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ミイヤはコチテの目を見た。
「そうなんだ。だったら、むしろ」
ミイヤの口が小さく動く。その口の中で呟かれた言葉の続きは店の喧騒にかき消されてよく聞き取れなかった。
コチテが首を傾げる。ミイヤは頷いてから、ようやく俺たちに聞こえる声を発した。
「別に、訓練や座学でつまづいてるわけじゃないんだよ」
声はゆっくりとしたものだった。慎重に考えながら言葉を選んでいるようだった。
「じゃあ、なにが上手くいっていないんだ?」
コチテの問いに、ミイヤは少し考える。言ってもいいことを探している様子に「ううん」と唸った。
唸り声は店内に満ちた明るいざわめきに薄れて消えた。
ミイヤはやがて決心したように口を開く。
「動機、なのかなあ」
「動機?」
「そう、なんでヒーローになったかっていうところ」
ミイヤは言いながら自分でも首を傾げた。どうやら自分の言葉にそこまで自信があるわけではないらしい。
「訓練所で、そんなことが問題になるのか?」
思わず口を挟んでしまった。ヒーローになるのに理由なんて、重要なのだろうか?
「別にそれを具体的に聞かれるってわけじゃないんだけどね。どうしてもそういうのを意識させられることが多くて、うん、それで、悩んでるみたい」
「フーカの動機って?」
コチテが尋ねる。少し険しい顔をしている。コチテにとっては重要な質問だろう。
遠くの席で盛り上がった団体がなにやら歓声を上げた。
ミイヤはコチテに顔を寄せた。コチテもミイヤに耳を向ける。
「復讐」
ミイヤの口がそう動くのが見えた。
「へえ」
コチテが頷く。
「立派な理由に聞こえるけどな」
「うん、それはそうなんだけどね」
「でも、ダメなの?」
「ううん、ダメというか、なんというか」
コチテはもう一度言葉を考える。
「そのままでいいのかを悩んでいるみたい」
「でも、別に悪い理由じゃないだろ」
俺は尋ねる。復讐を理由にギルマニア星人と戦うヒーローは何人もいる。少なくとも名鑑にはそう書いてある。
「悪い理由じゃない。でも、フーカの場合はそれが強すぎるんだよ」
「強い動機を持ってるのも悪いことじゃないだろう」
「そうなんだけど」
ミイヤは困ったように眉を寄せ、手元の飲み物を啜った。俺も合わせて飲み物を一口飲む。
「それに引きずられているんだよね」
ミイヤはコップに目を落としながらぽつりとそう言った。
【つづく】




