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6 謁見の間

レティーナは、家族と一緒に王宮へと向かうための馬車に乗り込んだ。

外の風景がどんどん変わり、彼女の心の中に不安と期待が入り混じっていた。


王宮へ行くこと自体は、大きな名誉であることは理解していたが、心の中ではどうしても胸が痛んだ。

本当に名誉なことなの?


家族と引き離され、レティーナだけが王宮に引き取られる。そのことに不安を感じつつも、彼女はただ黙って座っていた。


国王の命令で、アニエスの「スペア」として王宮に住むことになったのだ。

国王は、アニエスが危険な状況に陥ることを懸念しており、そのため、万が一のことを考えてレティーナを「スペア」として配置したという。

スペアとしての王宮での生活がどういうものになるのか、レティーナには全く予測がつかなかった。




馬車が王宮の巨大な門をくぐり抜けると、レティーナはその圧倒的な存在感に息を呑んだ。


「ここが……王宮。」


扉が開くと、レティーナは新しい生活が始まることに対する戸惑いを感じていた。


が、その時、目の前に現れたのは――。


「まあ、あなたが私のスペアなのね!」


廊下で出会ったアニエスの声は明るく、まるで邪気がなく軽やかだ。その目には悪意はない。

どこまでも無邪気で、純粋な善良さが漂っていた。


父である公爵が舌打ちでもしそうな顔をしている。

母は忌々しそうにアニエスを睨んでいる。アニエスの傍らにいた子爵夫妻は誇らしげに笑っていた。


「よろしくね、レティーナ様」


アニエスはにっこりと笑った。

アニエスにとって、これはただの挨拶であり、彼女にとって特別な魂胆があるわけではなかった。

だからこそ、たちが悪い。

レティーナは不意に投げつけられた「スペア」という言葉に、胸にナイフが刺さったような思いをした。



アニエスの金色の髪が光を反射し、まるで天使のように見えた。

その姿に、レティーナは少し驚いたが、すぐに気を取り直して挨拶を返した。


「こちらこそ、よろしくお願いいたします、アニエス様」


レティーナはぎこちなく答えた。

心の中では、アニエスに何か恐ろしいものを感じていた。


この人、本当に優しいのだろうか。

心の中でそう思いながらも公爵に促されてその場を去った。




レティーナたちは謁見の間に案内された。


玉座の前まで、アニエスとレティーナが並んで歩く。

注目を集めたのはアニエスだった。


彼女は無邪気な笑顔で周囲を見まわし、楽しげに玉座まで歩みを進めた。

その姿は、まるで太陽のように明るく、誰もが彼女に視線を奪われていた。


二人が国王の前に立つと、国王はアニエスを見つめながら静かに口を開いた。



「アニエス嬢、君の役目は、この国の未来を左右する。

君が17歳の誕生日を迎えたその翌年、国を守るための儀式が行われる。そこで君は、我が国を救う力を発揮することになる。

それまでは、君を守ることを最優先にする。君の安全を守るために、あらゆる手段を講じることを約束しよう。グラム子爵夫妻も安心して欲しい」



アニエスは元気よくうなずき、笑顔を浮かべながら答える。



「儀式ですね。わかりました! きっと大丈夫です!」



その無邪気な言葉に、国王も少しだけ柔らかな表情を見せる。しかし、すぐに表情を引き締めると、次に視線をレティーナに向けた。



「レティーナ、お前はアニエスのスペアだ。お前の出番があるかどうかわからない。だが、万が一の事態に備えることは重要だ。

アニエスに危険が迫る時は、その任はお前が代われ。

我が国で、不正確な星印を持つ者が何らかの力を発揮することは考えられない。よって、お前の任務はそれだけだ。不測の事態に備えて、お前もここに呼ばれたのだ」



レティーナはその言葉にうなずいたが、胸の奥で酷く空しく感じられた。周囲の視線は引き続きアニエスに集まり、レティーナはその影に隠れるようだった。


再び国王が話を続ける。



「アニエス嬢、儀式の準備は着々と進められている。だが、それまで2年と少しあるのだ。あまり深刻にならず、王宮で楽しくすごせばよい」


アニエスはにこやかに笑いながら答える。


「はいそうします! 私には女神様のご加護があるので、大丈夫ですよね!」



アニエスの言葉や態度に周囲はすっかり心を奪わた。

国王はアニエスに微笑みかけ、少し間をおいて、謁見の間全体を見た。



「我が息子、王太子であるルシアンは、肩に繁栄の印を持っている。繁栄の印は、ただの印ではない。この印がある限り、国が栄え続けるのだ。

繁栄の印を持つ者が、星印を持つ娘と結びつけば、女神の力により、国は繁栄し安全を保つことができる」



国王の目は、すでに決まったかのように、アニエスに向けられた。


「もちろん、まだ星印の聖女が二人のうちどちらか確定しているわけではない。だが、現時点では、アニエス嬢が星印の聖女だと考えている」


国王は、アニエスに頷いた後、レティーナに視線を移し、淡々と続けた。


「レティーナ嬢、お前も一応、ルシアンの妃候補の一人だ。ただ、可能性は極めて低い。その日を迎えるまで何が起こるかわからないから、可能性は0ではないと心得よ」



国王は話を終え、謁見の間から退室した。

他の貴族より先に、レティーナとアニエスも退室した。

別れ際に、アニエスは笑顔で言った。


「2年後、私は国を守る儀式をするのね! もし私に足りないところがあれば、レティーナ様が助けてくださるから安心だわ」


彼女は純粋に言っているのだろうが、その言葉は、まるでレティーナがアニエスの補佐になることが決まっているかのような口ぶりだった。


レティーナは、少しだけ息を呑み、その後、静かにうなずくしかなかった。




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