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《完結》氷の侯爵令息 あなたが子供はいらないと言ったから  作者: ヴァンドール


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4/16

4話(お義姉様にばれてしまいました)

 私は一人で食事を始めた。

 すると、しばらくして食堂の扉が再び開く音がした。


「失礼いたします」


 入ってきたのは執事のエリックさんだった。

 その後ろには、腕を組んだお義姉様の姿もある。どうしてお義姉様が?


「エリック。アナスタシアの前で、あなたに聞きたいことがあるの」


「何でございましょうか」


 エリックさんは一瞬だけ私の方を見て、すぐに視線を外した。嫌な予感がするのは気のせいかしら?


「この子、毎日のように教会だの何だのと出歩いているでしょう? 家のことは使用人任せ。弟の妻として、どう思う?」


「それは……」


 エリックさんは言葉が続かない。

 明らかに困っている。私は慌てて口を挟んだ。


「お義姉様、別に私はやましいことなどしていません」


 けれど、エリックさんがそれを遮り、はっきりと言ってしまった。


「奥様は、遊び歩いておられるわけではございません」


 お義姉様の眉が、ぴくりと動く。


「それはどういう意味かしら?」


「奥様は、教会に行き、写本と挿絵のお仕事をされております。そして、その対価としていただく礼金は、すべてこの家のために使われています」


 まずいわ。私は思わず立ち上がりそうになったが、言葉が出なかった。


「は? なんなの? どういうつもりかしら」


 お義姉様が、信じられないものを見るようにエリックさんを睨んだ。


「それはお金を稼いでいるということかしら?」


「はい。王宮からの手当てだけでは不足する分、使用人たちの給金、屋敷の維持費、社交に必要な出費、それらを奥様が補ってくださっています」


 エリックさんは私に向かい、一礼した。


「本来、旦那様がお背負いになるべき部分を、奥様は何も言わずに、この私に口止めまでして働かれています」


 食堂は、しんと静まりかえった。


 お義姉様は、しばらく何も言わなかった。

 それから、私の方をゆっくりと見た。


「あなた……」


「は、はい」


「それ、本当なの?」


 私は一瞬迷った。でも、ここまで来て誤魔化しはきかない。私は頷いた。


「はい。でも、内緒にしていただきたいんです。

だって、旦那様のプライドを傷つけたくありませんので……」


 お義姉様は、額に手を当てた。


「あなた、本当に、どうしようもないわね」


「す、すみません」


「謝るところじゃないでしょう!」


 声を荒げたあと、お義姉様は大きなため息をついた。


「弟はね、昔から不器用なのよ。いざとなれば実家を頼ればいいのに……きっとそんなこともできないと、だからこんなに働いているのかもしれないわ」


 そして、私をまっすぐ見る。


「でもそれを、あなたが一人で支えているなんて、私は知らなかった。きっとアランは自分の働きだけで、何とかなっていると思っているはずよ」


 エリックさんが、申し訳なさそうに頭を下げる。


「奥様に口止めされていたので、旦那様に足りているのか聞かれる度に、大丈夫だと答えていました」


「あの子はあまりお金のことは分からないから、本当に自分の給料だけで足りていると信じているのでしょうね」


 お義姉様は私に向かって、怒り出した。


「自分だけ満足していればいいわけ? 全部一人で抱え込むのはやめなさい。それ、優しさじゃなくて、ただの自己犠牲よ」


 私は何も言えなかった。

 お義姉様はそれだけ言うと、食堂を出て行った。


 残された私は、胸の奥が少しだけ、ちくりと痛むのを感じながら、冷めかけたお料理をそっと口に運んだ。


 私は、ただ支えたいだけなのに。

 それが、そんなにおかしなことなのかしら。


「奥様、本当に申し訳ありませんでした。つい出過ぎた真似をしてしまいました」


「いいのよ。私も悪かったの。気にしないでちょうだい」

 

 エリックさんは頭を下げて出ていった。


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