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わたしと同じ匂いがするのはなぜ?

 うろうろ彷徨っているうちに、いつの間にやら校舎に入ってしまった僕です。

 というのも、預かった競泳水着をどこかに捨てようとしたのですが、どこも在校生がわらわらといて、とてもじゃありませんが女性用の競泳水着などポイッとするわけにはいきません。

 僕は当初、競泳水着を僕に預けた若干大人びた方は、海パン男さんに追われていると考えました。しかしどういうわけか、海パン男さんのように誰かを探しているかのような方々がたくさん見受けられます。

「いたか?」「いやこっちにはいない」

 などという不穏なやり取りがちらちらと耳に入ってきます。

 あの大人びた方は、どうも学校中に包囲網を敷かれてしまったようですね。ただ問題のブツは僕が持っているので、彼を捕まえたところで……むむ?

 彼が捕まったら、もしや次は僕が追われる番なのでは?

 ……これはいけません。

 死ぬ気満々の僕ですが、騒々しい死に方はしたくありません。

 そう思って、僕は現在競泳水着破棄に向けて動いているのですが、どうにも適当な場所がありません。

 教室のゴミ箱にでも捨てようかと思って上級生の方々の教室を覗いてみたのですが、どの教室も何者かを探している方々や何かの部活の集まり(自転車部やら謎のアメンボ集団)らしき方々、親密な男女交際の真っ只中の方々など、とにかく先客がいて、捨てるに捨てられません。

 新入生の教室には誰もいなかったのですが、入学早々教室に競泳水着(女性用)など捨ててあったら、何がしか騒ぎになること間違いありません。あまり感心しませんなぁ。

 いっそトイレに流しちまおう、とあまり感心できない方法を思いついた僕は、近くの男子トイレに行くも個室は既に埋まっていました。

 しかも一週間ぶりのお通じなのか知りませんが一向に出てくる気配がありません。ほかのトイレも同様の有様です。これはどういうことなのでしょうか。

 まだ僕が追われているわけではないのですが、確実に追い詰められているような気がしてなりません。

 そうこうしているうちに、僕は校舎二階の北側の端に流される笹舟のようにやって来ました。もうこうなりゃあ服の下に着て隠しちまうか、と究極に捨て鉢になりかけたその時、当初の目的であった図書室が目の前にありました。

 ドアの小窓から覗いてみると、運の良いことに誰もおりません。

 おお、これはチャンスです。

 とっととこの色々な意味で危険極まりないブツをうっちゃって逃げてしまいましょう。

 ですが、なかなかどうして、そう上手く事は運ばないようです。

 僕が図書室のドアの取っ手に手をかけたそのとき――

「きみ、待ちなさい」



 背後から発せられた声に、僕は一瞬、なぜかスタンガンで突かれたような衝撃を感じました。振り返ると、一人の女性が立っておりました。氷の刃のような鋭い視線を僕に向けております。

「きみ、なぜわたしと同じ匂いがするの?」

 女性は平板な口調で言いました。

 それから真っ直ぐで長い黒髪をバサッとマントのように肩の後ろへ払いのけました。

 その仕草は彼女の華奢な体を忘れさせる魔王的な迫力と凄惨さを周囲に振りまきました。とてもきれいな顔つきなのですが、大きな黒目は南極の氷をはめ込んだように冷たい光を灯しています。

 制服を着ているので、この学校の生徒みたいですね。

「匂い、ですか?」

 僕は首を傾げました。匂いとな?

「失礼」

「えっ」

 女性はグンッと距離を詰めてあわや接吻かというポジションにまで僕に近づき、鼻をくんくんさせ始めました。

「くんくん」

「あ、あの」

「くんくん」

「ええと」

 なんと良い匂いなのでしょうか。これが女子の香りなのですかっ。僕のほうがくんくんしたいぐらいです。

「くんくん……む、この中ね」

 その女性はスリの経験があるのかと見紛うほどの素早い手つきで僕のスクールバッグを開けて、中から競泳水着を取り出しました。ば、万事休す。

「あ、そ、それはそのですね――」

「わたしの競泳水着だわ」

「……」

 なんてこっちゃ。

「きみが水泳部から部宝ぶほうを盗んだ男子ね。情報では背が高くて若干の老け顔って話だったけど、あてにならないものね、新聞部のメルマガも」

「あ、あの」

 一体何のことでしょう。ブホウ?

「確保」

 女性は無表情に、ポツリと呟きました。

 すると天井から――

「やいやいさー!」

 と天真爛漫な小学生のような女の子の声が聞こえたかと思ったら、天井の一部が抜けて、知らない娘さんが飛来してきました。

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