行方不明の娘が見つかった
「何だって、サーシャが見つかっただと」
「サーシャが……あっ、あっ……」
「父さん、母さん……サーシャがまた僕達の所に?早く行こう」
慌てて3人屋敷を出る。向かう先は『サーシャ』と言う人の所だ。一番上の兄は4歳年上で今年22歳となる。半年前に婚約者と結婚し王都で暮らしているのだった。その長兄からの手紙に王都でサーシャが見つかったと書いてあった。
「………………」
「あの……エリクシアお嬢様」
「ふふっ、いいのよ。だって……本当の家族が見つかったのだから」
「でも、エリクシアお嬢様……明後日は……」
「いいのよ。今日はサーシャ様が見つかったお祝いに変更よ」
「そんな……エリクシアお嬢様の……明後日は」
『エリクシアお嬢様のお誕生日ではないですか』
「そうね。でもね、養子の私よりも本当の家族の方が大切よ。だから……準備の内容を変えてもらっていいかしら、私は……私は……大丈夫よ。元の生活に戻るだけだから」
「さて、皆様お世話になりました」
「待ってください。エリクシアお嬢様、何も今日……家を出る必要はないのではないかと」
「そう?だって本物の娘がくるのですよ。他所者の私がいたらサーシャ様も悲しむわ。それに遅かれ早かれ屋敷を出る事になるわ。お父様達の私に対する態度や思いが変わるのを見たくないのよ」
「エリクシアお嬢様」
「まずは、セス。家族籍を抜ける手続きをしたいわ。書類を作成して、ミアは……申し訳ないのだけど荷造りを手伝って」
「そんな……エリクシアお嬢様。何処に行くのですか?私も付いて行きます」
「ありがとうね。でも……ミアはここにいた方が幸せよ。大丈夫よ。こんな日が来るかと思って準備してたのよ」
「準備?」
「えぇ、皆から家事など教わっていたのは、使用人としてきちんと生きていけるようにとね」
「そんな……エリクシアお嬢様」
「さあ、急いで。この部屋も私がいた痕跡を残さないように掃除よ。私の私物は……物置にでも入れて、そのうち処分してね」
「坊ちゃん達も悲しみますわ」
「ええ、とても大切にしてくれましたから。孤児の私にこんな夢の様な家族を与えてくれたのよ。大丈夫よ、私の事は忘れるから、家中にある、私の姿が描いてある絵も撤去よ。これからは本当の娘との思い出が増えるのだから。もしかしたら王都で家族水入らずで過ごすのかしら、いつ戻るかはわからないけど、急いで片付けてね。さあ、仕事よ。時間がないから頑張ってね」
「さて……私の荷物は大丈夫ね。直ぐにでも行ける」
窓の外は夕焼けが綺麗だった。
私はエリクシア、5歳の時にこの屋敷に養子として迎えられた。元々は、この屋敷にも同じ年の女の子がいるはずだった。それが『サーシャ』だ。サーシャは1歳になろうとしていた頃に乳母がサーシャを連れていなくなったそうだ。その乳母は屋敷の主人であった父に想いを寄せており、妻を愛してやまない父が手に入らないとわかり、父の血を引くサーシャを連れ去ったようだ。その後の捜索も虚しくサーシャは不明のままとなる。それに比べて私、エリクシアは孤児として3歳から教会で過ごしてきた。教会に引き取られる前の生活は覚えていない。神父さんからはドアの前に置き去りにされていたとしか教えられていなかった。突然、引き取り手が見つかったと言われて会ったのは綺麗な服を着た夫婦であった。それが今の両親だ。養子となる決め手は色であった。いなくなったサーシャと同じ色だったから。教会では大切に育ててもらった。そして私は良い家族に恵まれるようにと教会の配慮で置き去りの子ではなく、早くに両親を事故でなくした身寄りのない子のエリクシアとして登録していた。
最初は戸惑っていたが両親と兄達の優しさでエリクシアは素敵な家族の元で過ごす事ができた。そして5年後の10歳の時に思ったのだ。本当の娘が戻ったらどうなるのかと。その頃は本が好きで小説も読む事があった。時折、その小説にはいなくなった家族が再会し幸せになる話や、本当の家族が戻り蔑ろにされる話もあったのだ。もちろん、本当の娘と養子となった女の子も仲良く暮らしていく話もあった。エリクシアは賢かった。最悪なシナリオにならない為にはどうすべきかを。
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