寝て起きたら別人に
――いつの間にか寝ていたのだろうか
頭がぼんやりとする寝ている時特有の感覚を味わいながら思った。
――やばい、今日は学校だ。起きないと
ボヤのかかる頭の中で学校のことを思い出し、ゆっくりと目を開いた。
「いててて・・」
勉強机に向かったまま寝ていたのか、体が凝り固まってて痛い。
俺は伸びをしながら辺りを見回した。
「・・えっ?」
瞬間固まる。
俺が寝ていたのは身に覚えのないダイニングテーブルだった。しかもとても長い。
「どこだ、ここ?」
立ち上がり目を凝らす。
するとテーブルの一席一席に人が座っているのが分かった。
「あっあの!・・・っ!?」
話かけようとして固まる。
目の前にいる人は人形だった。マンガやゲームのキャラクターのように、まるで絵の中から出た来たような姿をしていた。
「なっなにこれ?」
再び辺りを見渡すと、他の席にも顔は違うが絵の中から出た来たような姿の人形が座っていた。
「・・ん」
「!?」
混乱していると、前の方から声が聴こえた。
見ると、なんと目の前の席にいた人形が身じろきをして目を開いたではないか。
人形は(もはやそう表現していいのか不明だが)目が覚めていないのかぼんやりとした顔で辺りを見渡し、俺を視界にとらえると一拍して目を見開いた。
そして、次の瞬間信じられない言葉を口にした。
「えっ、『十五男』くん?」
「は・・・?」
なんと、「エルラド」の俺の呼び名を口にしたのだ。
なんでこの人形は俺のしかもギルドメンバーしか知らない「エルラド」の呼び名を知っているのか。
改めて人形を見る。
その人形は男だ。
顔はものすごくカッコイイ。冷たさを感じさせる鋭い真っ黒な瞳に腰まで伸びた黒髪はひとまとめに結ばれている。日本人の顔立ちをしていて、どこか戦国の世のにいそうな剣士のようなイメージが湧く。いや、武士か?
すると、あることに気付く。
今までその非現実じみた姿が印象ありすぎて気付かなかったが。目の前で驚いたように俺を見る人形の顔はどこか見覚えがあった。
そして、ある可能性にたどりつく。
「(いや、まさか・・・)」
まさかと思った。自分の考えたことは、あまりにもあり得なすぎる。
しかし、目の前の男の見覚えのある顔に、ギルドメンバーしか知らない「エルラド」での俺の呼び名を知っている、と言う事実。その二つの事実から浮かび上がった可能性は
「おっ『お父さん』・・?」
目の前の男は「チームバトル・エルラドレイン」の、ギルド「ブルーウイング」の最高責任者。
ユーザネーム「タツヒコ」
別名「お父さん」なのではないかと。
「やっぱり『十五男』くんなの・・・?」
どうやら当りらしい。
肯定はしてくれなかったが、目の前の男『お父さん』の様子から正解だろうと判断した。
すると周りの席から次々とうなり声や寝起きのような声が聴こえて来た。どうやら他に座っていたメンバーも起きたのだろう。
俺は声のしてきた方を見る。次々と動き出す人形はやはり『お父さん』のように、どこか見覚えがあった。
いや、見覚えがあるだけじゃない。むしろ毎日のように画面越し(・・・・)で見ていた顔だ。
部屋にある鏡に目を向ける。そこに写っていた顔は予想通り結果だった。
今、この部屋にいる人間全員は「エルラド」で毎日のように会っていた、
ギルド「ブルーウイング」のメンバーのアバターだった。
「どうなっているんだ・・・?」
困惑に溢れた室内で『お父さん』の呟きがやけに大きく聴こえた。