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暗闇と轟音に包まれて、世界は激しく揺れていた。
素材保管チェストは据付の頑丈なものだ。万が一中のものが爆発しても外に被害が出ないようになっている。逆もしかりだ。並みの衝撃じゃあ、中のものが揺れることさえない。そういう作りになっている。そのはずだった。
でも、その中にいても外の爆発はチェストをグラグラと揺らしていた。
俺は暗闇の中で何かにしがみついていた。柔らかくて温かな感触だった。混乱の中で、それがコチテか父さんなのだと思った。俺はそれにぎゅっとしがみついた。向こうも俺を掴み返してきた。
轟音は収まらなかった。永遠に続くように思えた。でも、永遠ではなかった。
気がつくと轟音は少しだけ小さくなっていた。耳鳴りで頭がくらくらした。誰かが俺の肩を叩いていた。
「リュウト」
誰かが俺の名前を呼んでいた。コチテだ。コチテが俺の肩を叩きながら、名前を呼んでいた。
「コチテか」
「聞こえるか」
コチテが言った。俺は耳鳴りを堪えて、耳を澄ませた。足元の方から、ごんごんと音が聞こえた。俺は俺がさかさまになっているのに気が付いた。音がしているのはチェストの蓋のようだった。
「もう大丈夫よ、出てきな」
微かな声が聞こえた。スナッチャーの声だった。俺は義腕と脚を思い切り伸ばして蓋を押し開けた。熱い空気と光がチェストに流れ込んできた。
「怪我はないみたいだね」
スナッチャーは俺たちの顔を見て笑った。俺は頷きながらチェストから転がり出た。一緒に出てきたコチテとぐったりとしたまま動かない父さんを引っ張り出す。
「これ、使いな」
そう言いながらスナッチャーは銀色の膜を俺たちに渡してきた。エンダーガードだった。その銀の膜の端はいくらか破れていた。どうやら壊れた無人機から剥ぎ取ったらしい。俺はそれを受け取って父さんに巻き付けた。
「さあ、いこう。ギルマニア星人はいなくなったけど、焼かれる前に逃げないと」
スナッチャーは床の上に視線をやった。そこには何もなかった。首を傾げる。そこで気が付く。そこに特徴的な弧状のものがぎらりと輝いた。それはギルマニア星人の刃腕だった。よく見るとそこかしらにギルマニア星人の残骸が散乱していた。
「さあ、急ごう。先導するから」
そう言って、スナッチャーは弱々しい足取りで工房の外に歩き始めた。俺は再び首を傾げた。何か忘れている気がした。
「あの、ファイヤー・エンダーさんは?」
隣でコチテが声を発した。スナッチャーは一瞬足を止めた。
「大丈夫だよ。行こう」
振り向かないままで言う。そしてまた歩き出そうとする。
「スナッチャー」
コチテはもう一度言った。強い声だった。
「早く。行くよ。悪いけど、親父さんは二人で運んでくれるかい」
スナッチャーは答えない。答えないまま、歩き出す。
俺はあたりを見渡した。燃える素材、砕けた機材、炎に包まれた工房は酷いありさまだった。俺は目をそらし、スナッチャーの背中を見た。けれども、視界の端に何か違和感を感じた。もう一度、工房を見渡す。
見慣れないものに、目が止まる。
もう一度、目を動かす。一度気が付いたら、それはいたるところに広がっていた。それは銀色の塊だった。銀色の走行の破片。燃えないその銀色は、工房中に広がっていた。
俺の息が急に荒くなる。
「スナッチャー」
今度は俺が呼びかけていた。スナッチャーは俺の声を無視して歩き続ける。
「ファイヤー・エンダーはどうなった?」
「死んだよ」
今度は、答えが返ってきた。その声は感情を押さえつけたような、ひどく低い声だった。
【つづく】




