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犯人は、どっかにいる

 自慢じゃありませんが、僕は文章を書くのが得意なのです。

 家に帰ると、僕はすぐに石踊こくようさんに次のようなメールを送りました。



『石踊さん、工藤さんの携帯はなぜか僕が持っちゃってたり、しかも昨日から。てへ。藤紐優佑ふじひもゆうすけ



 文章は簡潔にわかりやすいのが一番です。はい。

 メールを送信して二秒後、石踊さんから電話がかかってきました。

『ひもももも!』

 開口一番、石踊さんは意味不明の叫びをかましました。

「あ、どうもです」

『ヒモモンっ、今すぐ来て!』

「あ、あの、どこへ?」

『無菌室!』

 電話はそこでプツリと切れてしまいました。

 石踊さんは海の中で水着を無くしてしまったお姉さんみたいに焦りまくっていました。



「うにゃあああああああああああああああああああ! 尻鉄球しりてっきゅうぅ!」

 こんばんは。会って早々、石踊さんに尻鉄球をかまされた僕です。

 尻鉄球は僕の顔面に思い切りめり込んで、僕をすっ転ばせました。

 そして尻鉄球が普通にヒップアタックだということもわかりました。

「――って、それは尚武屋しょうぶやさんの技では?」

「アタシの細胞にはカツオちゃんの細胞も含まれているのさっ」

 ここにも七つのボール集めが好きな方がいらっしゃいました。

 まあ、石踊さんの尻鉄球でよかったです。もし放ったのが尚武屋さんなら、僕はいつぞやの焼却炉のように吹っ飛んでいたでしょうから。

「それはそうとだね、ヒモモン」

「あい」

「わけを聞かせてもらおうか」

 石踊さんがいつもの陽気さを引っ込め、急にダークサイドな雰囲気をまといました。

 普段が天真爛漫小学生女子なもんだから、その変わり様は恐ろしいことこの上ありません。僕の中で文芸部最後の砦だった石踊さんも、やはり恐ろしいお方でした。完。

 いえ、まだ終わりじゃないですね。

「あ、あい」

 僕は石踊さんに昨日スマートフォンを拾った経緯を説明しました。石踊さんは「なるなる」と頷いております。『喫茶無菌室』が目の前にあるのだから中に入ってお話したいところなのですが、今はバータイム中でお子ちゃま禁止とのことです。残念。

 いやぁ、立ち話というのは疲れますね。僕はおばちゃま方の井戸端会議には向いてないよーです。

「――と、いうわけなのです」

「むーん……っちゅうことは、その小学校から飛び出してきた男が工藤さんってことだね」

「まあ、そうなりますね」

「なるなる」

 石踊さんはいつもの陽気さを取り戻し、首を縦に振っています。どうやら告白を聞いちゃったことは許してくれているみたいです。

「飛び出し男=工藤さんということはですね」

「ということは?」

「工藤さん=ゲームばら撒き犯、という式も成り立つわけです。その日にゲームがばら撒かれてるわけですから、工藤さんの行動は怪しさ満点です」

「なるなる……なる?」

 石踊さんの首の動きが急停止しました。

「石踊さん?」

「……もしそれが知れ渡ったら、工藤さんはどーなっちゃうのかにゃ?」

「そうですねぇ、お咎めなしというわけにはいかないと思います。停学やらなんやら」

「…………」

 石踊さんが沈黙している姿を初めて見ました。神妙な面持ちで「うにゅにゅにゅ」と奇妙なうめき声をあげて悩んでいるご様子。きっと石踊さんとしては工藤さんを庇いたいのでしょうけど、庇いようが無いほどに工藤さんは疑わしいのでどうしようもありません。

 けれど石踊さんはパッとお顔を輝かせ、高らかに宣言しました。

「真犯人は、この中にいる!」

 と。

「あの、ここには僕と石踊さんしかいませんが」

「真犯人は、どっかにいる」

 めちゃくちゃ投げやりでした。

「言いたかっただけですね」

「うん」

 石踊さんは「えへへ、満足満足」と笑いました。

「でも、真犯人は本当に工藤さん以外の誰かで、どっかにいると思うぜいヒモモン。だって工藤さん、スーパーケチだもん。ゲームを配ったりするぐらいだったら、むしろ拾いに行くほうが自然だと思うね、うん」

 工藤さんというお方は、相当なケチんぼさんらしいです。

「さてヒモモン、真犯人捕まえに行こうぜい」

 石踊さんは「うっしゃあ!」と気合を入れファイティングポーズの構えを取りました。ボクシング部にも入っているのでしょうか。マルチプレイヤー過ぎます。

「あの、いっそのこと直接工藤さんに訊いてみてはどうでしょう。このスマートフォンも返したいですし」

 そうなのです。工藤さんというお方、携帯をなくしたというのに一向に探してなさそうなのです。てっきり僕は工藤さん本人から電話がかかってくるかと思ったのですが。

「うむむーん……まあ、そういう方法もあるっちゃあるけど……」

「そういう方法も、というか、それしか無いと思います」

「そうだねー……それっきゃ無いかー。でも工藤さんは真夜中にしか学校に来ないんだよねぇ」

「ほえ?」

 石踊さんは犯人が動機を喋るみたいに、工藤さんのことを重い口調で話し始めました。石踊さんが語る最近の工藤さん事情を聞いて、僕は絶対に留年はするまい、と心に誓いました。

「じゃあいっそこれから学校に行きますか? 今八時ですからまだ四時間もありますけど」

 僕は言いました。

「むむーん、今日はちょっち無理だなぁ。見たい深夜アニメもやるし」

 工藤さんより深夜アニメを優先する石踊さんでした。

「明日にしようぜい」

「わかりやしたです」

「あっはっは、ヒモモンもやる気になっとるみたいですなー」

「あははは」

 僕は苦笑しました。

 まあ、どうせ死ぬのですから。

 どうせ死ぬなら、面白そうなことに首突っ込んでおこうかなーと。はい。

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