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27 公爵夫妻は儀式会場で目を覚ました

公爵夫人が目を覚ました場所は、儀式が行われていた会場の観覧席だった。


しかし、そこには聖なる光も、祝福の気配もなかった。

辺りは薄暗く、時折吹く風が灰を巻き上げ、黒く焦げた石畳がむき出しになっている。


「……ここは……アニエスが儀式を失敗した…あと……? レティーナは儀式をしなかったのね」


ふらりと立ち上がった公爵夫人は、今目覚めたばかりの夫を見つけた。


「あなたもレティーナの夢を見たの?」

「ああ、酷いものだった。もう少しやりようがあったのにな」


儀式場の祭壇は崩れ落ち、空は血のように赤かった。

公爵と夫人はあたりを見回し、互いに言葉を失った。


周囲には、そこかしこから、すすり泣くような呻き声が聞こえてくる。

国王の、王妃の、神官長の声が聞こえる。沢山の人たちの誰かに謝罪する声が聞こえる。

自分たちと同じように、レティーナの夢をみているのかもしれない。



だが、そのレティーナの姿は、どこにもなかった。

二人で王宮の方に行ってみると、そこは――燃えていた。


王宮が崩れ落ち、人々の叫びが、焼け爛れる建物の中から響いてくる。


「助けて……誰か……!」


「水を! 水を! 熱い――!」


逃げ惑う人々の群れ。その誰もが、レティーナと同じように無視され、拒まれ、見捨てられた者たちに見えた。


「これが……これが、みなで聖女を虐げた国の末路……!」


夫人が膝をつき、がくがくと肩を震わせる。


「あの子が“国を救いたくない”と告げたとき、私たちは何も分かっていなかった」


レティーナの言葉が、思い出される。


『わたしは、国なんて、救いたくない』


その理由をやっと理解した今。

国が滅亡したのは、自分たちの愚かさのせいだと気が付いた。


「あれじゃあ……誰だって救いたいなんて、思えない……!」


ここにあるのは、荒廃した世界。ここで目覚めた者は、この世界で生きていくのだ。





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