1話(お義姉様は疑っている)
ふたりを引き裂くものがあるとしたらそれは《死》だけだと思っていた。いや、そう思いたかっただけなのかもしれない。
「あーやめた、やめた! そんなの全てわたくしの勘違い!」
思わず大きな声で叫んでしまった。
「お義姉様、どうなさったのですか?」
あら、見られたくない相手に見られてしまったわ。
「あなた、間違ってもこのわたくしを可哀想だなんて思わないでよね。別にリチャード様の浮気の一つや二つどうってことはなくてよ」
「はい。もちろん承知しております。リチャード様が、お義姉様を一番に愛されているのは存じ上げていますから」
「あ、あら、わかっているじゃない。コホッ! それよりアランは?」
「はい。アラン様は今日も王宮の方にお泊りだそうです」
「弟ったら、あなたに会いたくなくて、仕事にかこつけているのよきっと」
「やはりそうですよね。なんだか私の存在がご迷惑をおかけしているみたいで……申し訳ありません」
「別にわたくしに謝られても仕方なくってよ」
「そうですよね。では、私これからいつもの教会へ行って参ります」
「まったく、また教会? 本当に何をやっているんだか、あなたもよくわからない人ね」
「いえいえ、私は何もやましいことなどしていませんので。では、行って参ります」
そう言って彼女は出掛けたけれど、よく飽きずに教会へ通っているわね。
わたくし、イライザ・ホワイトはホワイト侯爵家の長女。といってもすぐ上にお兄様がいるので長子ではない。
お兄様や両親とは折り合いが悪かったので、弟のアランがレスター伯爵家の次女アナスタシアと結婚することになり、ここでわたくしも一緒に暮らすことにした。
もちろん、この屋敷を買うための資金はわたくしに与えられた持参金の中から少し出している。
次男のアランは王宮に勤めながら生活を賄っているが、王宮からのお給金だけでは貴族の生活を維持するのはきついはずだ。
まあ、いざとなれば実家の侯爵家に言えばなんとかしてくれるでしょう。
彼の結婚は王宮で働く上司からの紹介だったが、あの二人を見ていると、どうもあまり上手くいっているようには感じない。
結婚して半年ほど過ぎたがどう見てもすれ違いばかりの様子だ。
まあ、小姑のわたくしが言うのもおかしな話だが、夫婦の会話らしいものもほとんど見られない。
もう少ししたらわたくしも結婚をしてここを去るつもりだが、婚約者である同じ侯爵家嫡男のリチャード様が最近になって、他の貴族女性にご執心らしいと噂になっている。
あれほど『イライザ、君以外の女性は愛せない』なんて言っていたくせに、まったく、どうしたものか。
男とはなんて勝手なのかしらと思わずため息が出た。
それはそうと、弟の結婚相手のアナスタシアは不思議な子だった。
普通、あれほどアランにぞんざいに扱われたら嫌味の一言も出そうなものだが全くそれがない。寧ろこのすれ違いを自分のせいだと思っているようだ。
それに、その割には元気よく毎日のように教会へ通っている。
もしかしたら教会に誰か慕っている男性でもいるのかもしれない。
今度、弟にそれとなく伝えてみなくては。




