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18 したいことリスト☆綺麗なドレスをプレゼントされたい ──それを着て素敵な王子様とダンスを踊る

レティーナの部屋の扉がノックされた。

「どうぞ」と言うと、侍従が扉を開け、ルシアンが大きな箱を抱えて入って来た、レティーナは、ピンク色のリボンのかかったその箱を渡され声をあげた。


「これ……ルーが?」


ルシアンは微笑んだ。


「リストの二つ目。 “素敵なドレスをプレゼントされたら、どんな気分になるか”って。それを確かめてみよう。これは王妃からだ」


箱を開けると、そこにはレティーナの髪に似合う、淡く透き通った黄色のドレスが薄布に丁寧に包まれていた。陽光を纏うようなやさしい色合いで、胸元には繊細な刺繍があしらわれている。


「王妃様が……これを、私に?」


レティーナは戸惑いながらも、少しずつ顔を綻ばせた。


いつも実家から送られてくる、ただ公爵家の体裁を保つためだけに着せられる、似合わない高級ドレスとは明らかに違った。

自分に似合うように選ばれたドレスを贈られたのは初めてだ。

王妃様からと言われたが、ルシアンから贈られたものであることは明らかだった。


触れてみると指先から温もりを感じ、次第に心まで温かくなっていった。


「こんなに綺麗なドレス、初めてです! ありがとうございます。ルー」


いつまでも目を瞑ってドレスを抱きしめているレティーナに、ルシアンは慌てて言った。


「あ、嫌、それは王妃から……参ったな。王妃からということにしといてくれ」とルシアンは頭をかきながら言った。


さすがに婚約者候補である段階で、片方にだけドレスを贈るのはまずいのだろう、とレティーナは察して「王妃様にお礼をお伝えください」

とニッコリ笑った。


「着替えておいで。着替え終わったら、隣の部屋に来てくれるかな?」



彼女が更衣室に入ると、ルシアンはそっと部屋を出た。

そして着替え終えたレティーナが隣の部屋に行くと、彼女の新しい部屋——その隣にある広い空き部屋が変化していた。


部屋に添って無数の燭台が配置され、床には赤い絨毯が広がっている。

あけ放たれた窓からバイオリンの音が流れ、ルシアンが中央に立っていた。


「ここは……」


「そのドレス、よく似合っている。今日は、君のための舞踏会だ。二人きりの舞踏会と言いたいところだが、護衛たちのことは、見て見ぬふりをしてくれ」


レティーナが見回すと、部屋の周りをぐるりと囲んでいる護衛騎士たちが頭を下げた。


微笑むことで了承を示し、一歩を踏み出すと、ルシアンが彼女に手を差し出した。


「エルネスト公爵令嬢。僕と一曲踊ってくださいますか?」


レティーナの瞳が潤んで、でも笑って、静かにその手を取った。


「……喜んで、ルシアン王太子殿下」


そして音楽に流れに乗って、ふたりは軽やかに踊り出す。


「この音楽はどこから聞こえてくるのかしら?」


「弟が自分の部屋のバルコニーで弾いている。今夜の計画を話すと喜んで協力してくれた」


「私のために弾いて下さっているのね。嬉しいわ」


「さあ、弟のことはいいから、僕に気を向けてくれる?」



素敵な王子様と二人で踊った、夢のような舞踏会。

この夜のことを、きっと忘れない。


そう心に決めて、レティーナは間近で踊るルシアンを見上げ微笑んだ。





【国王の沈黙】


どこからか、ヴァイオリンの音が聞こえてくる。聖印の確認とその報告を終えた神官たちが退室した。

そのあと、会議室に残されたのは、王と忠臣と呼ばれる数人の重臣だけだった。


――隠居していた前神官長が、国王の前で跪いた。


「二人の星印を見て、そなたはどう感じた?」


低く問われたその言葉に、前神官長が深く頭を下げた。


「はい、陛下。エルネスト公爵令嬢の星印には、生命力のようなものを感じました。

まるで、息をしているように、力の揺らぎが見られます。

対して、グラム子爵令嬢の星印には、変化が見られません。まるで死んでいるように感じました」


王は黙ったまま、掌を組み、目を伏せる。


「アニエスが選ばれたあの日、たしかに星印は輝いていた……。あれを生命力と言わずしてなんと言おう。我らすべてがそれを見た。では……」


国王はいったん言葉を切って黙り込んだ後、また続けた。


「では、アニエスの星印から、あの光が失われたと、そう、そなたは言いたいのか」


前神官長は答えない。ただ、静かに、頭を下げた。


重い沈黙が降りた。


やがて王は、ぽつりと呟く。


「頭を上げてくれ――決めるには、まだ早い。証が足りぬ」


そしてそれ以上、何も語らなかった。


けれど、彼の眼差しはこの日を境に、アニエスだけではなく“もう一人の娘”にも向きはじめる。


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