんもこの場に帰ってきていなかった。
もしかしたらと、最悪な予想が頭に浮かんだ。
直ぐにそれを振り払い頬をたたくと、『次女』さんを一度だけ見て扉の外に走った。
建物を出て周りを見渡す自分の五感に最初に感じたのは焦げ臭いにおい。
理由も考えずに、嫌な展開を想像して急いで最後に『十一男』さんを見た所に走った。
そして駆けつけた俺が見たのは、
「『十一男』さん!・・・・・・え、」
真っ黒焦げになった怪物とその前で尻もちをつく『十一男』さんと怪物の後ろで血だらけになった『長男』さんだった。