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即興小説

天国に就職した友人から手紙が届いたのですが

作者: 西おき

お題:天国の友人 必須要素:セリフ無し

 友人から手紙が届いた。

 器量よし性格よしだった友人は、神さまにヘッドハンティングされて半年前に天国へと旅だった。

 体は置いていったので、親族友人一同に介して涙ながらにその亡骸を手厚く葬ったのはまだ記憶に新しい。

 私は泣かなかった。なにせ友人は魂的には死んでいないとわかっていたからだ。

 友人のお墓がたち、その前にお供え物と一緒にひっそりと美人薄命と書いた手紙を供えてみた。もしかしたら冗談好きの友人が読んで笑ってくれるかもしれないと思ったからだ。

 次の日には手紙は無くなっていた。外から読まれないよう配慮したけれど内容を見とがめられて不謹慎と思われ捨てられてしまったのかもと消沈していたら、なんと翌日私の家の窓辺に返事の書かれた手紙が置かれた。

 手紙は、僕は男なので美人という言葉を使われるのはあまり嬉しくないよという指摘から始まり、だけど天国での仕事は大変やりがいがあり日々充実しているので薄命満足です、というような近況報告が綴ってあった。 私は薄命満足という目新しい四字熟語を眺め、なんともいえない気分になった。

 なんだよ、それ。私はまるきり不満足です。

 また手紙を書いてお墓に供えようかと思ったけれど、なんだか腹がたったのでそれきり私は現実を生きることにした。

 未だ誰からもヘッドハンティングを受けず、変化のない平凡な青春を華々しく満喫している私の日常は忙しい。

 おしゃべり好きな親友を失ってしまった穴を自力で彼氏でもハンティングして埋めようかと思ったりしているところなのだ。

 肉体的に死んでしまって天国で満足している友人のことなど知らない。

 

 

 

 そうして放置して半年後に届いた手紙が今目の前にあるこれなわけだった。

 開いた手紙には、まさか一回きりで文通が終了するとは思わなかったという一文から始まり、仕事は充実しているし仕事仲間はいい人ばかりだけれども、不謹慎な冗談はあまり受け入れて貰える気がしないので少々毒がたりず寂しいです、などと書いてある。

 まあ、天国に毒を求めてほいほい出てくるのでは現世を生きる私達の夢や希望にいささか陰りが出てしまう。

 現在の私は夢や希望に非常に敏感なので、希望通りに天国がおだやかなところで一安心だ。

 半年前に実行し始めた彼氏狩りだけれども、結果的に言えば、まるきり成功しなかった。取れ高はゼロ。

 時にさり気なくスルーされ、時に引かれ、時に私が泣いてしまった。

 泣いてしまったのだ。

 だって誰も彼もちっとも魅力的じゃない。積極的に話しかけてみるも、まったく幸せな気分にも明るい気分にもなれない。

 私は泣いた。手紙を握りしめて泣いた。

 ばかな親友め! あんたが神さまにほいほいついていくから、私はいろいろとどうしていいかわからず、今やあんたと真逆の地獄のまっただ中にいるじゃないか。

 そういったら友人はきっとこう手紙をよこすだろう。

 ……だって強制連行で選べる余地なんてなかったんだもの。

 実際の声なんかなくても、頭の中では友人の声が今耳元で喋ったみたいにはっきりと聞こえる。本物の声なんかなくても彼の声なら脳内再生余裕な私だ。

 そして、それこそが答えなのだった。

 彼に会いたい。

 友人とか、親友とか、言葉にして関係を縛ってきた私達だけれど、本当は、本当は――

 私は手紙をもう一度開いた。

 ぐしゃぐしゃに握りつぶしてさらに私の涙でじめっとした手紙は、それなのに紙に書かれた銀色のインクは少しもにじまず、彼の顔に似合わず豪快な文字をくっきりと浮かび上がらせていた。

 

 

 なっちゃん、きみが好きです。会いたいです。

 

 

 その一文に私の心は射抜かれた。

 私も好きだ。大好きだ。今すぐ会いたい!

 手紙に綴られた言葉に感動して、私はもはや目も当てられないくらい大泣きしてしまった。

 彼の言葉が耳元でやさしく再生される。

 聞こえないけれど聞こえてしまった彼の声に、私はさらに泣きはらした。泣いて、泣いて、そして――

 本文に心を持っていかれすぎて、追伸の文字に気づかなかった。

 

 

 二日後、私は十七年の命を終えた。何事もなく夜眠り、そのまま二度と目覚めなかった。

 いや、目覚めたところは花吹雪舞う天国だった。

 目の前には半年ぶりに見る友人がにこにこ笑って私を見つめている。あまつさえ、よくきたねーなんていっている。

 パジャマ姿のまま青々した芝生の上に寝転がっている私の手には彼からもらったラブレター(そう、これはラブレターだ。好きな人からの、初めてもらう!)が握りしめられている。眠るときも飽きずに握りしめていたから持ってきちゃったんだな、と私は妙に冷静に思った。

 手紙を開く。なっちゃん、きみが好きです。会いたいです。の文字。私はここ二日間、その文字ばかり見つめていた。

 そのはるか下に。

 

 追伸、僕がここ半年、なっちゃんなっちゃんとなっちゃんの話ばかりしていたものだから、職場の人たちが興味津々です。僕の冗談に付き合い続けられる人材と聞いてぜひ現世から引き抜きたいとも言っています。

 よければこちらへ来ませんか? いいのなら二日後に迎えに行きます。(急な話でごめんなさい。新規採用がこの日で締め切りなのです)だめなら至急お返事ください。日時までに手紙が開かれなかった場合はなっちゃんの現世でのご多幸を祈り、この話は無効とさせてもらうからね。ではでは。

 

 

 とんでもないお誘いが載っていた。

 手紙はばっちり開いたが、追伸はまるきりかけらも目に入っていなかった。

 遠くから、純白の衣装を持った繊細な体つきの男女が数人あわあわとやってくる。みんな人が良さそうなうえ薄命そうな顔立ちだ。

 その男女に負けない繊細な顔立ちにごきげんな笑顔を浮かべる親友に引っ張り起こされながら、私、ちょっと微妙な理由でヘッドハンティングされてきちゃったんだなと思った。

 まずは家族に手紙を書かなくちゃ。

 私は肉体的にはいなくなったけれど、日々充実して生きる予定です。

 なしくずし的に職場の同僚になった、元片思い相手の親友がいっしょなので心配は無用です。

 それでは、また。

 

 こんな具合になるかな。

 





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