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8、覚醒

 目を開けると、そこは知らない場所だった。目に映るのは真っ白な天井だけだ。


 真っ白なシーツをどけて起き上がると、自分が真っ白なベッドの上で寝ていた事が分かる。


「病院か…?」


 あれ、俺達はどうなったんだっけ。確か白坂と戦ってて、皆で囲んで様子を伺っている時に白坂が光りだして…。あっ、そうだ!


「みんなはあの後どうなった!? 恭子は!? 拓夢は!? 玲次さんは!?」


 視界をふさいでいた真っ白なカーテンが突然開かれ、そこから恭子の顔が見えた。


「圭介も起きたんだね!」


「恭子…」


 良かった、無事だったのか。


「後のみんなは?」


「いるよ、ほら」


 恭子が目一杯にカーテンを開けると、隣のベッドに玲次さんが腰かけているのが分かった。春香さんはその近くの椅子に座って玲次さんと何か話をしている。五十嵐さんは見えにくいけど向かい側のベッドで横になって本を読んでる。


 後は…、


「拓夢は? 拓夢はどこ?」


 俺がその質問をした瞬間、場の空気が凍った。


 おい、その反応は止めてくれよ。嫌な事を想像してしまうじゃないか…。


「拓夢君はね…」


 恭子が言いにくそうに口を開いた。そして恭子は、俺が気を失っている間に空西さんから聞いた事を話した。


「じゃあ、拓夢は連れ去られたのか…?」


 疑問が確信に変わると、俺は体の力が抜けてまたベッドに倒れそうになった。


「拓夢は、どうなったんだろう」


 俺が呟いても誰も答えない。いや、答えられないのか。そんな事分かるはずないよな。どこに連れて行かれるのかすら分からないんだ。


「拓夢がどうなったかは分からないが、命はまだあるはずだ」


「え?」


 口を開いたのは玲次さんだった。


「どうするつもりかは分からないが、白坂は拓夢を生きたまま連れてくるように言われていた。拓夢の能力を利用するつもりだろう」


「でも、相手は私達の能力を把握してないはずですよね」


 恭子の言う通りだ。組織の一員である橘に襲われた時、橘は恭子の能力を知らなかった。


「その矛盾は簡単に解決できる」


 玲次さんは冷静に言った。


「今までは無差別に能力者を集めていたから住所と名前だけで十分だった。だが、特定の能力が欲しくなった組織はその能力の情報を探し、情報と住所を照らし合わせて拓夢を特定したんだ」


 なるほど、いつもは知る必要が無いだけで、知る必要があるなら調べれば分かるという事か。


「じゃあ、今からでも助けにいけば間に合うかも…!」


「そういう事だ。だがな、今すぐは無理だ。今のまま白坂と対峙すれば同じ結果になるのは火を見るより明らかだ。第一場所も分からない。だから、これからも探しながら強くなっていこうと思っている」


 結局今まで通りが一番の近道って事か…。


 そこで俺はふと思い出した事があった。


「そう言えばここはどこなんですか!?」


 周りを見ても見覚えは全くない。病院にしては部屋が広い。相部屋ってこんな物なのか?


「えっと、ここは…」


 恭子が話そうとした時、部屋の引き戸が開いた。


「空西…!」


 サングラスをかけて白い高そうな上着を着た男―――空西が部屋の中に入ってきた。よく見ると後ろから白衣を着た中学生くらいの女の子がついてきている。


「お、起きたのか。元気そうだな」


 空西は口元を緩ませた。そして、後ろの女の子の頭に手を乗せた。


「こいつは海野蛍(ウミノホタル)。俺達の治療をしてくれたのさ」


 海野は頭をかいて無邪気に照れ笑いをしている。


「治療って、うちら傷痕あらへんよ? 本当に怪我してたんか?」


 確かに、誰も怪我をしていたようには見えない。どのくらい寝ていたのか分からないけど、どんな怪我にせよこんなに速く完治するとは思えない。


 それに…、


「それに、本当に医者なのか…?」


 玲次さんが言いにくそうに言った。


 そう、それだ。明らかに未成年のこの女の子が本当に医者なのか?


「えー!? 医者に見えるー!? エヘヘ、嬉しいなー!」


 なんだ、この子…。ハイテンションだな。


「でも残念! 私、医者じゃないんだー。なんと、私の能力を使ってピキーンと治したのです!」


 海野は自信満々で玲次さんを指差した。


「はあ、そうか…。ありがとう。だが、それなら白衣はいらないんじゃないか?」


「いやいやぁ、こういうのは気分の問題でしょー! 気が乗らないと治せる物も治せないし?」


 海野はポニーテールを揺らしてクルクルとその場で回った。


「はあ…、そうか」


 玲次さんはかなり呆れた顔をしている。というより引いている。


 完治までが早いのも、能力を使ったと言われれば納得出来る。礼を言いたい所だけどこの雰囲気だとなぁ。


 その時、ガラガラと音がして戸がまた開いた。


「お、来たな」


 空西が呟くと、三人の男が順番に入ってきた。


「俺の相手をする奴はどいつだぁ!?」


 背の高い筋肉質で強そうな男と、


「嵐原、一応ここ病室だからな?」


 気さくそうな男と、


「そうですよ。それに能力者が全て戦闘専門とは限りませんよ」


 眼鏡をかけた頭脳派っぽい男。三人共見た目は三十歳前後。その三人が入り終わると、空西が口を開いた。


「俺の仲間達さ」


 その三人の内、気さくそうな人が紹介を始めた。


「俺は浮島真一(ウキシマシンイチ)。この筋肉男は嵐原轟鬼(ランバラゴウキ)。そして眼鏡をかけてるのが谷澤麓助(タニザワロクスケ)。本当は幹部だけでもみんな連れてきたかったけど、みんな忙しいからね」


 浮島さんが三人の自己紹介をすると、嵐原が大声で笑った。


「フハハハ! その通りだ! 総長さえいないしな!」


 浮島さんは苦笑いを浮かべた。


「ちょっと待ってくれ。今幹部って言ったよな?」


「ん? ああ、そうだよ。何かおかしかったかな?」


 浮島さんは、玲次さんの質問の意図が分からないようだった。


「お前ら、何人いるんだ…?」


「メンバーの事かな? ざっと百人はいるんじゃないの?」


 浮島さんが言うと、後ろで谷澤さんも頷いた。


「百人…」


 玲次さんは驚きで表情を固まらせていた。だが、すぐに口元にうっすら笑みを浮かべた。


「お前達の活動目的はなんだ?」


「フハハハ、悪人を破壊する活動だ!」


「嵐原、少し静かにしていてくれ」


 浮島さんは、嵐原さんを一蹴すると話を続けた。


「空西から聞いたと思っていたけどな。俺達のメンバーは九割方が能力者なもんでね。当然俺達の最終目的は、能力者の誘拐の元凶である組織の壊滅だ!」


 ガタッと音を立てて玲次さんが立ち上がった。


「目的が一致した。俺達も協力しよう。いいよな?」


 玲次さんは周りを見回した。


 俺と恭子は頷き、春香さんは“ええで”と言ってニコニコしてる。五十嵐さんは本を読みながら左手でオーケーサインを出していた。適当だなぁ…。


「君がリーダーかな?」


「ああ、俺は氷川玲次。よろしく」



※ ※ ※



 一通りこちらの紹介が終わると、谷澤さんが疑問をぶつけてきた。


「すみません、あなた達のグループは何人程で構成されているのでしょうか。協力する、もしくは合併するとなれば全体の人数を記憶しておきたいので」


「…ああ、人数か」


 玲次さんが珍しく言葉に詰まった。まあ百人と聞いたらこちらは五人だけとは言いにくいか。


「あ、嫌ならいいんです。すみません。私、情報班に所属している者でして情報整理が癖になってしまいまして」


 谷澤さんが謝ると、玲次さんは慌てて否定した。


「いや、嫌という訳ではない」


 玲次さんは、一呼吸置いてからまた口を開いた。


「五人だ」


「え?」


 声が裏返ったのは浮島さんだ。


「五人、ここにいるメンバーで全員だ」


 それを聞いた谷澤さんは、空西に鋭い口調で質問した。


「確か空西さん、あなたは彼らが大きな組織の所属だと言っていましたね。私はそう記憶していますが」


「え!? いやいや、そうかもしれないと言う話さ!」


「うわー! カケルの嘘つきだー!」


 海野は空西を指差してゲラゲラ笑っている。


「任務も失敗する、嘘もつくでは班長失格だなぁ」


 嵐原さんが馬鹿にしたように言うと、空西はムッとして言い返した。


「嘘はついてないし、相手は予想外の強敵だった。俺だったからここまで被害が少なくて済んだけど、嵐原だったらみんな生きてなかったかもなぁ」


「あぁ!? 死にてぇのか!?」


 嵐原さんは両手を一度合わせて徐々に離していった。すると、その両手の間を青白い稲妻が何本も走り始めた。


「君こそ真っ二つにされたいの?」


 空西も手で空気を固めて刀を作った。


 え? これってまさか戦闘体勢ってやつ?


「轟鬼! カケル!」


 浮島さんが怒鳴ると、二人は不機嫌そうに戦闘体勢を解いた。


「五人だろうが、仲間が増える事には変わりない。敵の強大さを考えると、一人でも増えるのはありがたい事だよ。君達五人を喜んで迎え入れたいと思う」


 浮島さんは笑顔で言った。


「そうか、喜んで貰えるとありがたい。協力しよう」


 玲次さんも笑顔で答えた。


「ようし、じゃあ全員並べー!」


 浮島さんが言うと、嵐原さん、谷澤さん、空西、海野がその横に並んだ。


「じゃあ、お前達も来てくれ」


 玲次さんに呼ばれて、俺達四人も玲次さんの横に並んだ。


「じゃあ、これからよろしく!」


「こっちこそよろしくな」


 浮島さんと玲次さんが握手すると、残り四組も前の人と握手を交わした。


 ――――!!


 なんだ? 今掌がピリッとしたな。


 俺は今握手したばかりの右の手のひらを見たが、何も無い。気のせいか。


「何やってんだ? 俺と握手して手が汚れたか心配か?」


 俺が握手した嵐原さんは冗談を交えて言った。俺は慌てて訂正する。


「いえ、そういう事では―――痛ッ!」


 今度は左腕だ。二の腕辺りがビリッとした。


「おや、大丈夫か? 今腕が光ったけど」


 浮島さんが心配そうに声をかける。


 え?俺、今光ったのか?


 そんな事を思っていると、身体中あちらこちらで電流が流れるような痛みを感じ始めた。バチバチと音もなってるし、確かにそれと同時に青白く光るのが見える。


「い、いててっ! 何だこれ!?」


「おいっ!! 嵐原、何かしたのか!?」


「あぁ!? してねぇよ!」


「おそらく、この方の能力ではないですか?」


 谷澤さんが呟くと、浮島さんの顔がこっちを向いた。


「そうなのか!?」


「いや、分かりません。まだ自分の能力が分からなくて!」


 でも、俺の能力って可能性はある。たまたま同じ能力の人と出会って覚醒したって事か? って、そんな事よりも俺に流れ続ける電流をどうにかしないと。


 俺に流れる電流は時間が経つにつれて光と音が激しくなってきている。


「とにかく全員離れろ! 能力暴走の可能性が高い!!」


 浮島さんが叫ぶと、全員後ろの壁に寄った。嵐原さんがその前に立っている。


「後ろにいろぉ! 電流が来たら俺が全部食い止めるからよぉ!」


 嵐原さんが叫んだ時、俺の手からベッドの手すりへと青白い光が飛び、バチッと言う音と共に火花を散らした。


 これは本格的にまずい! 体から溢れてくる電気をコントロールできない!


 俺の体からあらゆる所へ次々と電気が放出されていった。振り向くと、恭子達が心配そうに見ている。


「蛍! まだか!?」


 浮島さんが海野に向かって叫んだ。


 そういえば海野だけ避難してないけど大丈夫なのか!? 当たらない保証はできないぞ!


 海野は目を瞑って両手を広げたまま立っている。だんだん海野の体が光に包まれていくのが分かった。


 淡く優しい暖かみを感じる光。白坂の突き刺すような光とは対称的だ。


「ただいま準備完了しましたー!」


 海野はそう言うと、目を開けてニヤリと笑った。


 すると、海野が纏っている光の一部が俺の方にフワフワと流れてきた。そして小さな光の粒ひとつひとつが違う動きをして、俺の体を包み始める。


 何をされるのかは分からないが、不安は無い。この淡く黄色い光の粒は安心感を与えてくれた。


 依然として俺の体からは電撃が激しく飛んでいる。蛍光灯もいくつか割ってしまった。


 だが、光の粒が完全に俺の体を囲んでしまうと、周りから電撃による被害の音が止んだ。


 でも、俺の体にバチバチと音を立てて電流が流れているのは変わりない。



「エヘヘ、これでもう大丈夫だね!」


 海野が嬉しそうに言うのが聞こえた。姿は光に邪魔されて見えない。


「もう安心していいぞ」


 浮島さんの声が聞こえる。多分みんなに呼び掛けているのだろう。


「蛍の能力であいつの出す電撃は全て光に吸収される」


「あの、どうすれば止まるんですか?」


 恭子の声だ。それに浮島さんが答える。


「それは分からないけど、体力切れたら止まるだろ」


 えっ!? 俺は電池切れまでこのまま痛い思いをし続けるのか!? それは御免だ。どうにかして止めないと!


 俺は腕に力を入れてみたが、体を流れる電流が弱まる気配は無い。むしろだんだん強くなってきている。


 周りに被害が出なくなったのはいいけどこれはきつい。身体中に感じる痛みは尋常じゃない。音は一層激しくなり、ひたすら体に電流が流れ続ける。


「うっ…! うあぁああぁああぁあぁ!!」


 とうとう痛みに耐えきれず叫び声を上げてしまった。


 耳が電流の音と自分の声に支配される中、俺の意識は遠のいていった。



※ ※ ※



 俺が目を開けると、そこは白いベッドの上だった。天井は金属で出来た無機質な物だ。


 どうやらあのまま意識を失ったようだ。さっきの部屋じゃないな。また違う部屋か。それともさっきのは夢だったのか?


 いや、流石にそれは無いか。まださっきまで流れていた電流のせいで体中がヒリヒリする。痛む体を起こして、部屋の全体を見回してみた。


 部屋の壁や床も天井と同じ材質でできているようだ。家具はこのベッド以外無い。だが、それにしては異様に広い。まるで独房じゃないか。


 ベッドがあるのと反対側の壁に大きめの窓がついている。


 よく見るとその窓から玲次さんがこっちを見ているのが分かった。


『起きたみたいだな』


 玲次さんの声が上から聞こえた。多分どこかにスピーカーがついているんだろう。


「ここは…」


 返事をしようと思ったけど、わざわざスピーカーを使って話すくらいだからあの窓は音を通さないはず。聞きたい事が沢山あるけどどうしたら…。


 すると、俺の考えている事が分かったかのように玲次さんは言葉を繋げた。


『大丈夫だ。そこで話せば音を拾ってこっちに伝わるようになってるらしい』


 なんだ、普通に会話できるのか。


「ここはどこですか?」


 俺は一番気になる事を質問してみた。多分さっきの病室もここも空西の所属する組織の物だろう。でも、ここがどういう部屋なのか。それが知りたい。


『ここは研究班の一室だ』


「研究班…?」


『ああ、主に能力の解析、対能力者用の武器や防具を作ったりするらしい。今から行うのは能力の解析だ』


「能力の解析って…。俺は電撃を出す能力なんじゃないんですか?」


『電撃を出したからと言って全て同じ能力とは限らない。全く違う能力の力の一部として電撃が出せる事もある。先程は圭介が意識して出したわけではないはずだ。だからお前の元の能力を調べる事になったんだ』


「ここじゃなきゃ出来ないんですか?」


『俺に言われても困るな。だが、いつまた能力暴走が起きるか分からない。攻撃的な能力であった以上隔離した方がいいのは確かだ』


 え? それってつまり…。


「俺が能力を操れるようになるまでここに閉じ込めるって事ですか?」


『ああ、そうだ』


 玲次さんの声が小さく聞こえた。


「ふざけないでくださいよ! 俺にこんな独房みたいな所で暮らせって言うんですか!?」


『圭介、そう興奮するな。完璧にコントロールできる必要は無い。能力の発動と抑制ができればいいんだ。すぐに出られる』


 それが本当なら良いけど。そういえば他のみんなはどこへ行ったのだろうか。


「玲次さん、他のみんなはどこへ?」


『ああ、俺達はここに入団する事になったんだが、それでどこの班に編入するかって事になってな。今まで培ってきたチームワークも考慮して五人一緒という事になった』


 まあ、それが俺も一番良い。突然慣れない環境に一人放り出されても困ってしまう。


『だから圭介がここで訓練している間俺達はそれぞれ違う班に行ってみる事にした』


「班って何があるんですか?」


『ああ、それも説明する』


 玲次さんは、それぞれの班についての説明を始めた。


『班は全部で七班あるらしい。

 一班は諜報班。

 二班は制圧班。

 三班は突撃班。

 四班は狙撃班。

 五班は救護班。

 六班は情報班。

 七班は研究班だ』


 なんだか戦闘用の班が多い気がする。大丈夫かな?


『浮島は一班、空西は二班、嵐原は三班、海野は五班、谷澤は六班のそれぞれ班長だそうだ』


 海野が班長? あの見た目からは想像できないな…。


『それで、春香は制圧班、五十嵐は情報班、恭子は救護班にそれぞれ行く事になった。俺はここで圭介の特訓に付き添う』


「玲次さん…」


 なんだかさっき怒鳴ったのが申し訳なくなってきた。


『だが、俺は基本見ているだけだ』


「え? じゃあ誰が?」


『もうすぐ来るはずだが』


 玲次さんが言うと、ドアを開ける音が聞こえた。誰か窓の向こうの部屋に来たようだ。


 すぐにここと玲次さんのいる部屋を繋ぐ金属製の重そうな扉が、空気の抜けるような音を立てて開く。そして、さっき見たがっちりした体の男―――嵐原が入ってきた。


 嵐原さんかぁ。同じ能力かもしれないしコントロールの仕方も良く分かっているはず。少し安心。


「さっさと始めるぞ!」


 嵐原さんは入るなり大声を出してずんずん歩いてきた。


 その後ろではまた空気の抜ける音と共に扉が閉まる。どうやら機械で開閉しているようだ。密閉しているのだろうか。


「さっき病室で紹介されたが、俺が嵐原だ。能力は“雷撃”。お前が能力をコントロール出来るまでお前の指導をする事になった。確か圭介だったな!?」


「はい」


「お前、俺と同じ能力なんだよなぁ?」


 嵐原さんはそう言いながら両手の間に青白い電流を流した。


「いや、まだ分からないんじゃ?」


「あぁ、そうだったな! 悪い。だけどよ、もし一緒ならお前も凄く強くなれるなぁ!」


 ついさっき出会ったばかりなのに“自分は強い”発言…。いや、俺がさっき安心したのと一緒で同じ能力かもしれないから嬉しいのか?


「さて、じゃあ早速始めるぞ」


 そう言うと、嵐原さんは手のひらを合わせた。


「まず手を合わせろ。そこから手のひらに力を入れながら離していけ」


嵐原さんの手の間には、病室で見たのと同じ様に青白い電流が流れていた。


「あの時のお前の放電、あれ体力も使うし初めてだから痛いだろぉ? こうやれば体力は全然使わないし、痛みも無い。いわゆる省エネだ! 実用性は無いがなぁ!」


 俺は、嵐原さんに言われた通りに合わせた手に力を入れながら離していく。だが、その間に青白い電流は見られなかった。


「ダメですね…」


「まあ、コツを掴めばすぐ出来るようになる。これが出来れば俺と同じ能力って事だ! 出来なければまた他の方法を考えるから安心しろ!」



※ ※ ※



 だが十分、二十分とやっても手にはピリッとも来なかった。そして、とうとう一時間が経った。


「そんな難しくないんだがなぁ。やはり違う能力か?」


 やっぱり俺が能力を使えたなんて何かの間違いだったんじゃないか? 自分の体に電流が流れた時、どうやったのか全く思い出せない。本当に自分でやったのか?


 上達どころか能力を全く発動できないので、だんだんこの訓練に対する集中が薄れてきた。


「少し休憩を入れるぞ」


 嵐原さんはお手上げだという表情で金属製の扉の方へと向かった。


 大きな音を立てて扉が開くと、そこには玲次さんが立っていた。そして扉が開ききると、嵐原さんが出るより先に早歩きで中に入ってきた。


「なっ!? おい! 何のつもりだ! 危険だから今すぐ出ろ!」


「これだけやっても能力は発動しないんだ。危険は無いだろ?」


 玲次さんは嵐原さんの言う事に聞く耳を持たずにとうとう俺の前で止まった。


「能力の使い方を教える事に関しては俺の方が慣れているはずだ」


 玲次さんの言葉に対して嵐原さんはチッと大きな舌打ちをした。


「仕方ねぇな、危ねえと思ったらすぐに連れ出すからな!」


「さて、了承も出たし始めるか」


「はい」


 集中力が切れていた所だったが、玲次さんがやってくれると言うと不思議とやる気が出てきた。


 しかし、教える人が変わった所で俺の能力が発動する訳でもなかった。


 玲次さんの言うように体の様々な部位に力を入れてみたが、あの時体中に走っていた青白い光は一瞬たりとも出ていない。


「そろそろ諦めろぉ! お前じゃ無理だ!」


 嵐原さんが怒鳴ると、玲次さんは一瞬嵐原さんを睨んだがすぐにまた俺の方を向いた。


「圭介、最後にもう一度手に力を入れてみてくれ」


玲次さんは俺の手をとって掌の中央付近を指した。


「特にこの辺りだ。この辺りに力を入れてみてくれ。さっきも言ったが、ここに力を入れる事で使える能力が多いんだ」


 玲次さんが話す途中、俺は体に異変を感じた。血の巡りが速くなっているのか体が熱い。


「玲次さん、離れてください!」


 この感覚はあの時の、体に電流が流れた時の感覚に似ている!


 玲次さんは跳び退いて俺から距離を取った。それとは逆に、嵐原さんは俺に近づいてきた。


「電流は俺が引き寄せる! お前は下がってろぉ!」


「いや、止めた方がいい。どうやら圭介の様子がおかしい」


「あぁ!?」


 嵐原さんは乱暴に聞き返したものの、素直に近づくのを止めた。


 確かに言われてみると、最初に能力が覚醒した時とは少し違う。感覚は同じだが、体に電流が流れる時の痺れる感覚が無い。代わりになんだか湿気がひどくなったようで、服が湿ってきている。


 玲次さんもそれに気づいたようだった。


「なんだ? 圭介、服が濡れているな」


「もしかして、天気を操る能力かぁ?」


 嵐原さんの言葉に玲次さんは首を振った。


「いや違う、あれは…」


 玲次さんが続きを言うや否や、俺の体が指先から徐々に白く凍りつき始めた。


「『氷結』だ」


「『氷結』ってお前の能力だろ? 確かに今冷気を出しているのかもしれないが、あいつが雷も出したのを忘れたのか?」


 確かに、さっきの雷と今の冷気は感覚からして同じ能力を使っている気はしない。


「違う、今『氷結』なんだ」


 玲次さんは断定した。既に俺の能力について確信しているのかもしれない。


 だんだん体から放出される冷気が弱まってきた。コントロールするコツがつかめてきた気がする。


「玲次さん! 冷気が収まりました!」


「ああ、そのようだな」


 肌についていた霜のような物も徐々に溶けていく。


「嵐原、頼みがある。確かめたい事があるんだ」



† † † † †



 ここ最近、いや既に一月以上か。


 恭子と圭介が学校に来なくなってから時間が経ち、学校生活は表面的には元に戻った。


 しかし私―――神崎皐月(カンザキサツキ)が親友である恭子の失踪を適当に終わらせるはずが無い。


 担任は特に何も言わないけど私は確信しているわ。駆け落ちね。だって休み始めた日まで一緒なんておかしいじゃない。まあ何から逃げているのかは知らないけどね。うん、我ながらに名推理ね。探偵にでもなろうかしら。


「皐月! 聞いてる?」


「っ!? ええ、もちろんよ…」


 びっくりしたわ、何なのこの子。突然大声出さないで欲しいわね。


「皐月もちゃんとやってくれないと実験終わらないよ?」


 そういえば今は化学の授業中だったわ。実験と言っても何をしたらいいのかしら。


「皐月はバーナーに火をつけといてね。私達他の道具持ってくるから」


 火をつけろって? 私にそんな危険な仕事を押しつけるなんて。まあ、やってあげるけどね。


「あったわ、これね」


 実験用の机の上を見ると、既にバーナーはガス管の栓に取りつけられていた。


「何よ。後は火をつけるだけじゃない」


 私は近くにあったマッチ箱から一本マッチを取りだし、箱の側面で素早く擦った。


「あら? つかないわ」


 何度も擦ってみたが、火がつく様子は無い。


「どうしたんだ? 皐月」


 突然後ろから聞こえた声に私が振り向くと、そこにはやや重そうな器具を運んでいる男子の姿があった。彼は保村篤志(ホムラアツシ)と言い、私の中学からの知り合いだった。


「なんだ、火がつかないのか? 貸してみろ」


「っ…!? これくらいできるわ!」


「いいから」


 篤志は私からマッチを奪うと、私と同じ様に擦り始めた。しかし、火がつく様子は無い。


「これ、湿気てるな」


 湿気てたのね。どうりでつかないはずだわ。


 篤志はそのマッチ棒を眺めながら言葉を続けた。


「この箱の残りが使えるか試してみるから皐月は他の班から借りられないか聞いてきてくれないか?」


「……。分かったわ」



※ ※ ※



 他の班に聞いてみたら、二班目で借りられたわ。ふふっ、お手柄ね。


 私は班の元に急いだ。篤志に先を越されるのは嫌だしね。


 さて、班に着いたわね。ん? 何か篤志の様子がおかしいわ。コソコソやってるわね。


 私がいるのは篤志の後ろ、つまり彼の死角。まだ気づかれていないわね。


 そっと後ろから覗きこんでみると、近くにマッチ棒が散らかっている。バーナーに火がついていない所を見ると、使える物は無かったみたいね。


 でも、マッチ棒も持たずに右の人差し指を横からガスバーナーの先に向けているわ。何するつもりかしら。


 私が篤志にそれを聞こうとしたその時、それは起こった。


 篤志の指の先から小さな火炎が放射され、ガスバーナーに火が灯ったのだ。


「よし、これでいいだろ」


 これは…、超能力…? そういう事と見ていいのかしら。


「何をしてるのかしら?」


 私は保村に近づいて、死角にいる状態で声をかけた。


「おっ、皐月。火がついたんだよ」


「そうみたいね」


 篤志の右手がさりげなく下ろされたのを私は見逃さなかった。


「ごめんね、遅くなっちゃった」


 残りの班員二人も戻ってきてしまったわね。私は、薬品を入れた試験管を保村の持ってきた器具に取りつける班員達を見てひとつ溜息をついた。


 まあいいわ。さっきの事については後でまたゆっくり聞く事にしましょう。


 私はそう心に決めると、班員達を手伝うべく薬品を1つ手に取った。



※ ※ ※



 化学の時間も終わり、生徒は解放されて教室に戻ろうと化学室からぞろぞろと出ていく。


 私はそれに混ざって出ていこうとする篤志の肩に手を置いて呼び止めた。


「ちょっといい?」


「……?」


 篤志は一瞬驚いた様子を見せたが、無言で首肯する。


 私は化学室からクラスメートが出ていき、二人きりになったのが分かると口を開いた。


「私、見たわよ」


「……」


 篤志は何も言わずに私の目を見る。


「あなたが手から火を出す所」


 私も負けじと睨み返す。


「そう恐い顔すんなよ」


 篤志は表情を普段の笑顔に戻し、おもむろに指を上に向ける。すると、指先に炎が灯った。


 …やっぱり、超能力者なのね。


「別に隠してた訳じゃないんだぜ? ただ普段の学校生活では必要無いってだけ」


 篤志は炎を消し、にやりと笑って言葉を続けた。


「それに、お前だってそうだろ?」


 「…っ!?」


 …私の事がバレていたっていうの? それも私が彼の超能力に気づく前から。


「そんなに驚くなよ。分からないようにしてるつもりかもしれないけど、分かるんだ」


「何の話…?」


「ここまで来てとぼけるなよ。椅子に座ったままじゃあと数センチ届かない落ちた消しゴムを拾う時、よく“念動力”使ってるよな。何度か見て確信したよ。まあ、届かない時のもどかしさは俺にも分かるぜ」


 あんな下らない事に使うんじゃなかったわね…。


「普通の人なら超能力だとは思わないだろうけど、俺自信が超能力者だしな。ま、席順がお前の後ろってのも気づいた大きな理由だけどな」


 私はひとつ大きな溜息を吐いた。


 …そこまで言われたら認めるしかないじゃない。


「そうよ。確かに私は“念動力”が使えるわ」


 篤志はそれを聞くと、顎に手を当てて考えるような素振りを見せた。


「折角の機会だ。話しておくよ。皐月、恭子と仲良かったよな」


「ええ…」


 …どうして彼女の名前が出てくるのかしら。


「アイツも多分超能力者だ」


「はぁ?」


 …そんなはず無いわ。いつも一緒にいたけど、そんな様子は見せていないもの。


「気づかなかったか? アイツの感情次第で教室の空気が一変していた」


「……!? 冗談でしょ? あんなの性格の問題じゃない!」


「いや、性格だけとは思えないんだよなぁ。あの影響力は異常だよ。まあ、本人が意識してやってたのかは知らないけどな」


「……」


 私が黙っていると、篤志は続けた。


「それと、気づいてるか? 圭介と恭子が突然いなくなった理由!」


「……!? ええ…、悲しいわ」


 誰に何されたのか知らないけど、私に相談もしないで行ってしまうなんてね…。


「俺はあの二人を追おうと思う。気づいたって事は手紙も来たんだよな?」


「手紙?」


 …何を言っているの? 頭が混乱してきたわ。一旦整理しましょう。


 駆け落ち―――。


 二人を追う――。


 手紙―――――。


 ―――!! まさか、篤志は、私と逃避行をしようと言うの!?


 篤志は真剣な表情になって言った。


「お前に手伝って欲しいんだ。今日の放課後、駅前の喫茶店で落ち合おう」


 ―――!! 今日決行するの!? 何から逃げるのよ。まだ心の準備が…。やだ、体が熱くなってきたわ。


「あの、気持ちは嬉しいけど、私達まだ学生だし、まだ立ち向かう機会はあるはずよ…。第一、まだそういう関係じゃないでしょう?」


 私の言葉の後、一瞬の間を置いて篤志は言った。


「…はぁ? お前何言ってんだ?」

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