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「私は戻ったぞ!」
ファイヤー・エンダーが叫んだ。歓声が上がる。無人機がゆっくりと二つの包みを地面に降ろす。包みに駆け寄った。
包みが自動的にゆっくりと開く。中から姿を現したのは、母さんとユイナだった。二人とも穏やかな顔で眠っている。
「大丈夫、二人とも無事だ」
ファイヤー・エンダーが言った。そこで俺は名鑑の記事を思い出した。この包みはファイヤー・エンダーのヒーローツールの一つだ。救助者を炎の熱から守るエンダーガードだ。こんな時じゃなかったら感激していたかもしれない。でも、今はそれ以上に安心が胸を満たした。母さんも、ユイナも息をしている。大きな怪我をした様子もない。
でも、そこで気がつく。
「父さんは?」
ファイヤー・エンダーが首を振った。その口は険しくへの字を描いていた。
「家を全部探したけれども、二人しか見当たらなかった」
「俺の家に、工房もあるんですけど」
「もちろん、工房も探したとも……だが」
「そんな……」
ぱちぱちと炎が燃える耳障りな音が耳に突き刺さる。くらくらとする吐き気が俺を襲う。父さんの顔が頭に浮かぶ。機械の使い方を教えてくれるときの厳しい顔が、作業しているときの真剣な顔が、俺の話を聞いてくれるときの優しい顔が。色々な父さんが頭の中でぐるぐると回る。その顔が目の前で燃える炎に包まれて消えていく。
はっ、と一つの考えが頭にひらめく。
いつも父さんはこの時間にあの秘密の部屋で作業をしていた。もしも、今日もそうだったなら……。
「工房の奥に、もう一つ部屋があるんです」
「なんだって?」
ファイヤー・エンダーが俺の顔を覗き込んだ。
「それは本当か? 見取り図にはなかったが」
俺は、口を開いたまま黙ってしまった。喉を躊躇いが痺れさせた。
言ってしまっていいのだろうか。あの部屋の秘密を。父さんはあの工房で行われてることは契約により極秘となっていると言っていた。
ファイヤー・エンダーはヒーローだ。でも、ファイヤー・エンダーはあの部屋のことを知ってもいい立場なのだろうか? どちらにしろ契約を破ることになってしまうのではないか。あの秘密が明らかになってしまったら、何が起きる? 躊躇いはぐるぐると俺の頭の中を駆け巡った。
「どうなんだい?」
ファイヤー・エンダーが尋ねてくる。躊躇いと不安は消えず、むしろどんどん大きくなる。
「あるんです」
でも、俺は頷いた。例え、何が起きたとしても、父さんがそこにいるかもしれないなら、秘密を黙っておくことはできない。それで、父さんが助かるかもしれないのなら。
「ええ、工房の奥に、もう一つの工房があるんです。父さんはそこにいるかもしれない」
俺はファイヤー・エンダーの目をしっかりと見返し、その耳に口を寄せてはっきりとそう言った。
【つづく】




