表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
志願制ヒーローたち  作者: 海月里ほとり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

96/247

96

「再度隠蔽判定か?」

「いいえ」

 ロクオが尋ね、ジジクは首を振る。

「友軍攻撃判定です」

「は?」

 俺の口から間抜けな声が漏れた。予想もしていない言葉だった。見ている候補生たちからも戸惑いの声を上がる。

「わかった。裏表は?」

「裏で」

 ロクオはコインを受け取り、宙に投げる。コインは鋭い放物線を描き、机の上に落ちた。チャリンと高い音を立て、軽く跳ねる。コインは表面を上にして止まる。

「判定は失敗だな」

「ありゃあ、こいつは痛いな」

 ジジクは頭を掻き、現れた駒のうちの一つにダメージシールを貼り付け、もう片方の駒を裏返す。そこには変身駒であることを示す赤いマークがしるされていた。ジジクはその駒をまがまがしい怪物の駒と差し替える。

「ユウグンコウゲキハンテイ?」

 ライアがたどたどしく聞きなれぬ言葉を口にするのが聞こえた。俺でさえも長いこと聞いていなかった言葉だ。ヒーローチェスに詳しくないならなんのことかまるで分らないだろう。

「近くの味方に攻撃するかどうかをチェックする判定だよ。ほら、今の駒、バケモンだったんだよ。行動させるときにコイン投げをしないといけないんだ。それが裏切って見方を攻撃したってことなんだけど」

 ライアの問いに、ヤカイが答えた。ヤカイはそれなりにヒーローチェスに詳しいらしい。ライアが再び首をかしげる。

「でも、なんでそんなことを?」

「バケモンは点数に対する戦力の効率がいいんだ。でも、久しぶりに見たな」

「そうなのか? 効率がいいならよく使われそうだけれども」

「不安定すぎるんだよ。だって、今回もこれでジジクの伏せヒーローの一人がやられちまったからな」

 ヤカイが怪訝そうな顔をした。俺も同じことを考えていた。怪物を使う戦術はひどく昔に流行ったが、次第に安定性の低さが目立つようになり、今では完全にすたれてしまっていた。

「それじゃあ、私の手番は飛ばされ、班長殿の手番となりますな」

 ジジクが笑う。俺は混乱を振り払い、駒を取り上げる。ジジクがどのような意図を持っているにせよ、今の状況は俺に有利だ。先手を取れば怪物は倒せるし、手負いのヒーローもさほど損害を出さずに落とせるだろう。

 俺は中堅ヒーローで怪物の駒を突く。ジジクが怪物の駒にダメージシールを貼る。

「もう一度、友軍攻撃判定を、また裏で」

 ロクオが頷き、コインを投げる。今度は裏だ。

「お、成功ですな。では、攻撃を」

「通しで」

 ジジクが俺のヒーローの駒を突く。だが、問題ない。まだ一撃は耐える。俺はヒーローにダメージシールを貼る。

「じゃあ、こっちの手番だな」

「いいえ、その前にもう一度友軍攻撃判定を行います。表で」

「は?」

 俺があっけにとられる間に、ジジクがコインを拾い、ロクオに押し付ける。ロクオも戸惑いながらコインを投げる。表。

「ああ、良かった、それでは、もう一体の化け物で班長のヒーローに攻撃を」

 ジジクは傷ついている方の駒を裏返す。そこには赤いシール。俺は目を見開く。

「ダブル怪物システムだと!?」

 もう一体の化け物が姿を現す。化け物の触手が俺のヒーローを切り裂いた。



「負けたよ」

 俺はため息交じりに声を吐き出した。目の前にあるのは惨憺たる盤面だった。ジジクのダブル怪物システムに不意を打たれ、俺のヒーローは壊滅した。完全な敗北だった。

 悔しささえわかなかった。

「どうも、お粗末様」

 ジジクが駒を片付けながら、首を振った。

「お前、かなりやりこんでるだろ」

「まあ、そこそこくらいですなあ」

 嘘をつけ、と心の中で毒づく。怪物二体採用なんてリスキーな手を「そこそこ」やっているだけの奴が実行するはずがない。そうとうにやりこんでいるのは間違いなかった。

「負けたよ、負け」

 俺は伸びをしながら繰り返した。視界の端にハングラが不機嫌そうな顔をしているのが見えた。俺は立ち上がり、ハングラの肩を叩いた。

「まあ、ジジクからしてみりゃ、お前たちの勝負は本当に子供の遊びかもな」

「はあ」

 ハングラの不満そうな顔は治らない。まだ馬鹿にされたことを気にしているのだろう。無理もない。ハングラにはジジクのとった戦術がどれほど高度だったか解っていないのだから。

 俺は駒を片づける手を止めた。

「なあ、ジジク」

「なんでございましょうか、班長殿」

 相変わらず腹の立つ慇懃な口調でジジクが答える。

「よかったら、感想戦といかないか」

「感想戦ですか? 今の悲惨な試合の? 貴方がみじめになるだけでは?」

「いいんだよ、多分みんな知りたがっているだろうからよ」

 なあ、みんな。と俺は辺りの候補生たちに呼びかけた。戸惑い交じりに頷く声の中に、はっきりした声が響いた。

「俺、知りたいです」

 ハングラだった。ハングラはジジクを睨みながら、勢いよく盤の傍らに座った。

「俺も知りたいですね」

 盤をはさんで反対側にサルワが座った。

「だそうだけど」

「まあ、班長殿がよいなら、いくらでもお相手いたしますよ」

 ジジクは退屈そうに肩を竦め、駒をケースから取り出して盤に並べ始めた。

 

【つづく】

 



 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ