↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
29/31

29 悪夢・神官長・王宮使用人

◇神官長の悪夢


目を開けると、神殿の薄暗い廊下に立っていた。だが、すぐに違和感を覚える。全てが異なって見える。



神官長は驚き、身震いしながらその身体を見つめた。自分の手が、レティーナの白く細い手であることに気づいた。

そっと、手の甲を見ると、欠けた星印が刻まれていた。


「私は……レティーナになっているのか?」


周囲を見渡せば、神殿の広間でアニエスが神官長に褒められている。アニエスは無邪気に笑い、その笑顔に神官長はすぐに答えた。


「素晴らしい、アニエス嬢。神の力を受け継ぐ者としてふさわしい。」


「ありがとうございます、神官長様」


その言葉を受けて、神官長である自分はアニエスに微笑んで答えるが、彼の視線はアニエスにだけ注がれ、レティーナに向けられることはなかった。


「お前は、ただのスペアだ。」


「アニエス嬢がいなければ、お前に存在価値などない。」


その冷酷な言葉が、耳に鳴り響く。自分がかつてレティーナに向けた言葉が、今、鏡のように神官長の耳に届く。神官長は震えながら、その無慈悲さを心の底から痛感する。


「ああ……私は……」


アニエスを優先する神官長の冷酷さ、レティーナの心に巣くう絶望と孤独。

無視され、蔑まれ、ただの道具として扱われてきた日々。

彼女がどれだけ絶望的な世界で生きていたのか、心の底から理解した。


「こんなことをしていたのか、私は。きっと、私の所業を女神様もご覧になっていたはずだ」


その瞬間、全ての光景が崩れ去るように、目の前の世界が歪み、目が覚めた。元の自分の姿に戻っていた。


◆


夢から覚めた世界も地獄だった。

あちこちから炎が噴き出し、業火が町を飲み込んでいく。

彼はただ無力で立ち尽くし、破壊された街を見つめる。


「どうして、どうしてこんなことに……」


火の粉が舞い散る中、絶叫する神官長。


「これは、私たちが引き起こした地獄だ……!」


それは、神官長がこれまで見たことのない、恐ろしい光景だった。




◇王宮の使用人の悪夢



目を覚ましたのは、固いベッドの上だった。見覚えのある部屋――だが、そこにいるのは自分ではない。


いや、自分なのだ。

鏡に映るのは、似合わないドレスを着た、少女。寂しい目でこちらを見詰めている。


「私が……レティーナ様になっている?」


使用人たちの誰もが、今、レティーナと同じ経験をしていた。


誰も目を合わせようともしない。どんな理不尽も呑み込むしかない。

それが、彼らが見下していた少女の“現実”だった。


◆


「何をしているの。さっさと通しなさいよ」


アニエスの声が響く。ドレスの裾を揺らし、笑顔でお茶会へ向かう彼女の隣を、使用人が従っていた。


レティーナの姿をした“彼ら”は、部屋の隅で立ち尽くしている。


「あなたの名前は名簿にないわ」


冷たい笑み。見下す目線。

彼らは見覚えがあった。――自分たちが、レティーナに向けてきた態度だ。


(こんな目で……私たちは、レティーナ様を見ていたの?)

(我らはなんということをしていたのだ)


呼ばれることのない名前。

用意されていない椅子。

小さな「無視」の積み重ねが、どれほど深い孤独を生んでいたのだ。



彼らは感じる。

誰も来ない部屋の冷たさ。

話しかけても無視される孤独。

聞こえよがしにされる悪口の痛み。


(……誰か、私に気づいてくれないかな……)


思わずつぶやいた声は、壁に吸い込まれるように消えた。


(レティーナ様は、何度も、こんなふうに……)



◆



そして、彼、彼女たちは目を覚ました。


儀式は失敗し、国は炎に包まれていた。

崩れ落ちる家々。逃げ惑う人々。

阿鼻叫喚の地獄絵図だった。


儀式を失敗した原因はわかっている。私たちがみんなで聖女を虐めたからだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。