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「ああ、リュウちゃん! 大丈夫だったんね」
声と気配に振り返る。目に入ったのは炎に照らされたパンチパーマのシルエット。
「アカザのおばちゃん!」
そのシルエットを見て、俺は安堵の声を漏らす。アカザのおばちゃんは近所に住むおばちゃんで、俺が小さいときからよく知っているおばちゃんだった。
「ちょうど俺は出かけてて。なにがあったの?」
俺が尋ねると、アカザのおばちゃんは顔をしかめた。
「それはわかんないのよ。なんか、いきなり大きな音がして、見てみたら、燃え始めて」
「大きな音?」
そうそう、とアカザのおばちゃんは険しい顔をして炎を見つめた。
「あれは、そうね。活劇で聴くような、大きな爆発するような音だったわよ」
「爆発?」
胸騒ぎが湧きおこった。何が起きている? 目の前の火事はそうでなくても不穏だというのに、その裏になにかもっと不穏なことが蠢いている気がした。
「でも、大丈夫よ。ファイヤー・エンダーさんが来たんなら、みんなをちゃんと助けてくれるから」
「うん」
アカザのおばちゃんはそう言って俺の背中をさすった。俺は荒くなりかけていた呼吸の速度を意識して落とす。ファイヤー・エンダーが残していった数機の無人機が放水を開始する。じわじわと炎の勢いは弱まっていく。大丈夫、大丈夫だ。俺は頭の中でアカザのおばさんの言葉を繰り返す。
永遠に思えるような時間が過ぎた。アカザのおばさんは俺の背中をさすり続けてくれた。
不意に野次馬たちの間から声が上がった。俺は目を凝らす。まだ燃え続ける炎の中から人影が出てきた。銀色の人影だ。ファイヤー・エンダーだ。近くに無人機に牽引されて何かが二つ浮いている。それは大きな銀色の包みだった。
【つづく】




