特爆の行き先
特爆《特爆》が発車してすぐに、僕はシートに座り眠りこけてしまいました。都会を満喫し過ぎて疲れてしまったのでしょうか。でもそれにしては、やけに突然訪れた眠りのように思えてなりませんが。
目を覚ますと、ドアは開いていました。
窓から外を窺うと満月がぽっかりと暢気に浮かんでいます。月明かりを浴びて、山の稜線が薄っすらと見てとれます。
これって……。
僕は恐る恐るドアの前に立ち、唖然としました。
そこは駅のホームなんかじゃなかったのです。
僕が通っていた中学校の屋上でした。
じんわりと湿っぽく肌にまとわりつくような暑さが、車内に流れ込んできます。まるで夏のような、いいえ、間違いなく、夏です。
今日は五月三十一日だったはずなのに。
暑くなんて、なかったのに。
なぜか、夏なのです。
屋上に降り立ち、僕は柵によじ登っている人影に気付きました。
「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ユウキくん」
ユウキくんが、柵を乗り越えようと――今、乗り越えました。スタッと向こう側へ降り立ったユウキくんは、まるでその先に橋でもかかっているかのように、遠くを眺めています。一歩でも踏み出せば、本当に向こう側へ行くことができるでしょう。
でもおかしいです。
僕がいません。
どうして、僕がいないのですか。
――なるほど、今の僕が行けばいいんですね。
どうせ、死ぬのですから。
今、行くべきなのです。
僕は駆け出そうとしました。しかしなぜか足は思うように動きません。鉛のように重く、一歩を踏み出そうにも普段の半歩かそれ以下しか進めません。
どうして、動いてくれないんですか。
こんなときに限って。
僕は見たいのに。見たいのに。
そしてユウキくんと一緒に――
あ。
ユウキくんが僕に気がつきました。僕と彼の視線が寸分の狂いなくぶつかるのが、暗い中でもはっきりとわかりました。
それからユウキくんはニコリと笑って……駄目です。駄目なのです。
それじゃあ、駄目なのです。
僕は慌てて踵を返し、特爆のほうへ駆け出しました。ドアの手前で石もないのに転んでしまい、最後は這って車内に戻りました。僕の体が完全に車両の中に納まると、ドアは自動的に閉まり、ガタガタと揺れながら車輪を滑らせ始めました。
……またです。
僕はまた、同じ失敗をやらかしてしまいました。
きっとユウキくんは、あの後、また一人で死んでしまったのです。




