おばあちゃん
「はい、お弁当だよ」
「ありがとうございます、おばあちゃん」
玄関先で、僕はおばあちゃんからお弁当を受け取りました。
朝日が眩しくて、目を細めていないとおばあちゃんのことを視認することができません。
「今日の帰りは何時ごろになりそうだい?」
「そうですねー、部活次第なのではっきりとはわかりません。もし遅くなるようでしたら早めに電話しますよ」
僕がそう言うと、おばあちゃんはふっくらとした微笑を浮かべました。心なしか目じりの皺がいつもより深く刻まれているようにも見えます。
「どうかしましたか、おばあちゃん」
おばあちゃんはニヤニヤしながら僕を子細に眺めています。
な、なんでしょう。
僕のお顔に朝ごはんに食べた味付け海苔でもくっ付いているのでしょうか。けれど口元をゴシゴシと拭ってみましたが、味付け海苔の切れっはしもついてませんでした。
「いやね、最近の優ちゃんは楽しそうだねって思ってねぇ」
……。
…………。
………………楽しい? 僕が?
でも。
と、僕は考えます。
楽しいことに、面白そうなことに関わっていることは間違いありません。田舎に住んでいた頃とは雲泥の差と言っても差し支えないでしょう。あの村では、何一つ良いことなんてありませんでしたから。知らず知らずのうちに、傍から見たら僕は楽しそうに見える顔をしているのかもしれません。
けれど、どんなに楽しくても面白くても。
どうせ、死ぬのですから。
そう念じ続ける僕は、本当に楽しいのでしょうか。
――ふと、竜宮下さんの不敵な笑みが頭に浮かびました。あれは見ている人をゾクッとさせること請け合いで、その後もとんでもないことが起こること間違いないのですが……でも。
でも。
楽しい、んですよね。
……。
…………。
………………楽しいのでしょうか? 僕。
「…………そうですね、先輩が、良い人だから」
どれぐらいの時間沈黙していたのでしょうか。
僕はポツリとそう呟くのが精一杯でした。
「そう、それはよかったねぇ」
おばあちゃんは「うんうん」と子供みたいに楽しそうな顔で頷きました。
その時、家の中から柱時計がぼーんぼーんと鐘を鳴らす音が聞こえてきました。八時です。
「あ、そろそろ行かないと」
「はいはい、行ってらっしゃい。車に気をつけるんだよ」
こうして、僕はまたいつものように朝を迎えてしまいました。なぜなら、僕が死に損ないだからです。




