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わかったようなことを言ってみた

「しゃりしゃり……石踊さんを残してしまってよかったのですか?」

「がりがり……ええ。あとは若いお二人で、というやつよ」

「ぎゃりぎゃり……ああ、なるほど。そういうことなのですか」

 どうも僕は空気を読めていなかったようです。いけませんね。

 僕と竜宮下さんは詰め所を出た後に再び暗室に戻り、冷蔵庫のギャリギャリくんを強奪してから学校を出ました。ちなみにギャリギャリくん強奪を企てたのは竜宮下さんです。

 ギャリギャリくんはねっとりした甘さと爽やかな冷たさが同居して、口の中で夏の香りを漂わせています。うんめぇです。

 ギャリギャリくんを食しながら、僕と竜宮下さんは国道沿いを歩いています。

 真夜中だからなのか、車はほとんど走っていません。とても静かです。でも静かな都会というのは、なんだか恐いものを感じます。

「むぐむぐ……おそらくゲームばら撒き犯は工藤さんではありませんね」

 そうなのです。

 工藤さんはきっとゲームをばら撒いたりなどしていません。

 でも、僕の頭の中で、何かが引っかかっているのです。

 それが何なのか。

 でも工藤さんというと、僕はあのカリフラワーみたいな変なパーマ頭しか思い浮かびません。格好良い芸能人ならともかく、どこにでもいる芋野郎みたいな顔した工藤さんがやっても、芋とカリフラワーを合体させた新野菜にしかなりませんね。

「じゃりじゃり……当然よ。あんな器の小さい男が、ゲームを他人にあげたりしないわ」

 竜宮下さんの中でも工藤さんの評価は低いみたいです。

 竜宮下さんと僕はほとんど同時にギャリギャリくんを食べ終えました。口の中がひんやりして気持ちが良いです。

「でも石踊さんはそんな器の小さい男子に夢中ですよ」

「ふむ、わからないものね、恋って」

「そういうこともあります」

 わかったようなことを言ってみました。

「ヒモくん、わかったようなことを言わないでちょうだい」

「あい」

 案の定、怒られちゃいました。反省。

「でも本当に――」

 竜宮下さんはなぜか僕のほうに視線をやりました。

 それから優雅な手つきで長い黒髪をさらりと払いのけました。すると、ふわーんと良い匂いが僕の鼻に伝わってきました。シャンプーの匂いなのでしょうか。

「わからないものね、恋って」

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