表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
志願制ヒーローたち  作者: 海月里ほとり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/247

41

「私は戻ったぞ!」

 ファイヤー・エンダーが叫んだ。歓声が上がる。無人機がゆっくりと二つの包みを地面に降ろす。包みに駆け寄った。

 包みが自動的にゆっくりと開く。中から姿を現したのは、母さんとユイナだった。二人とも穏やかな顔で眠っている。

「大丈夫、二人とも無事だ」

 ファイヤー・エンダーが言った。そこで俺は名鑑の記事を思い出した。この包みはファイヤー・エンダーのヒーローツールの一つだ。救助者を炎の熱から守るエンダーガードだ。こんな時じゃなかったら感激していたかもしれない。でも、今はそれ以上に安心が胸を満たした。母さんも、ユイナも息をしている。大きな怪我をした様子もない。

 でも、そこで気がつく。

「父さんは?」

 ファイヤー・エンダーが首を振った。その口は険しくへの字を描いていた。

「家を全部探したけれども、二人しか見当たらなかった」

「俺の家に、工房もあるんですけど」

「もちろん、工房も探したとも……だが」

「そんな……」

 ぱちぱちと炎が燃える耳障りな音が耳に突き刺さる。くらくらとする吐き気が俺を襲う。父さんの顔が頭に浮かぶ。機械の使い方を教えてくれるときの厳しい顔が、作業しているときの真剣な顔が、俺の話を聞いてくれるときの優しい顔が。色々な父さんが頭の中でぐるぐると回る。その顔が目の前で燃える炎に包まれて消えていく。

 はっ、と一つの考えが頭にひらめく。

 いつも父さんはこの時間にあの秘密の部屋で作業をしていた。もしも、今日もそうだったなら……。

「工房の奥に、もう一つ部屋があるんです」

「なんだって?」

 ファイヤー・エンダーが俺の顔を覗き込んだ。

「それは本当か? 見取り図にはなかったが」

 俺は、口を開いたまま黙ってしまった。喉を躊躇いが痺れさせた。

 言ってしまっていいのだろうか。あの部屋の秘密を。父さんはあの工房で行われてることは契約により極秘となっていると言っていた。

 ファイヤー・エンダーはヒーローだ。でも、ファイヤー・エンダーはあの部屋のことを知ってもいい立場なのだろうか? どちらにしろ契約を破ることになってしまうのではないか。あの秘密が明らかになってしまったら、何が起きる? 躊躇いはぐるぐると俺の頭の中を駆け巡った。

「どうなんだい?」

 ファイヤー・エンダーが尋ねてくる。躊躇いと不安は消えず、むしろどんどん大きくなる。 

「あるんです」

 でも、俺は頷いた。例え、何が起きたとしても、父さんがそこにいるかもしれないなら、秘密を黙っておくことはできない。それで、父さんが助かるかもしれないのなら。

「ええ、工房の奥に、もう一つの工房があるんです。父さんはそこにいるかもしれない」

 俺はファイヤー・エンダーの目をしっかりと見返し、その耳に口を寄せてはっきりとそう言った。


【つづく】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ