情報収集3
俺たちがいる部屋には、おそらくこの建物の玄関だと思われる大きな扉がある。
その扉がわずかに開いていた。さっき部屋を眺めていたときは扉は閉まっていたので、誰かがここを開けて外に出たのだ。
「さきほど、『長男』さんがここの扉から外に出で行くのを見ました。」
どうやら犯人は『長男』さんらしい。
こんな状況の中外に出るとは、行動が危ないぞ『長男』さん。
『十一男』さんも同じことを思ったのか呆れた顔をしている。
お互いに顔を合わせて溜息を吐いた。
「探しに行きますか?」
『次女』さんが扉の先を指さして俺たちに問いかけた。
「みんなで行きましょうよ、なにがあるのか分かりませんから」
『十一男』さんの言葉で、全員で行くことが決定した。
大きな扉を少し開いた。
外の空気がその隙間から、流れて来た。
―ああ、土の匂いだ
「おお!」
「ほう・・!」
「すご・・!」
視界いっぱいに広がる風景に思わず、息を止めた。
周りに映るほとんどの景色に緑・緑・緑なのだ。都会に暮らしていた俺たちは、めったに見ることの無かった大自然に感動する。
「空気がきれいですね・・」
『次女』さんが両手を広げ大きく息を吸う。
同じ様に俺も息を吸った。
胸のあたりに冷たいものが広がって、新鮮な空気が肺に入っていく。都会の空気には感じたことの無い、心地よさが身体中に広がっていった。
自分たちの吸っていた、都会の空気は汚いと言うことは知っていたが、今初めて実感できた。
そうしてしばらくの間、新鮮な空気を味わっていた。
「・・にしても、いないなー」
『十一男』さんの声にハッとする。
いつの間にか隣にいた『次女』さんはいなくなっていた。
俺以外の二人は真面目に『長男』さんを探し始めていた。
慌てて、辺りを見渡す。
「・・・」
誰もいない。
あの特徴的な赤髪おろか、建物の玄関の周りには人一人もいない。
「『長男』さーん」
名前を呼ぶ。
そう言えば『長男』さんもそうだけど、『ブルーウイング』のみんなの本名を俺は知らないな。
と言うかゲーム内での本名である『ユーザネーム』も知らない。もしかしたら、『兄弟順』で呼んでも『長男』さんは気づいてくれないんじゃないか?
あとで、リアルの本名か『ユーザネーム』をみんなから聞いた方がいいかもな
そんなことをしばらく考えていた、その時
「きゃあああああああ!」
身を裂くような高い悲鳴響く。
高い声からして女の声だろう。そして、今この状況で近くにいた女は一人しか思いつかない。
「『次女』さん!」
声に気づいたらしい、『十一男』さんが聴こえた方向に走る。
俺も直ぐにその後を追った。
「『次女』さん!」
俺たちがかけつけたとき『次女』さんは建物の壁に寄りかかり、右腕を抑えて倒れていた。強く壁に当たったのか、背後の壁がへこんでいる。
急いで『次女』さんのそばに駆け寄り、彼女の抑えている右腕を見た。
「!」
それを見て絶句する。
右腕には三十センチはある長い針が何本も貫通していた。血もそこから流れてきていた。
すごい痛みなのか、『次女』さんは目を強く瞑り歯を食いしばっている。その顔は若干青くなり始めている。
「『次女』さん!こっちに!」
その姿に危険を感じた俺は、『次女』さんの腰に手を回し、怪我をしていない方の腕を自分の首の後ろに回させて立ち上がらせた。
そのまま、支えながら建物の玄関に向かって歩き出す。
「急いでここから離れてください・・・・・」
『次女』さんが痛みに顔をゆがめながらかすれた声で言った。その顔は焦りを浮かべ、どこかおびえているように見えた。
「あれが・・」
『次女』さんの言葉が最後まで言い終わる前に、得体の知れない気配を感じた。背中から冷たい感覚が広がる。
反射的に『次女』さんを支えながら後ろを振り返る。
『ブルゥッ!』
そこには俺の肩ぐらいの大きさの、イノシシのような怪物が立っていた。
動物ではなく怪物と表したのは、その体に本来のイノシシには無い長く鋭い針が体毛のように生えていたからである。
「なっなんだこいつは!?」
そばにいた『十一男』さんがその姿を見て驚愕する。
俺も驚いて、思わず歩みを止めてしまった。
『次女』さんの抑えてある右腕に視線を移す。
赤く鋭い針のようなものが数本腕に貫通している。
それは目の前にいる怪物から生えているものと同じで、おそらく『次女』さんはあれにやられたのだ。
「立ち止まってはいけません・・・早く逃げて・・」
『次女』さんの言葉でハッとする。
そうだ、今はそんなことを考えている暇じゃない。早くこの場から逃げないと。
「『十一男』さん!」
俺の声に反応して振り返った『十一男』さんに目で建物の玄関を見て伝える。
俺の考えを理解したのか直ぐに玄関の方に走りだした。
「『十五男』くん、俺が惹きつけるから今のうちに!」
『十一男』さんは直ぐに玄関の扉を開けると俺の背後に立った。
その手には、どこで拾ったのか石が握られていてそれを、怪物にむけて投げていた。
「オラ!怪物、お前の相手は俺だ!」
投げた石は怪物の目に当り、その視線が『十一男』さんに映った。
その間に『次女』さんを支えながら建物内に俺は逃げ込んだ。