とある狂ってしまった少女の物語。
それは、昔々の物語。中世頃の物語。
とある森の奥。とても人が踏みはいらないような森の奥深く。
くら~い暗い森の中に一軒の丸太小屋があります。
そこには一人の少女が住んでいました。
少女の名はアンヌ。今年14の女の子。
赤い服を着た、ウェーブのかかった髪を二つくくりにした可愛らしい女の子です。
アンヌに親はいません。
父は流行り病で、母は魔女狩りに遭い、アンヌの目の前で焼き殺されてしまいました。
以来、アンヌは親と隠れ住んだ、この暗い森の中の小屋で一人で暮らしています。
・・・・・父と母の帰りを待って・・・・・
毎日、毎日、人形をつくり、出来た人形達に語りかけます。
「うふふっ、お父さんとおかあさんはいつ帰ってくるのかなぁ?ねぇ、〇〇ちゃん、おかぁさん達はいつ帰ってくると思う?・・・うん、うん、そうよね。・・・もうすぐ帰って来るわよね。・・・〇〇ちゃん、わたしね、お父さんたちが帰ってきたらね、お父さんには肩車をしてもらったり、一緒に遊んでもらうんだ~。おかあさんが帰ってきたら料理を教えて貰ったり、おかあさんのお手伝いをしたりするの。うふふふっ。素敵でしょう?それでね、今までのことを話して、ちゃんとお留守番出来たこと、褒めてもらうんだ~。いいでしょう?・・・あ~あ、二人とも早く帰ってこないかなぁ・・・・・・・」
その頃、近くの村ではとある奇妙な噂が流れます。
「おいっ、また奇妙な変死体が見つかったそうだ。」
「といっても体の一部だけだろう?」
「または、逆に体の一部がないらしいぜ。」
「ああ、奇妙な事件だよなぁ。」
「聞いたところによると、毎回その近くには血のように真っ赤なドレスを纏い、血の様な赤い模様のついたぬいぐるみを持った、まだ幼さの残る少女が目撃されているらしい。」
「で、その少女は毎回、体のどこかを血に染めながら歪に笑っているらしい。」
「俺が聞いたのはその少女が沢山の歪な死体の中で血にまみれながら、高らかに哄笑してたっていう話だったぞ。」
「いずれにしろ、くわばら、くわばら。」
「さわらぬ神にたたりなし、だ。」
村人たちが噂をし始めてから少し。
まだアンヌは人形を作り続けます。
生きているかのように精巧な人形やぬいぐるみを・・・。
「おかぁさん達まだかなぁ・・・。あら、鋏に血がついてさび付いてるわ。どうしてかしら。・・・・・後できれいにしておかなくっちゃ。・・・さびしいなぁ。お父さんたち早く帰ってこないかなぁ・・・。」
アンヌの周りには大小さまざまな夥しい程の数の人形が転がっています。
中には血にまみれたような人形も・・・。
また数日後、
村人たちが犯人の住処を見つけました。
犯人が残した血の足跡を辿ったのです。
「おい、小屋が見えてきた!」
「油断するな!!相手は大量虐殺犯の魔女だ!!」
「捕まえて火あぶりの刑に処すぞ!!」
・・・そして・・・
「・・・おじさんたち、だぁれ?アンヌをおとうさんとおかぁさんのもとに連れて行ってくれるの?」
「・・・どういうことだ?」
「わかりません。」
「あっ、間違いねぇ。こいつが魔女だ!」
「この少女の親は、すでに死んでいます。そしてこの少女はどう見ても狂っています。」
「ならば・・・」
「・・・ああ、そうだ。俺たちがお前を親元に連れて行ってやるよ。」
「ほんと!?・・・ありがとう!!」
アンヌは無邪気に本当に嬉しそうに満面の笑みを浮かべました。
それが・・・、その誘いがどんな意味を持つかも正確にはわからずに・・・。
そして、四日後、
アンヌは目隠しをされて柱に括り付けられ、今日、火あぶりの刑に処されます。
アンヌは最期まで笑っていました。
「ありがとう!ありがとう!これでおかぁさんとおとうさんのところに逝ける!!アハハハハハ!!」
本当に嬉しそうに、
そして歪に、
楽しそうに、
幸せそうに、
狂いながら、
お礼をいいながら、
笑って逝きましたとさ。
おしまい。
魔女狩り・・・、実際には関係ない人も巻き込んで、騒ぎ立てて、殺してしまったそうな。
アンヌは目の前で母と父を失い、狂ってしまったのです。
彼女は自分が何をしたのかわかっていません。
彼女はただ、両親のもとに逝くことだけを、両親に会うことだけを
望んでいました。
これは【歪の中で笑うのは】というお題から思いついた即興話です。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。