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アリバイ

 城門さんから情報を得た竜宮下さんは『それではわたしたちは用事があるので』と仰って、図書室を出ました。

 僕を引きずって。

 はい、もう慣れました。

 引きずられて来た場所は、グラウンド横にあるテニスコートでした。テニス部員の方々がコンコンと軽快にラリーを打ち合っております。なんだか爽やかな眺めですね。ニャンニャンワールドに身を沈める工藤さんとは大違いです。

 けれどなぜテニスコートに……あ。

 なるほど、神田さんがテニス部だから、部員から情報を得ようというわけですね。

「竜宮下さん、テニス部にお知り合いでもいるのですか?」

「知り合いというか、わたしはよく知らないのだけど、向こうが勝手にわたしのことを知っているのよ。わたし、水泳部にいたときはスーパーエースだったし。運動系の部活の中じゃ未だに名前が一人歩きしているのよ」

「おお」

 運動系どころか文化系でも無名の僕には縁遠い話ですな。

「わたしとしては、ここでは神田さんのアリバイを知りたいの」

「アリバイですか」

「そう。工藤に手紙が届けられた三月二十七日のアリバイについて知りたいわ。正確に言えば、三月二十七日というよりは、三月二十六日でしょうね。工藤の言っている三月二十七日というのは日付が回った直後のことだろうから」

「まあ一応二十六日と二十七日、両方調べておきましょう」

「そうね」

 竜宮下さんがテニス部に顔を出すと「きゃーっ、竜宮下さーんっ」と黄色い声音をあげて突進してくる一人の女子が……と、彼女は勢いあまって僕に突撃しちゃいました。普通に痛いです。

 竜宮下さんは僕と突進娘さんの二人を引きずって体育館裏に行きました。なんだかこれからカツアゲにでも遭うような趣で、一抹の不安を覚える僕です。

 突進娘さんは山田田名香やまだたなかという苗字が二つ繋がったような変わったお名前でした。竜宮下さんのファンだそうです。真性のマゾなのかと疑いたくなります。

 竜宮下さんが神田さんのアリバイについて訊くと、山田さんは「その日は合宿だったよ」と言いました。

「合宿?」  

「うん、三月二十七日はテニス部の合宿三日目だったよ」

 山田さんは携帯電話のカレンダー機能を見て確認しながら話しています。

「その合宿は何泊したのかしら?」

「三泊四日。だからその次の日にこっちに帰ってきたんだー。楽しかったよー」

「ふうん。文芸部も合宿をしてみようかしら」

「えっ、竜宮下さんって、今文芸部なの!?」

「そうよ。何か文句ある?」

 竜宮下さんの瞳がギロリと山田さんを睨みました。

「う、ううんっ、全然……。ただ勿体無いなー、なんて」

「尚武屋くんがいれば、水泳部は問題ないわ」

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